ASUSの「Zenbook S 13 Flip OLED UP5302」(以下 UP5302)は、13.3型ディスプレイを搭載した2in1 PCだ。名は体を表すとはよく言ったもので、UP5302も製品名にある「Flip」「OLED」がその特徴を端的に示している。
すなわち、2in1の機構として、ディスプレイが360度開くだけでクラムシェルスタイルからスレートタブレットまでその姿が可変であることを示し、ディスプレイにはASUSがノートPCで積極的に搭載モデルを拡充している「有機EL」を採用していることを示している。
先日掲載した「ThinkPad Z13 Gen1(AMD)」のレビューでも言及しているが、超個人的事情で(そのあたりの理由はこちらから続く一連の短期レビューが大きく影響している)、とにかく軽くて、でも長い文章の入力に耐えられるキーボードを備えたノートPCを必要としている筆者にとって、UP5302もまた興味深いモデルだ。
この記事では、「文章が快適にタイプできるか否か」という超私的なポイントを評価しつつ、薄型軽量2in1 PCとしての処理能力や使い勝手を検証していく。
クラムシェル/タブレットの両用使いを実用レベルで実現
UP5302の本体サイズは幅296.7×奥行き210.55×厚さ14.9~15.3mmで、重さは公式値で約1.12kg。同じ13.3型ディスプレイを搭載したノートPCと比べ、フットプリントが比較的コンパクトに収まっている(多くのモデルで幅は290ミリ台後半から300キリ台後半)。
形状も天板にアドオン的な突起や装飾はなく、天板の表面処理のおかげか滑りもよくてカバンへの収納や取り出しがスムーズにできる。
13.3型ディスプレイ搭載モデルでも、最近は1kg前後の製品が増えてきているので、特別に軽いとは言えなくなっている。が、機構的な理由で重くなりがちな2in1 PCにもかかわらず、UP5302はそのクラムシェルスタイルモデルともいえるZenbook S 13 OLED UM5302の公式値である1.1kgとほぼ同じ軽さを実現している。
「たとえディスプレイが13.3型あるからとはいっても、1kgを超えるデバイスで、『タブレットのように使える』と言っちゃっていいの?」とは少なからず聞く意見で、何なら私自身もタブレット専用のデバイスに対しては、同じ意見の持ち主であったりする。
しかし、2in1 PCのタブレットスタイルの利用場面と、スレートタブレットの利用場面は少し異なる。仕事の現場でPCを使う場面は多々あって、時には「机のない場所」「座れない状況」でPCを使う状況にも少なからず遭遇する。
このようなときに、無理な体制でクラムシェルスタイルのノートPCを不安定に保持して使うより、スレートスタイルに移行してタブレットのように使えれば、作業効率は高く格段に快適に使える。
そんな一時避難的な状況で2in1 PCは威力を発揮する。そして、一時避難的とはいえ、軽いに越したことはない。
最近では13.3型ディスプレイ搭載モデルの2in1 PCでも1kgを切るモデルが登場しているが、1.12kgのUP5302も、片手で本体を保持した状態で長い時間使用できる(ただし、あくまでも副次的、緊急避難的な位置づけ。スレートスタイルがメインとなるならば、専用デバイスを使うべきだろう。これは、UP5302に限らず1kgを切る競合他社製品でも同様だ)。
バランスよく使えるディスプレイと解像度とキーボード
冒頭で紹介したように、ディスプレイには有機ELを採用している。使い勝手としては色彩鮮やかで明瞭な表示がメリット。ベゼル幅も左右で実測5ミリ、上が実測8ミリと狭額のおかげで、実際のサイズ以上に画面を広く感じる。
横縦比は16:10と、ノートPCで主流の16:9と比べて縦方向に長い。そして、解像度が2,880×1,800ドットと、こちらもモバイルノートPCで多いフルHD、すなわち1,920×1,080ドットと比べて格段に高精細だ。
通常、13.3型という(今となっては)小ぶりなディスプレイなので、高解像度だと表示が細かくなりすぎて視認が苦痛になることも少なくない。ただ、有機ELの特徴である「明瞭な表示」のおかげで、フォントの表示が細かくなっても、視認がある程度容認できる。
この、13.3型というサイズと2,880×1,800ドットという解像度は、奇遇にも先日レビューを掲載したThinkPad Z13 Gen1と全く同じだ。
そのときの「13.3型ディスプレイで横方向3,840ドットはさすがに細かすぎる。Z13は2,880ドットとすることで13.3型でも判読可能な表示を目指したといえる」は、UP5302でもそのまま当てはまる。有機ELを採用したディスプレイならば、この解像度で表示ズームを125%に設定しても無理なく視認できた。
冒頭で言及したノートPCに求める超私的な条件「長い文章の入力に耐えられるキーボードを備えたノートPC」についても、UP5302はキーピッチが公式値で約19.05mm、キートップサイズは実測で約15.5mm、キーストロークは公称値で約1.4mmを確保している。
また、キートップ形状は指先の形状に合わせて深さ0.2mmのくぼみを設けている。
実際にタイプすると、ストロークを十分に感じられる。ただ、感触は軽く、ぐっと押し込むとボディがわずかにしなる。ディスプレイを実測135度以上に開くと、本体後端が浮き上がる構造になっており、この状態でキーを力強くタイプすると、タイプ音がボディ内部で響いてやや大きくなるのも確認できた。
タッチバッドのサイズは130×74mmと広くとってある。パッド表面はさらりとした感触の指紋防止コーティングを施し、滑りがよく使いやすい。Zenbookの特徴でもあるASUS NumberPad 2.0を採用して、タッチパッドにテンキーを表示する機能も継承している(使うかどうかはユーザー次第)。
イマドキらしい処理能力とイマドキを超える表面温度
CPUには第12世代Intel Coreプロセッサーの「Core i7-1260P」を搭載している。Core i7-1260Pは処理能力優先のPerformance-cores(P-core)を4基、省電力を重視したEfficient-cores(E-core)を8基組み込んでいる。
P-coreはハイパースレッディングに対応しているので、CPU全体としては16スレッドを処理できる。動作クロックはベースクロックでP-coreが2.1GHz、E-Coreが1.5GHz、ターボ・ブースト利用時の最大周波数はP-coreで4.7GHz、E-Coreで3.3GHzまで上昇。Intel Smart Cache容量は合計で18MB。TDPはベースで28W、最大で64Wとなる。
グラフィックス処理にはCPU統合のIris Xe Graphicsを利用する。演算ユニットは96基で動作クロックは1.4GHz。
UP5302の処理能力に影響するシステム構成を見ていくと、試用機のシステムメモリはLPDDR5-4800を採用していた。容量は16GBで、ユーザーによる増設はできない。ストレージは容量1TBのSSDで、試用機にはMicron製「MTFDKBA1T0TFH」を搭載していた。接続バスはNVM Express 1.4(PCI Express 4.0 x4)。
製品名 | Zenbook S 13 OLED UP5302 |
---|---|
CPU | Core i7-1260P (8+8スレッド:P-core 4基+E-core 8基、動作クロック:P-core2.1GHz/4.7GHz、E-core1.5GHz/3.3GHz、L3キャッシュ容量:18MB) |
メモリ | 16GB (LPDDR5-4800) |
ストレージ | SSD 1TB(PCIe 4.0 x4 NVMe、MTFDKBA1T0TFH Micron) |
光学ドライブ | なし |
グラフィックス | Iris Xe Graphics(CPU統合) |
ディスプレイ | 13.3型 (2,880×1,800ドット)非光沢 |
ネットワーク | IEEE802.11a/b/g/n/ac/ax対応無線LAN、Bluetooth 5.1 |
サイズ / 重量 | W296.3×D209.7×H14.9~15.3mm / 約1.12kg |
OS | Windows 11 Home 64bit |
Core i7-1260Pを搭載したUP5302の処理能力を検証するため、ベンチマークテストのPCMark 10、3DMark Time Spy、CINEBENCH R23、CrystalDiskMark 8.0.4 x64、そしてファイナルファンタジー XIV:漆黒のヴィランズを実施した。
なお、比較対象としてCPUにCore i7-1165G7(4コア8スレッド、動作クロック2.8GHz/4.7GHz、L3キャッシュ容量12MB、統合グラフィックスコア Iris Xe Graphics)を搭載し、ディスプレイ解像度が1,920×1,080ドット、システムメモリがDDR4-3200 8GB、ストレージがSSD 512GB(PCI Express 3.0 x4接続)のノートPCで測定したスコアを併記する。
ベンチマークテスト | UP5302 (第12世代Intel Core) | 比較対象ノートPC(第11世代Intel Core) |
---|---|---|
PCMark 10 | 5470 | 4615 |
PCMark 10 Essential | 10056 | 9645 |
PCMark 10 Productivity | 6837 | 6081 |
PCMark 10 Digital Content Creation | 6461 | 4549 |
CINEBENCH R23 CPU | 9005 | 4119 |
CINEBENCH R23 CPU(single) | 1594 | 1380 |
CrystalDiskMark 8.0.4 x64 Seq1M Q8T1 Read | 6487.27 | 3249.66 |
CrystalDiskMark 8.0.4 x64 Seq1M Q8T1 Write | 5015.66 | 2679.52 |
3DMark Night Raid | 16062 | 10635 |
FFXIV:漆黒のヴィランズ(最高品質) | 3826「快適」 | 2348「普通」 |
第11世代Coreプロセッサーを載せた比較対象ノートPCと比べ、高いスコアを出しているのは当然として、他のCore i7-1260P搭載モデルと比べてもやや高めのスコアを出している(例えばdynabook G9/Vや、LG gram 16)。
3DMark Night Raid、FFXIV:漆黒のヴィランズといった、グラフィックス周りの処理能力を評価するベンチマークテストのスコアも良好だ。加えて、ストレージの転送速度を測るCrystalDiskMark 8.0.4 x64は、接続するインタフェース規格のおかげもあって高いスコアをマークした。
高い処理能力は大量の発熱につながる。電源プランをパフォーマンス優先に設定して3DMark NightRaidを実行し、CPU TESTの1分経過時において、Fキー、Jキー、パークレスト左側、パームレスト左側、底面のそれぞれを非接触タイプ温度計で測定した表面温度と、騒音計で測定した音圧の値は次のようになった。
表面温度(Fキー) | 40.6度 |
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表面温度(Jキー) | 44.7度 |
表面温度(パームレスト左側) | 30.3度 |
表面温度(パームレスト右側) | 30.1度 |
表面温度(底面) | 58.2度 |
発生音 | 40.6dBA(暗騒音36.8dBA) |
ホームポジションキートップの表面温度では、FキーでもJキーでも40度を超しており体温を上回っている。底面では、スリット中央奥周辺が最も高温のところで60度台に迫る勢いで、ズボンをはいていたとしても低温やけどのリスクは高い。
一方で、ファンが発する音量は、電源プランをパフォーマンス優先にしていても小さい。ファンが回っている「フーン」という音は聞こえるものの耳障りではなく、静かな図書館やカフェなどでも気にならないだろう。
UP5302の公式スペックにおけるバッテリー容量は67Wh、PCMark 10 System InformationのBattery designed capacityでは67,292mAhとなっている。最近の本体重量1kg前後級モバイルノートPCでは50,000mAh程度が一般的なので、それらと比べたらバッテリー容量は多めといえる。
バッテリー駆動時間を評価するPCMark 10 Battery Life Benchmarkで測定したところ、Modern Officeのスコアは9時間13分(Performance 6358)となった。測定では、ディスプレイ輝度は10段階の下から6レベル、電源プランはパフォーマンス寄りのバランスにそれぞれ設定している。
最新のモバイルノートPCと比べてもこのスコアはそん色ない。終日、ディスプレイを高輝度&電源プランをパフォーマンス重視にして使っても、不安なく使い続けられるだろう。特にディスプレイ輝度は、パネルが光沢なので周囲の映り込みを減らすため、場所によっては高輝度設定が欠かせない。
機動力を重視した2in1 PCを探している人に◎
2in1 PCというと、着脱あるいは回転式の機構により、同サイズのクラムシェルスタイルノートPCと比べると、どうしても重くなりがち、という印象が強い(この印象形成には、2in1 PCに大きな期待をかけていた個人的過去が影響しているかもしれない)。
しかし、UP5302の1.12kgならば、タブレットスタイルで緊急避難的に実用できる。また、可動部分が多いことから堅牢性に不安を持つユーザーも少なくないが、こちらもASUS内部テストで2万回の開閉テストをクリアするなど耐久性も保証している。
機動力を重視した2in1 PCを必要としているユーザーなら、UP5302は検討候補に入れておきたいモデルとなるはずだ。