KDDIは10月19日、イーロン・マスク氏が率いる宇宙開発企業スペースX(Space Exploration Technologies)と協業した衛星ブロードバンドインターネット「Starlink」のサービスを、国内の自治体および法人に向けて年内にも提供開始すると発表しました。山間部、離島など通信設備が整っていないエリアでもインターネットが利用できるようになるほか、契約した一般企業は通信障害などに左右されないネット環境を確保できるようになります。ちなみにKDDIでは時期は未定としつつ、個人に向けてもサービス提供していく考えです。

  • KDDIがStarlinkの衛星通信サービスを提供へ。写真はKDDI 執行役員 経営戦略本部長 兼 事業創造本部長の松田浩路氏

Starlinkの概要とKDDIの取り組み

スペースXが開発したStarlinkは、高度約550kmの低軌道衛星から地球に向けて電波を吹くサービス。従来の静止衛星より「大容量」で「低遅延」な通信が実現できるとしています。

  • スペースXのStarlinkのサービスイメージ

ロケット「Falcon 9」で打ち上げ技術を確立したスペースXでは、すでに累計180回超のロケット打ち上げにより3,400機超のStarlinkを宇宙空間に展開済み。このStarlink衛星が地球の地上局(ゲートウェイ)と通信を行う際のパートナー企業として、KDDIが選ばれました。

  • Starlinkの累計打ち上げは3,400機超

KDDI 執行役員の松田浩路氏は「私たちは世界で4社目の、そしてアジアでは初めての認定Starlinkインテグレーターとなりました。日本は自然が豊かで、山間部、島も多い。また自然災害も頻繁に起こっています。そこでアジア展開を開始するにあたり、ロールモデルとして我が国が選ばれたのだと認識しています。KDDIではアジアの先駆者として、しっかりその役割を担っていきます」と決意を込めます。

  • KDDI山口衛星通信所にはStarlink地上局を構築済み

Starlinkの活用形態は大きく分けて3パターン。「基地局バックホール」では、Starlinkからの電波をau基地局で受信してエリアのモバイル端末に展開します。「STARLINK BUSINESS」では、衛星からの電波をStarlinkの端末(アンテナ)で受信し、Wi-Fiあるいは有線LANで地上エリアに展開します。このほか、衛星からの電波をスマホで直接受信する方法も考えられています。

  • Starlinkの活用形態

ちなみにAppleの「iPhone 14」シリーズは、衛星通信で用いられる周波数に対応済み。というわけで「私のiPhone 14でも衛星通信できるようになるの!?」なんて期待が膨らんでしまうところですが、残念ながら、まだいくつか乗り越えないといけないステップが残されているようです。松田氏は以下のように説明します。

「Starlinkは、8月に米国で『スマートフォンとの直接通信をやります』と発表しました。したがって、2022年は“スマホでの衛星通信元年”ともいえるでしょう。しかし、Starlinkと地上は550km離れています。東京から大阪あるいは神戸くらいの距離があるので、おそらくサービス開始時は、低速な回線になることが予想されます。またiPhone 14では、衛星通信で使われる周波数をカバーしていますが、一方でStarlinkでは地上で使っている周波数をそのまま使う方針です。使用できる周波数帯は、国際的にも区分がしっかり分けられています。したがって今後、どの周波数を使っていくのかグローバルでも調整していく必要があります」(松田氏)。

では、KDDIがスタートするSTARLINK BUSINESSとは、どんなサービスなのでしょうか。松田氏は「法人用の大きなアンテナを使った、さらに高速、さらに安定、さらに高耐久性をうたうハイパフォーマンス仕様です」と強調します。

  • ビジネスニーズに応えるSTARLINK BUSINESS

現在、STARLINK BUSINESSでは受信最大速度350Mbps、送信最大速度40Mbps、遅延時間は20~40ms程度を想定。優先帯域を割り当てることで、安定的な通信を実現します。法人向けに提供されるアンテナは防水防塵のIP56準拠で、融雪能力75mm/hとのこと。KDDIでは、設置・導入支援、通信 / DX 総合提案、カスタマーサポートなどの窓口を用意してサービス展開していく考えです。

  • 通信速度は受信最大速度350Mbpsを実現

  • 自治体、法人に向けて提供スタート。通信とアンテナを組み合わせた形で、複数の料金プランを提供する

KDDIではStarlinkを通じて、さまざまな社会課題の解決にも取り組んでいくと説明します。例えば、これまで通信事業者では人が住んでいる地域に基地局を打ってきました。今後はStarlinkを活用することで人の住まない未開の土地、山間部、離島にも電波を吹くことができます。現場の作業員、また遭難者も利用できるようになるでしょう。地方都市で展開すれば、デジタルデバイド解消にも貢献できます。病院など公共サービスのバックアップ回線としても利用可能。自然災害が起きたときには、被災地および避難所の通信環境の確保に役立てることができます。このほか松田氏は「よく関係者の間では日本百名山をどうやってエリア化していこうか、なんて話をしていますが、Starlinkなら非常にリーズナブルな費用で山小屋の付近をエリア化することができます」と話します。

  • 開拓最前線を支える

  • 自然災害時にも頼れるインフラとして

海上における利用も検討が進められています。これは商船、作業船、クルーズ船、漁船などを対象にしたもの。日本の領海内ではすでに準備できているそうで、「早期にやっていけるところを見定めているところです」(松田氏)としています。

  • 海上利用への期待

  • 衛星と地上局が直接連携できないエリアでは、宇宙空間の衛星間で通信する

Starlinkの強みは?

質疑応答では、記者団の質問に松田氏が回答しました。

―――Starlinkの強みは?

すでに非常に多くの衛星が打ち上がっており、サービスを開始しているところです。いまもどんどん衛星が打ち上がっている。そこが従来の静止衛星との違いでもあります。ひと昔前であれば、衛星が1機打ち上がれば、その容量のなかでどういうふうに割り当てていくか、を考えていました。

Starlinkでは、衛星1機がエリアに向けて10分間くらい電波を吹き続けます。そうした衛星が動きながら、次から次へとやってくるので、通信が途切れない。KDDIでは、そんなStarlinkに対応した地上局を構築し終わりました。全国でカバーできる体制が整っています。

  • 多数の衛星が連携してエリア構築できるのが強み