リモート会議の課題解決に向けた「フィジカルアバター」

フィジカルアバターは、コロナ禍により一般化した「リモート会議」での課題を起点として生まれた人間拡張技術だという。

オフィスの会議室などに集合した参加者と、リモートでの参加者が混在する会議では、「対面しているローカルの参加者だけでスムーズに話が進みリモート参加者が介入しづらい」など、場所が離れていることによるストレスが課題となっている。

フィジカルアバターは、リモートからログインすることで、本体に搭載された360度カメラとマイクアレイを通じた映像・音声が届き、オフィスの状況をよりリアルに把握できる技術。上下への伸縮やうなずき、首の回転などの操作が可能で、対面した状態のように違和感なく溶け込めるようサポートするデバイスだという。またリモート側には、ローカル側の話者が可視化される仕組みも搭載されており、マスクを身に着けた中でも話者が区別できるとしている。

  • フィジカルアバターは、ユーザのログイン中には目を模したライトが点灯し、ログアウトすると消灯する。ユーザが画面上のスタンプをクリックすることで、アバターがうなずく様子も実演された

    フィジカルアバターは、ユーザのログイン中には目を模したライトが点灯し、ログアウトすると消灯する。ユーザが画面上のスタンプをクリックすることで、アバターがうなずく様子も実演された

フィジカルアバターのデザインについて、京セラの杉本武士氏によると、「できるだけシンプルなデザインにしている分、フィジカルアバターから話者の声が発されることで、どことなくその人の顔に見えてくるという効果があることがわかっている」と話した。

  • 京セラの杉本武士氏

    京セラの杉本武士氏

フィジカルアバターの説明動画

聞き逃した音を気付かせる「聴覚拡張ヒアラブルデバイス」

知覚や認知の能力を拡張する技術として、聴覚拡張ヒアラブルデバイスが発表された。このデバイスは、周囲音への注意を人間の代わりに行い、日常生活において聞き逃した音声を自動でリプレイするという。

  • 聴覚拡張ヒアラブルデバイス

    聴覚拡張ヒアラブルデバイス

同システムは、バイノーラルマイクを搭載した骨伝導イヤホンにAIシステムが組み合わさったもので、マイクから取得した周囲の音声をAIシステムが一時的に保持し、重要な音声を検知した際には、その音声が含まれる部分を切り出してイヤホンから再生する。デモンストレーションの担当者によると、デフォルトとして設定されている重要な単語に加え、スマートフォンアプリ上で単語を事前に登録することで、その単語を含む音声のリプレイが可能だという。

  • 聴覚拡張ヒアラブルデバイスの仕組み

    聴覚拡張ヒアラブルデバイスの仕組み(出典:京セラ)

介護現場や接客現場など複数の作業や呼びかけを同時に処理することが多い場面や、突然開始されるため聞き逃しが発生しやすい駅や空港での場内アナウンスなど、さまざまな場面で同デバイスの活用が期待されるとのことだ。

聴覚拡張ヒアラブルデバイスにおいて骨伝導イヤホンを採用している理由について、京セラの金岡利知氏は「人間の耳をアシストする意味合いで、通常の周囲音が聞こえるタイプのイヤホンにしている」とした上で、「耳をふさぐインイヤー型のデバイスにも搭載可能だと考えている」と語った。

  • 京セラの金岡利知氏

    京セラの金岡利知氏

聴覚拡張ヒアラブルデバイスの説明動画

大幅な市場拡大が見込まれる人間拡張技術

横山氏によると、今回発表された3つの技術について、それぞれ研究開発を始める契機は異なっていたという。歩行姿勢のセンシングは、ワコールとの連携の中で生まれてきたアイデアが起点となっているのに対し、フィジカルアバターは、コロナ禍において研究所内で実際に表出したコミュニケーションの課題に対する解決策として、「所員の間でディスカッションを交えながら具体化していった」とする。また、ヒアラブルデバイスについては「熱い想いを持った所員のアイデアから研究が始まった」とのことで、「研究所としてのベースには、所員からの提案をブラッシュアップして研究開発を進めるという姿勢がある」とする。

加えて横山氏は、人間拡張技術における今後の見通しについて、「人間拡張技術の市場規模はこれから拡大すると考えており、2025年には1兆円規模を超えるという調査結果も目にした」といい、事業としての可能性に期待をのぞかせる。また、今回発表した技術についてはいまだ研究開発の最中で、他社を含め共創を進めているという。今後は「技術の実証を進めながら、適宜商品化にもつなげていきたい」と展望を語った。

なお、今回発表された3つの人間拡張技術は、2022年10月18日から10月21日まで幕張メッセにて開催される「CEATEC2022」で展示されるとのことだ。