名古屋大学(名大)と東京大学(東大)は10月25日、NASAの月周回衛星「LRO」とJAXAの「かぐや」のデータを用いて、小クレーター、斜度、新鮮領域の分布と小クレーター形成時の震動の大きさの推定などを行い、月の「岩塊崩れ」の成因が「衝上断層」での月震ではなく、小クレーター形成時の局所的な震動によるものであることが強く示唆されると結論付けたことを発表した。

同成果は、名大大学院 環境学研究科の池田あやめ大学院生、同・熊谷博之教授、東大大学院 理学系研究科の諸田智克准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国地球物理学連合が刊行する惑星科学全般を扱う学術誌「The Journal of Geophysical Research:Planets」に掲載された。

LROの高解像度画像(50cm/pixel)によって月面地形の詳細な分析が可能となり、数m~数十mの岩塊がクレーター周辺に多く分布していることが明らかにされた。また、一部の岩塊が斜面を転がり、その跡が線状に斜面に残っていることも判明。これは岩塊崩れといい、それは重力による物質移動現象の1つと考えられている。

これまでの説の1つは、天体衝突と月震の両方が物質移動の原因であるとしている。天体衝突は斜面を局所的に揺らす直接的効果と、基盤岩を破壊して斜面を崩壊させる間接的効果があるという。それに加え、月震は一度では物質移動を起こせなくても、繰り返すことでと物質移動が発生することも指摘されている。

さらに、低角逆断層の衝上断層が全球的に分布していることも確認されており、その成因は、地球との潮汐力によって形成された可能性、月の全球収縮による可能性などが指摘されているが、地震波を出すような断層かどうかという点も含めて、その成因や特徴は明らかにされていなかった。

先行研究では、衝上断層と岩塊崩れの位置関係から断層で発生する浅発月震が岩塊崩れの成因であると結論付けてられているが、ほかの要因が岩塊崩れに与える影響については、定量的に議論されてこなかったという。

このように、近年発見された月面上の岩塊崩れは月表面の物質移動に伴うダイナミックなプロセスを調べるには重要ながら、そのメカニズムが詳しくわかっていない状況であったという。

そこで研究チームは今回、先行研究で岩塊崩れが発見されている2つのクレーター斜面で岩塊崩れ、小クレーターの分布をLROの高解像度画像から、斜度と新鮮領域の分布を「かぐや」の数値地形モデルとマルチバンド画像から調べ、小クレーターの分布から表面の更新年代と、クレーター形成時の最大加速度の分布を推定することにしたという。