自然なノイキャン感。ながら聴きを快適にする外音取込

LinkBuds Sにはイヤホン本体の内外側それぞれに向けたマイクで集めた音を解析して、リスニングに不要なノイズ成分だけを消去する、ハイブリッド方式のノイズキャンセリング(NC)機能が搭載されています。ノイズの解析とBluetooth通信の制御などを一手に引き受けているのが、ソニーの独自開発による統合プロセッサーの「V1」。このSoCはWF-1000XM4にも採用されています。ただ、本体の作り込みなどのチューニングにより、LinkBuds SのNC性能は「WF-1000XM3と同等」になるとソニーは説明しています。実機で確かめてみましょう。

WF-1000XM4にはパッシブな消音効果が高い、ポリウレタンフォーム製のノイズアイソレーションイヤーピースが標準装備されています。このイヤーピースによる消音効果と、6mm径ドライバーによるパワフルな低音再生を掛け合わせると、やはりWF-1000XM4のほうがLinkBuds SよりもNC機能の消音効果は高めであるように感じます。

  • 4種類のサイズのイヤーピースが付属する

ただ、LinkBuds Sもアプリからイヤーピースの「装着状態テスト」を走らせて、耳に合うイヤーピースを選んで装着すると、かなり良好なNC効果が得られます。消音効果によるプレッシャーはLinkBuds Sのほうが低めで、快適な装着感が持続します。

消音効果は広い音域にバランス良くかかります。家族が同じ部屋でYouTubeの動画を音を出しながら見ていても、LinkBuds Sを着けてNCをオンにすれば、目の前の作業に集中できます。キッチンで料理や皿洗いをしながらNetflixの動画を見るときにも、LinkBuds Sは雑音を消してコンテンツの音に没入させてくれます。本体がIPX4等級の防滴仕様なので、水滴がかかるような場所でも安心して使えます。

  • 風切りノイズを防止できるように内蔵マイクの手前にメッシュを配置している

外音取り込みは「ながら聴きに最適なイヤホン」であるLinkBudsシリーズのコンセプトを実現するため、環境音をより多めに取り込むチューニングにしているそうです。実際に思いのほか自然に外音が聞こえてきますが、やはり本体に穴があいている開放型のLinkBudsほどではありません。筆者はAppleのAirPods Proもよく使っていますが、イヤーピースに由来する遮音性能の違いによるものか、AirPods Proのほうが外音が一段とクリアに聞こえる感じがします。音楽をBGM的に“ながら聴き”できるイヤホンにこだわりを持ちながら探している人は、初代のLinkBudsがより理想に近いかもしれません。

LDAC対応の“ハイレゾワイヤレス”なサウンド

続いてサウンドのインプレッションをお伝えします。

LinkBuds Sには同機のために新規開発された、小型な5mm径のダイナミック型ドライバーが搭載されています。低音も含めて十分にパワフルな音が楽しめますが、大型な12mmのリング型ドライバーを搭載するLinkBudsのほうが鳴りっぷりは良いと思います。ボーカルのエネルギー感が突き抜ける爽快なリスニングはLinkBudsならではの魅力。

  • Google Pixel 6 Proと組み合わせてハイレゾ音楽配信を試聴

LinkBuds Sのサウンドはフラットなバランスで、より上品な雰囲気です。聴き疲れはしないので、オンラインミーティングを含めて長時間イヤホンで音を聴く用途にはLinkBuds Sがフィットします。

LinkBuds Sが対応する、LDACによるハイレゾワイヤレス再生もチェックしました。Google Pixel 6 Proに接続して、Apple Musicのハイレゾロスレスコンテンツを聴きます。「Sony|Headphones Connect」アプリの「サウンド」メニューから「Bluetooth接続品質」を“音質優先”に設定。「サービス」のメニューに並ぶアプリとの連携はオフにしないと、LDACで再生できないので要注意です。

アプリからBluetooth接続品質を「音質優先=LDAC」と「接続優先=AAC」(Pixel 6 Proの場合)から交互に切り換えて、ノラ・ジョーンズの楽曲『Don't know why』で聴き比べてみました。

  • 「Sony|Headphones Connect」アプリで、Bluetooth接続品質を「音質優先」に設定。LDAC対応のプレーヤーなどと組み合わせてハイレゾワイヤレス再生が楽しめる

  • LDACで接続されていることがアプリの画面に表示された

声のふくよかさは段違いで、LDACのほうがリッチです。ピアノとベース、ドラムスによるシンプルな編成のバンドの音像も、LDAC再生のほうが立体的で、楽器の立ち位置がよくわかります。ピアノやギターの濃厚な音色、タイトに引き締まる低音の安定感などにも「LDACで聴く価値」が味わえます。LinkBuds Sは、LDAC再生に対応するスマホやオーディオプレーヤーとの相性がとても良いワイヤレスイヤホンです。

iPhoneは残念ながらLDAC再生に対応していません。ソニー独自のAI技術によるハイレゾ相当の音質へのアップコンバート機能である「DSEE Ultimate」をオンにすると、高域の伸びやかさが向上し、音場の広がりが豊かになります。iPhoneなどLDAC非対応のデバイスに限らず、Androidスマホでもハイレゾ以外の音楽コンテンツを聴く際には、DSEE Ultimateを積極的に活用することをおすすめします。

センシング対応の先に見えてくる、LinkBuds Sの魅力

“穴あきイヤホン”のセンセーショナルなルックスに比べると、LinkBuds Sは同じシリーズのイヤホンでありながら、外観は少し平凡な感じがしてしまいます。実際、LinkBuds Sのデザインはとてもミニマリスティックです。ハウジングの側面に彫り込まれたブランドロゴを見つけないと、ソニーのイヤホンであることがひと目では分かりません。

  • SONYのロゴは側面に目立たないよう配置している

しばらく使い込んでみると、LinkBuds Sのシンプルなデザインは機能性を最優先に練られたものであることがよくわかります。本体が軽くて装着感が心地よいことや、耳から飛び出ないデザインであることの魅力については先に触れた通りですが、他にも本体側面に凹凸を設けず、タッチセンサーを操作するエリアを広く取っているので、リモコン操作がミスなくスムーズにできます。

LinkBuds Sが対応するソニーの新しいアプリ「Auto Play」を活用すると、ユーザーがイヤホンやスマホに触れることなく、立ち上がったり、歩く動作で音楽再生をスタートできます。Auto Playはまだ呼び出せるコンテンツがSpotifyとリラクゼーション系音楽配信のEndel(エンデル)しかなく、認識できるユーザーの動作の種類も限られています。対応するジェスチャーとアプリが増えてくれば、他のイヤホンにはないLinkBuds Sの個性として強く輝きを放つかもしれません。

なお、イヤホンを装着したこめかみのあたりを指でタップすると、音楽操作やハンズフリー通話のリモコン操作ができる「ワイドエリアタップ」はLinkBudsだけが使える機能です。

LinkBuds Sはソニーのハイエンドクラスの完全ワイヤレスイヤホンとして、音質とノイズキャンセリング性能、装着感など申しぶんのない完成度に到達しています。今後、この機種に内蔵するモーションセンサーが活かせるコンテンツが増えてくれば、LinkBuds Sを選ぶ理由がより明確に感じられると思います。ソニーがLinkBudsシリーズの周辺に展開しようとしている、音楽リスニングや音声コミュニケーション以外の体験価値から今後も目が離せません。