今やイヤホンといえば左右をつなぐケーブルのない、完全ワイヤレスイヤホンがすっかり定番となった。ノイズキャンセリングや音質を極めた高価格帯の製品も多数ある中で人気を博していたのが、ボーズが2020年に発売した「QuietComfort Earbuds」。あれからちょうど2年、待望の2代目が登場する。
既報の通り、9月29日から順次発売予定の「Bose QuietComfort Earbuds II」の価格は36,300円。初代QuietComfort Earbuds(QC Earbuds)からカタチがかなり変わり、ノイズキャンセリング(NC)機能なども大きく進化しているが、昨今の円安傾向にもかかわらず、初代が発売されたときの価格(33,000円)から3,300円増と、ある意味で順当な価格アップだ。世代が新しくなったからといって、驚くほど大幅に値上げされたわけではない。
今回はボーズの担当者からレクチャーを受けつつ、短時間ながら使い勝手を体験したので、2代目QC Earbudsの進化点をお伝えしよう。初代との詳細な比較や音質評価は、山本敦氏によるファーストインプレッションに譲りたい。
なお、これから見ていくように、2代目QC Earbudsはほぼあらゆる点で初代QC Earbudsから大きく進化していて個人的にもかなりオススメの仕上がりとなっている。とはいえ、初代も十分に高性能な完全ワイヤレスイヤホンであり、直販サイトなどで突発的な期間限定セールの対象製品となっていることもある。こちらもしばらくは併売されるようなので、購入を検討している人にとっては懐具合で選ぶこともできてありがたいのではないだろうか。
新イヤーピースでフィット感UP。ワイヤレス充電は欲しかった
まずは外観を見ていこう。QC Earbuds IIの見た目は、初代QC Earbudsとはデザインがだいぶ異なり、スッキリとした印象を受ける。同社によれば、約3分の1まで小型化し、重さもこれまでの片側8.5gから同6gへと軽くなっている。音楽の再生/一時停止やスキップ、ボリューム調整、着信応答/通話終了といった操作が行えるタッチコントロールを内蔵。IPX4の防滴性能も装備した。
そして大きく変わったのが、耳へのフィット感や遮音性に関わるパーツだ。QC Earbuds IIでは、交換可能なスタビリティバンドとイヤーチップによる新しい2ピースシステム方式を採用した「Bose Fit Kit」が付属し、ユーザーの耳のサイズに合わせて付け替えられ、細かくカスタマイズできるようになった。専用アプリにも「イヤーチップ装着テスト」機能が新たに加わっていて、これらはうれしい改良ポイントといえる。
初代は大ぶりのイヤーピースと、耳の中にひっかけるようにして安定性を保つイヤーフィンが一体化した専用パーツ(StayHear Maxイヤーチップ)が同梱されていて、S/M/Lの3サイズが選べた。しかし筆者の場合、これがどうにも耳に合わなくて困っていたのだ。一般的なイヤホンのイヤーピースならMサイズで十分間に合うのだが、初代QC EarbudsはSサイズに付け替えないと耳穴が痛くなってしまう。それに、Sサイズにしても若干耳に合わず、街中を歩いているときなど、落としてしまわないかハラハラしながら使う必要があった。
ボーズも実はこういったユーザーの声を認識していて、初代に関してはカスタマーサービスの方で付属の3サイズ以外の大きさのイヤーピースも用意しているとのこと。新しいQC Earbuds IIではこういったフィット感に関する問題に対して、まったく異なるパーツを採用することで解決に至った。
耳にきちんとフィッティングできるようになったので、安定した高いノイキャン効果が得られ、イヤホン本来の音質を余さず引き出せるようになった。本体そのものの性能向上とはちょっと違うが、装着感の向上は使用時の快適さに直結する。この進化は結構大事なことだ。
そして、充電ケースについて。数多ある完全ワイヤレスイヤホンの中ではかなり大型な部類だった初代と比べてだいぶコンパクトになり、服のポケットなどへの収まりも良くなったように思う。充電ケースの大きさだけで遠慮していた人にとっては注目ポイントとなりそうだ。
ただし2代目は、Qi規格のワイヤレス充電には非対応で、USB-Cの有線充電のみの対応となる。デザイン上の制約もあるようだが、もっと小さなケースでもワイヤレス充電できるものはあるので、ここはやや残念なポイントだ。
生真面目なパーソナライズがイイ。すぐそばの人の声も“消える”NC
QC Earbuds IIは、ユーザーの耳の特性に合わせてノイズキャンセリング効果やサウンドプロファイルを最適化する“CustomTuneテクノロジー”を初めて搭載しているのが大きな特徴だ。
ケースからイヤホンを出して耳に着けると、ボーズ製品でおなじみの「ブウォン」という起動サウンドが流れる。低弦楽器(チェロまたはコントラバス)でアクセントをつけて弾いたようなこの音は、初代ではただの効果音だった。しかしQC Earbuds IIでは新たに、この音を使って耳の内部の反響を測定し、サウンドプロファイルやノイキャンの効き具合、外音取込のサウンドをわずか0.5秒未満でカスタマイズするための、いわばテストトーン的な役割が与えられている。
耳の中の響き方を計測してサウンドのパーソナライズ(個人最適化)を行う手法は他社の製品でも例があり、それほど珍しい機能ではない。ただ、QC Earbuds IIは初回設定時にパーソナライズしておしまい、とはならず、イヤホンを耳に着けて電源が入るたびに毎回自動でやってくれるのが興味深いところ。そこには生真面目さすら感じる。
このCustomTuneテクノロジーのキモとなるのが、クアルコムの完全ワイヤレスイヤホン用SoCと、片耳につき内側1基と外側3基、計4基搭載したマイクだ。初代からSoCが強化され、マイクの数も増えた(初代は右2基+左2基のハイブリッドNC。右側にはさらに通話用マイク1基を搭載)ことで、ノイキャン効果を大幅に強化している。
たとえば、NCレベルを最大まで引き上げると、すぐそばで声を張って話している人の声まで抑え込むほどの強い消音効果が得られる。実機体験ではボーズの担当者に、あるテキストを男性ならではの朗々とした声で読み上げてもらったのだが、強いNC効果によってかなり遠くのヒソヒソとした話し声に感じられるくらい、うまく聞き取れなくなってしまった(それくらいNCが強いということだ)。それでいて、ノイキャン搭載のオーディオ機器でありがちな、不快な圧迫感もほぼ感じられない。
誰かに話しかけられる可能性があるシチュエーションではなかなか使いにくいだろうが、たとえば飛行機の長時間フライトでの睡眠時など、誰にも邪魔されない状況下であればかなり役に立つと思う。一般的な耳栓以上の静けさが得られそうだ。
詳細は明かされていないが、ボーズではQC Earbuds IIのノイキャンについて、「不要なノイズを検出、測定し、専用のアルゴリズムを搭載した独自の回路に送信。小型トランスデューサー(ドライバー)と連携し、システムが正確かつ同等の逆位相信号を1/1,000秒未満で返す」という処理フローになっていると説明している。劇的なNC効果はこの賜物、というわけだ。「その存在に気づかないほどの打ち消し効果」という謳い文句は伊達ではない。
なお、QC Earbuds IIでは自然な外音取り込みを追求したAwareモードも選べて、イヤホンを着けたまま外の音を聞ける。初代AirPods Pro並みの“耳に何も着けてない”感じで、ここも初代QC Earbudsより進化しているようだが、聞いている音楽の音質にどれくらい影響するかは気になるところだ。
そしてもうひとつ面白いのが、近くで大きな騒音が発生したときに、耳にあわせた最適なレベルでNCを強化する「ActiveSense」。Awareモード利用時に使える機能で、瞬間的な騒音が発生するとすぐにNC効果を上げ、その騒音が収まると元の外部音取り込み状態に戻るというものだが、比較的小さなノイズまですぐにグッと抑えてくれる。
今回はボーズの担当者に、試しに1人で拍手してもらいつつActiveSenseの実力を試したのだが、こんなわずかな“騒音”も拍手が始まるとすばやく察知して消してくれ、拍手が止むとすぐに元の外の音が聞ける状態に戻った。使いどころが難しい機能だと思うが、これもマイク数の増強と処理速度向上の為せるワザ、ということのようだ。
Bluetooth 5.3準拠で、コーデックはSBCとAACをサポート。aptX系のコーデックや、ハイレゾ級の伝送が可能なLDACには対応しておらず、LE Audioについても現時点では非対応だ。使い勝手の面では、初代にあったSpotify TapがQC Earbuds IIでは非対応になるなど、省かれてしまった機能もあるにはあるが、初代同様に今後のソフトウェアアップデートでまた機能が強化されていくのかもしれない。
連続再生時間は、イヤホン単体で最大6時間。付属のポケットサイズの充電ケースと組み合わせると最大24時間使える。充電ケースはイヤホンを1時間でフル充電でき、20分充電で最大2時間連続再生できるクイックチャージにも対応する。
最後に、QC Earbuds IIのカラーバリエーションについて。今回はトリプルブラックとソープストーンの2色を用意し、前者は9月29日発売、後者は2022年後半の発売を予定している(直販サイトでは「11月上旬発売予定」と表示される)。
初代QC Earbudsは、発売後1年ほどたって限定カラーのストーンブルー、サンドストーンを追加したことがある(直販サイトでは終売)。2代目はコンパクトになって色々進化したぶん、幅広い層からの注目を集めそうなので、こちらにもいずれ新色のバリエーションが増えることに期待したい。