ソニーとホンダが手を組み、2022年9月に設立された新会社「ソニー・ホンダモビリティ」。10月13日の設立発表会見では、事業の方向性や商品投入計画が示され、さらに第1弾EV(電気自動車)のティザー映像も披露された。ソニー・ホンダモビリティがめざす「EV」の姿を整理してみたい。

  • ソニー・ホンダモビリティの水野泰秀会長兼CEO(右)と、川西泉社長兼COO(左)

まずは、今回のソニー・ホンダモビリティ(SHM)の会見で明らかになった情報と、報道陣との質疑応答をもとに、SHMのEVの特徴を箇条書きにしてみよう。

  • SHMは「高付加価値なEV」を作る
  • 「それなりの価格」になるが「価格に見合った価値を出す」
  • EVにおけるリカーリングビジネスも展開していく
  • 第1弾EVは2025年前半から先行受注開始、同年中に発売
  • 2025年は「電動化シフトのターニングポイント」。そこにあわせて投入する
  • 特定条件下での自動運転機能(レベル3)搭載を目指す
  • 市街地などより広い運転条件下での運転支援機能(レベル2+)の開発にも取り組む
  • 計800TOPS以上の演算性能を持つ、高性能なSoC(システムオンチップ)を組み込む
  • デリバリーは2026年春に北米からスタート、日本では2026年後半の予定
  • オンライン販売のみで、ディーラーや家電量販店での販売は考えていない
  • 生産拠点はホンダ北米工場。将来的に「日本でも作らないわけではない」
  • 米ラスベガスで、2023年1月4日に続報があることをティザー映像で示唆

SHM設立の一報があった時点よりも具体性のある情報が出てきているが、まだ「ソニー・ホンダモビリティのEVがベールを脱いだ」と表現するのははばかられる。つまり、それくらい「まだ分からないことが多い」。

たとえば、会見の中で高付加価値なEVを作る、という話は出たものの、それがスポーツタイプなのかSUVなのかといった車種の話や、航続距離といった具体的な仕様については明かされなかった。車両開発はこれから本格化するということで、ホンダの工場で生産するため、車両のパーツなどはホンダ基準となる模様だが、それ以上は明言を避けた。

CES 2020 ソニーブースでひときわ大きな注目を集めていた、スポーティなデザインの「VISION-S」はあくまで試作車という位置づけであり、翌年のCES 2021で披露されたSUVタイプ「VISION-S 02」もそこは変わらない。これまでのVISION-Sがそのまま販売されるわけではないので、SHMが世に放つ第1弾EVがどんな外観をしているのかは、会見でもティザームービーでも結局分からずじまいだった。

もっとも、ティザー映像の中で示された新たなクルマのデザインは、スタイリッシュなVISION-Sの雰囲気を引き継いでおり、そこから大きくかけ離れたものになるわけではなさそうだ。まったく別モノになれば、それはそれで話題を呼ぶだろうが、いずれせよティザー映像の日時から見て「CES 2023」にあわせた発表となることは予想できるので、開催間近になるまではもうしばらく想像をたくましくしていられることだろう。

ちなみに、ソニー・ホンダモビリティのEVを北米市場から展開する理由について、同社の水野会長兼CEOは、(州によって差はあるが)クルマ市場のEV化が進んでいることや、生産工場があるので輸送コスト面でリーズナブルである、といった事実を挙げている。米国、そして“ホームマーケット”である日本に続き、ヨーロッパなども今後導入市場として検討中とのこと。

「モビリティの変革」めざしタッグを組むソニーとホンダ

ソニーとホンダが手を組んだ経緯について、ソニー・ホンダモビリティ(SHM)の水野泰秀 会長兼CEOは、「モビリティの変革、進化をリードするには、既存の自動車OEMのやり方とはまったく異なるアプローチが必要。だからこそ、今回ホンダは既存OEMと異なる考え方、スピード感を持つソニーと組みたいと考えた。その結果が、今回設立されたソニー・ホンダモビリティだ」と述べている。

なお、ソニーとホンダが手を組んだ理由や事情については、西田宗千佳氏による過去の考察記事に詳しいので、そちらもあわせて参照されたい。

水野氏はまた、SHMを既存の自動車OEMと違うものにしていくためのキーとして、「ソフトウェアを中心とした新しい技術の投入」、「他社とのパートナーシップ」、「新しいアイデアの採用」を挙げ、これによって既成概念を覆す、高付加価値型の商品やサービスの提供、ユーザーとの新しい関係性の構築にチャレンジしていく考えを明らかにした。

EVを作って販売し、サポート体制も整えたらそれで終わり、というわけではなく、さらにその先を見据えたメッセージを、水野氏が会見を通して発していたのが印象的だった。

「ソフトウェア技術を中心とした新しい会社、『Mobility Tech Company』。日本発のこの会社でグローバルでの躍進を遂げ、日本の産業界の活性化に少しでも貢献していきたい」(水野氏)。

水野氏はさらに、「二社の知見・技術の結集が必要だが、それだけでは革新は生まれない。我々に共感、共鳴してもらえるカスタマー、パートナー、クリエイターの知をつなげることで、革新は達成される」とコメント。それを新会社の企業パーパス(存在意義)である「多様な知で革新を追求し、人を動かす。」というフレーズに込めたという。

  • ソニー・ホンダモビリティの水野泰秀 会長兼CEO

「SHMはユーザーとの関係性を変えていく。これまでの自動車OEMは、ハードウェア、もしくはアフターセールスを中心にユーザーとつながっていた。私たちはバリューチェーン全体で、ユーザーとの関係性を長く、深くしていくための、リアルとデジタルを融合させた新しいサービスを提供していきたい。そのサービスを介して、ハードウェアを持たないユーザーとも多くつながりを作り、私たちに共感いただける仲間が集う、新しいコミュニティを作っていくことを目指す。サービス開発においては、先行技術の積極投入のみならず、専門性を有する数多くのパートナーとの協業により、新たな体験価値の創出に取り組んでいきたい」(同)

「高付加価値」のためのクラウド連携と、それを支える技術

SHMの事業の方向性や存在意義を語った水野会長兼CEOに続き、川西泉社長兼COOは同社のEVで提供していく価値観について、より踏み込んだ説明を行った。

  • ソニー・ホンダモビリティの川西泉社長兼COO

「私達は高付加価値EVに3つのAを提供する。ひとつはAutonomy、進化する自律性。レベル3(特定条件下での自動運転機能)の搭載と、レベル2+(市街地などより広い運転条件下での運転支援機能)の開発にも取り組む。そのために800TOPS(1秒あたりの演算処理回数の単位。800TOPSは800兆回)以上の新SoCを投入し、ハイパフォーマンスコンピューティングを実現し、走行性能のインテリジェント化を進める」(川西社長兼COO)

「続いてAugmentation、身体・時空間の拡張。ソニーが培ってきたUX、UI技術を使って新しいHMI(Human Machine Interface)を提案していく。クラウドで提供するサービスと連携することで、ユーザーごとにパーソナライズされた車内環境を実現する」(同)

そうしたサービスの一例として、川西氏はクルマを物理的な移動手段としてだけでなく、「リアルとバーチャルの世界を融合させることで移動空間をエンタテインメント空間、感動空間へと拡張」することを考えていると話した。具体的な内容は明かさなかったが、メタバースなどデジタルをフルに活用して、新しいエンタテインメントの可能性を追求していく模様だ。

こうしたサービスを実現するためのアーキテクチャも公開。HMIやIVI(車載インフォテインメント)のシステムには最新のSoCを2基搭載し、高性能なAD(自動運転)/ADAS(先進運転支援システム)と組み合わせて、従来のECU(車両に搭載される電子制御ユニット)をハイパフォーマンスな総合ECUに集約するという。そして、サービス連携を高めるために、クラウドとクルマを5Gの高速回線で結ぶとのこと。

一見難解に見えるが、要はSHMのEVは“走るハイエンドコンピューター”であり、SF作品に登場するような“車内エンタメ”を、クラウド連携によって現実のものにしていく……ということのようだ。

「(三つめの)Affinity、人との強調・社会との共生では、カスタマーだけでなく、自動車産業におけるパートナー、モビリティにおける新しいエンタテインメント創出に一緒にチャレンジするクリエイターと、オープンで自由な環境を作っていく」(川西氏)

これまでの自動車産業は、自動車OEMを頂点とし、数多くのパートナーに支えられて産業構造が出来上がっている。しかし、水平分業が浸透しているIT業界においては、一部の半導体に見られるとおり、特定の領域において優位性を持つレイヤーマスターの存在が大きくなっている、と川西氏は指摘する。

「EV化が進めばITの比率が高まるため、自動車を支えるステークホルダーとの関係を見直す必要が出てくる」(川西氏)ことから、SHMでは同社が目指すビジョンをパートナーやサプライヤーと共有し、オープンで対等な新しいパートナーシップを築きたい考えを示した。

「モビリティがクラウドとリアルタイムに情報を同期するという、これまでにない双方向性のあるモビリティ社会と、新しいエンタテインメントを創出していきたい。それを支えるのは、車載ソフトだけでなくクラウド上のソフトまで一貫した、統合的なフレームワークが必要だ。我々はモビリティを単一の組み込み型ハードウェアではなく、“リカーリングビジネスを想定した移動体験サービスの一部”としてとらえ、サービス全体のアーキテクチャを設計していく」(同)

なお、川西氏は新EVのプラットフォーム構築に関して報道陣から問われたのに対し、新たに開発する車体のプラットフォームにはソニーとホンダ、両社が持つ知見や技術を投入していくと回答。一方でクラウドなどのサービスプラットフォームについては、ソニーグループのソニーモビリティが構築していくことになるそうだ(川西氏はソニーモビリティの社長 兼 CEOでもある)。EVユーザー向けのサービスを提供するのがSHM、その下支えをする立場にあるのがソニーモビリティということで、EVに関する位置関係は異なる、とのこと。