そこで今回の研究では、水素生成系が電子伝達剤を還元する逆反応(I3-+e-→I-+I2)は、水素生成系とI3-が接近することで進行するため、互いが近づきづらい状況を作ることに着目したという。具体的には、I3-との静電的な反発により接近を阻害できる、負に帯電したアニオン性ポリマーを修飾することで、水分解効率の向上に成功したとする。

Ru色素を吸着した白金(Pt)担持酸化物ナノシートに対し、これまでに明らかにされていた逆電子移動抑制効果を持つ酸化アルミニウム(Al2O3)を修飾した水素生成光触媒「Ru/Al2O3/Pt/HCa2Nb3O10」を用い、ポリマー修飾の効果が調べられた。

ポリマーを単独で修飾した場合にも水分解活性は向上したが、ポリマーとAl2O3を共修飾することで、無修飾のものから約100倍の活性に向上したという。最適化されたシステムでは、太陽エネルギーの水素への変換効率は0.12%、見かけの量子収率は4.1%(波長420nmでの値)が達成された。これらはいずれも、色素増感型光触媒を用いたZスキーム水分解システムの世界トップクラスの値だという。また、色素を用いない一般的な光触媒と比較してもトップクラスに高い数値だともしている。

  • 水素生成のデザインイラスト

    表面修飾が施されたルテニウム錯体吸着HCa2Nb3O10ナノシート上での水素生成のデザインイラスト。論文掲載誌Science AdvancesのFeature imageに選出された (出所:東工大プレスリリースPDF)

今回の触媒の特筆すべき点として、弱い光を利用して水分解反応を駆動できる点が挙げられる。一般的に、水分解反応の進行には比較的強い光が必要なことが多く、強い可視光の照射では水分解活性を示すものの、疑似太陽光の照射下では水分解反応が進行しない例があるという。今回の触媒では、太陽光の半分の強さの光を照射した際にも、太陽エネルギーの水素への変換効率は0.12%から低下しなかったとのことで、このように、弱い光でも効率的に利用できる光触媒材料は貴重だと研究チームでは説明している。

  • 色素増感Zスキーム水分解系

    色素増感Zスキーム水分解系 (出所:東工大プレスリリースPDF)

なお、色素増感型太陽電池は産業界でも研究開発が進んでおり、蛍光灯などの弱い光を利用した発電能力が強みとして挙げられている。しかし、I3-/I-のような電子伝達剤の逆反応が性能向上に向けた障壁となっていることから、今回の研究で開発された表面修飾方法を応用することで、発電効率の向上が期待できるほか、色素の分子設計や修飾するポリマーを検討することで、さらなる性能向上も見込まれると研究チームではしている。

  • 色素増感水素生成反応のメカニズム

    色素増感水素生成反応のメカニズム (出所:東工大プレスリリースPDF)