そこでXENONnT実験では、キセノン中に含まれるラドンを常時除去するキセノン蒸留システムを新たに開発したほか、検出器部材が、ラドンの発生源となる放射性不純物を極力含まないよう、徹底的な部材選定も行うことで、検出器中のラドンをこれまでになく低いレベルにまで抑えることに成功。背景ノイズを、前身のXENON1T実験の検出器の1/5にまで低減することができたとする。

  • XENONnT実験装置の底部光電子増倍管アレイの組み立てが行われている様子

    XENONnT実験装置の底部光電子増倍管アレイの組み立てが行われている様子。背後に組み立て済みのTPC検出器の一部が見える (C)Luigi Di Carlo for the XENON collaboration (出所:名大 KMI Webサイト)

そのXENON1T実験は2020年に低エネルギー電子反跳事象の超過を観測したことを発表。この超過は、太陽アクシオン、ニュートリノの異常磁気モーメント、アクシオン型粒子、暗黒光子など、さまざまな新物理現象に由来する可能性が考えられたことから、多くの科学者により活発な議論が行われてきたという。

しかし、今回のXENONnT実験の初観測では、低エネルギー電子反跳事象の有意な超過は観測されなかったとする。このことから、2020年の事象超過は、仮説の1つとして当時も考えられていた、検出器中の残留トリチウムの可能性が高いことが示唆されたという。結果として、上述した電子反跳を起こす新物理現象に対して、非常に強い制限を与えることになったとしている。

なお、今回取得された初期データは、1トンの液体キセノンを1年間観測したことに相当する統計量を上回り、ブラインド解析によって得られた今回の結果をもって、XENONnT実験はそのデビューを飾ったと研究チームでは説明している。

現在、研究チームでは、今回のデータを用いて、ダークマターの最有力候補の1つである、“冷たい暗黒物質”こと「WIMPs(Weakly Massive Interactive Particles)」に対する解析が進められているとしている。XENONnT実験は、今後数年間をかけてさらなるデータを取得し、より高い感度で新たな物理現象の探索を行う計画だという。