ソニーは、プロ向けの映像制作用カメラ「Cinema Line」シリーズとロボティクス技術を融合させ、シネマティックな映像をリモート撮影できる「FR7」を11月11日に発売する。Eマウントレンズの交換にも対応。価格はボディ単体が132万円。電動ズーム搭載のレンズキットも用意する。

  • FR7(レンズキット)

4K(3,840×2,160ドット)/120fpsで最大5倍のスローモーション撮影にも対応する、レンズ交換式のフルサイズセンサー搭載のカメラ部と、パン・チルト旋回台が一体化したカメラで、ソニーではパン・チルト旋回台一体型カメラとして世界初をうたう。ラインナップは以下の通り。

  • FR7 ボディ単体(ILME-FR7):132万円
  • FR7 レンズキット(ILME-FR7K):161万7,000円
    ※FE PZ 28-135mm F4 G OSS付属モデル
  • FR7 レンズキット(ILME-FR7K)

  • FR7のカメラ部。フルサイズセンサー搭載で、レンズ交換に対応する

映画やドラマなどの映像作品、音楽ライブやリアリティショーといった配信番組、ミュージックビデオやブライダルビデオの撮影にいたるまで、さまざまな動画コンテンツで「シネマのような没入感のある映像表現」が求められている。一方で、斬新な画角や臨場感のある映像で差異化を図りつつ、センターコントロールで少人数での撮影を実施したいといったニーズもある。

こうした需要に応えるため、映画制作で培われたルックと、クリエイターの要望に応える操作性や信頼性を兼ね備えた商品群「Cinema Line」(シネマライン)の新たなバリエーションとして、FR7をラインナップに追加した。

  • 「Cinema Line」の新たなバリエーションとして、FR7(右下)がラインナップに加わった

映像制作の現場での活用を見込んだ法人向け製品ではあるが、コンシューマー向けのデジタルカメラ「α」シリーズで培った“瞳AF”をはじめとする高性能オートフォーカス(AF)技術も投入しており、シネマカメラでありながらαブランドを冠した製品にもなっている。なお、ソニーはFR7の製品発表に合わせて、作例動画をYouTubeで公開した。

FR7の主な特徴

カメラ部には、裏面照射型で有効約1,030万画素のフルサイズCMOSイメージセンサー「Exmor R」と、画像処理エンジン「BIONZ XR」を搭載。シネマ4K(4,096×2,160ドット)/59.94pや、4K(3,840×2,160ドット)/59.94pの4K動画撮影に対応する。4K(3,840×2,160ドット)で最大120fpsのハイフレームレート撮影が行え、最大5倍のスローモーション撮影によって印象的な映像表現もできるという。

フルサイズイメージセンサーならではの浅い被写界深度を生かした美しいぼけ表現に加えて、15ストップ+の広いラチチュード(S-Log3使用時)と低ノイズによって、白とびや黒つぶれをおさえてノイズの少ないクリアな映像を収録できるようにした。暗所撮影にも使え、ベース感度設定を変更すると、ISOの上限をISO409600まで拡張できる。

電子可変NDフィルターも内蔵し、カメラから離れた場所からでも被写界深度を変えずに露出を調整可能。1/4NDから1/128NDまでシームレスに濃度を変更でき、オート設定によってカメラ側で常に適した光量に自動調整。照明演出が変化するステージ上など、あらゆる撮影環境に対応可能とする。

ソニーαで培ったファストハイブリッドAFシステムを搭載しており、最大627点の像面位相差検出AFで、撮像エリアの水平方向約95%、垂直方向約94%を高密度かつ広範囲にカバー。リアルタイム瞳AF(人間のみ)とリアルタイムトラッキングも搭載する。浅い被写界深度でも、旋回型リモートカメラの機動性とファストハイブリッドAFの組み合わせにより、動きの速い被写体に高精度かつ滑らかにフォーカスを合わせ続けられるようにした。

  • リアルタイム瞳AFで女性モデルの目をスムーズに追いかけているところ。FR7は、後述の専用Webアプリから操作できる

  • 実機撮影デモの様子

Cinema Line製品ならではの、中間色の表現力を向上させて人の肌を美しく描写する「S-Cinetone」が利用可能。S-Log3や、S-Gamut3での撮影も行える。最大4K/120pでの撮影と内部記録に対応。記録メディアはCFexpress Type-AとSDXCメモリーカードで、デュアルスロットを搭載している(排他利用)。SDIやHDMIでの信号出力も可能で、外部出力時は4K/60p 4:2:2/10bitまでサポートする。

  • 記録メディアはCFexpress Type-AとSDXCメモリーカード。デュアルスロット搭載

レンズマウントはEマウントで、純正レンズ70本が使用可能(2022年8月時点)。純正の電動ズームレンズを装着すれば、光学ズームと全画素超解像ズームの制御が行え、リモートカメラのようなPTZ(パン・チルト・ズーム)機能が利用できる。電動非対応のズームレンズや単焦点レンズでも、全画素超解像ズームが利用可能だ。

  • 単焦点レンズを取り付けたところ

取り付け時は、レンズの大きさや重量にあわせて、カメラ部をスライドレールで前後に移動させてバランスをとれる。ただし、望遠ズームレンズ(SEL100400GM、SEL200600G)や望遠単焦点レンズ(SEL400F28GM、SEL600F40GM)を使う場合は、固定撮影のみでパン・チルト操作には対応しない。

  • 大型の望遠ズームレンズ装着時は、スライドレールで動かしてカメラ部とレンズの重量バランスをとりつつ固定できる。ただしこの状態でのパン・チルト・ズームはできない

パン・チルト旋回台の左右肩部には、タリーランプを装備。状況に応じて赤/緑に発光する。左右方向(パン)と上下方向(チルト)を最低速度0.02度/秒から最高速度60度/秒まで速度調整でき、速度を変えながらなめらかに旋回させられる。パン動作範囲は-170度から+170度、チルト動作範囲は-30度から+195度(据え置き設置時)までカバー。電動ズームレンズのズーム速度も同様に速度調整が可能だ。いずれも撮影シーンにあわせて速度調整でき、撮影者の意図通りのカメラワークを実現するという。

  • 左右両肩にタリーランプを装備

床置きだけでなく、三脚などに裏面のネジ穴を使って設置したり、別売の天井取付金具「CIB-PCM1」を使った天井への設置も可能。撮影者のスペースを充分に確保できない場所や、舞台上などカメラを目立たせたくない環境でのカメラの遠隔操作の需要が増えていることから、天吊り設置にも対応した。天吊り時の動作範囲は、チルトが-210度~+15度、パンが-170度~+170度。なお、防塵防滴性能は備えていない。

  • 天吊り設置のイメージ

リモート操作は、専用の独自Webアプリ(Windows/macOS/iOS/Android対応)を使い、タブレットやPCからパン・チルト・ズーム操作や、フォーカス、録画、再生、カメラ設定などの操作を簡単に行える。複数台のFR7を連携させて、音楽ライブやリアリティーショーなどをさまざまなアングルで撮影したり、ステージの天井から見下ろすかたちで広く撮影するといったリモート操作に対応。付属の赤外線リモコンでも操作できる。

  • 付属の赤外線リモコン

  • 赤外線受光部。天吊り時は逆(後ろ向き)になる

さらに、既存のリモートコントローラー「RM-IP500」(別売)でFR7を10台ずつグルーピングして、最大100台まで連携させることもできるという。FR7はカメラの向きやズーム、ピント調節の位置を最大100個まで記憶でき、撮影に使用するカメラ位置をあらかじめ記憶させて、撮影中に簡単に呼び出せるようにした。

なお、RM-IP500から操作するには、今後予定されているファームウェアアップデートが必要。Ethernet経由でのS700プロトコルに対応し、ソニー製リモートコントロールパネルやマスターセットアップユニットからFR7を操作可能になる。

  • 既存のリモートコントローラー「RM-IP500」(別売)で操作可能。今後のアップデートで対応するほか、操作用のトップパネルも後日FR7用のものに差し替え可能になるとのこと

動画ファイルの記録方式は、XAVC Intra:MPEG-4 AVC/H.264、XAVC Long:MPEG-4AVC/H.264。音声はリニアPCMで、48kHz/24bit、4chまで対応する。なお、静止画撮影はできない。インタフェースは12G-SDI(BNC端子)とHDMIの出力を各1系統備えるほか、TC入力(BNC端子)、SFP+準拠の光信号出力、Ethernet端子、XLRのマイク入力などを備える。

電源仕様はDC 19.5V。付属のACアダプターのほか、EthernetによるPoE++給電もサポートする。バッテリーは備えていない。本体サイズは約227×289×233mm(突起部除く)。重さは本体のみで約4.6kg、FE PZ 28-135mm F4 G OSS装着時は約6kg。

  • 側面

  • 背面のインタフェース