科学と日常生活への関連についてはグローバルを下回る結果に

科学に対する信頼が上がっているが、「科学が自分の日常生活にとって非常に重要な役割を担っている」と回答した人の割合は、日本で35%。グローバル平均が52%のため、グローバル平均を大きく下回った。しかし、2018年調査時には日本では15%という結果だったため、大きく伸長したともいえる。

  • SOSI 2022年の「科学が自分の日常生活にとって非常に重要な役割を担っている」という項目の調査結果

    SOSI 2022年の「科学が自分の日常生活にとって非常に重要な役割を担っている」という項目の調査結果(提供:スリーエム ジャパン)

この結果についてSTEAM教育プログラムなどを提供する会社を運営する中島氏は「科学者が遠い存在というイメージが強いのかなと思う。私自身もSTEAM教育をやっていて思うが、科学というと偉い人がいて、その人の知恵を授けてもらうというイメージが強いように感じる。STEAM教育の考え方に“科学者のように考える”という言葉があるが、それは自分自身で考えるということだ。自分自身で考えるということをしないと情報に飲まれてしまう。これはみんなに必要なことなのではないかと思う。また、本当は科学的なことが好きだったという方が実は多いと感じている」と述べた。

桝氏も中島氏の「本当は(子どものころは)科学的なことが好きだったという方が多いのでは」という言葉に賛同し、「子どものころ好きだった科学的なことが年を取るにつれて日常という範囲から外れていってしまうのかもしれない」とした。

また桝氏は、「スペインの哲学者オルテガの言葉で“科学が進歩すればするほど、科学が遠くなり、(機械などの)中身の原理を知らない人が増える”というものがあって、世界がそうなっているとも考えられる」と述べた。

  • パネルディスカッションの様子。左から宇田川氏、中島氏、桝氏

    パネルディスカッションの様子。左から宇田川氏、中島氏、桝氏

また、どうしたら科学が日常生活にとって重要な役割を担っていると考える人が増えるかという質問に宇田川氏は「スマートフォンを1つとっても科学が詰まっているが、ブラックボックス化してしまっているかもしれない。科学という言葉を聞くと、“難しいことだからわからない”と思われる方も多い。そこで本質をどう伝えるかというまさにサイエンスコミュニケーションの部分が重要になると感じる」とした。

優秀じゃないとSTEM分野でキャリアを積めない?

STEM分野のジェンダー課題への意識に関しての項目で、「STEM分野の労働力においてジェンダーによる格差は改善されていると思うか」という質問では「改善されている」という回答が日本は調査国中トップの72%にのぼった。

  • SOSI 2022年の「STEM分野の労働力においてジェンダーによる格差は改善されていると思うか」という項目の調査結果。日本は調査国中トップの72%が改善されていると回答した

    SOSI 2022年の「STEM分野の労働力においてジェンダーによる格差は改善されていると思うか」という項目の調査結果。日本は調査国中トップの72%が改善されていると回答した(提供:スリーエム ジャパン)

そのうえで目をひいた結果は、「STEM分野のキャリアを積むことをやめた/妨げた理由は何ですか」という項目で、「自分はSTEMを追求するほど優秀ではないと思っている、またはそう思っていた」という回答が日本は調査国中、最高値の42%となった。

  • SOSI 2022年の「STEM分野のキャリアを積むことをやめた/妨げた理由は何ですか」という調査項目の結果

    SOSI 2022年の「STEM分野のキャリアを積むことをやめた/妨げた理由は何ですか」という調査項目の結果(提供:スリーエム ジャパン)

中島氏はこの結果について「能力とはなにかということ自体揺らぐものだし、研究はなにか1つの能力で測れるものではないと思っている。また、好きという気持ちも、周りと比べてしまったりすることがあると思う。好きというハードルをもう少し低くして、自分がやりたいことをちょっとやってみる。そういったことから見えてくるその人なりのキャリアという価値があるのではないか。好きなものを好きといえる社会が大事だ」とした。

科学に対する意識にとどまらず、科学への向き合い方や、キャリアの形成にまで話が及んだパネルディスカッション。SOSI 2022年版ではほかにも、「サスティナビリティと科学」や「医療の公平性」、「IT関連スキルへの賛否」などさまざまな調査結果が公開されている。