最近、キャリアショップや家電量販店の携帯電話コーナーの前を通ると「実質1円」などといった特価の案内を見かけることが増えました。ここ2~3年でスマートフォンの値引き規制についてのニュースを見聞きした覚えのある人なら、「あれ、法改正で安く販売できなくなったんじゃ?」「実質〇円って売り方はもうできないはずでは」と不思議に感じるかもしれません。

そこで今回は、再び街中で見かけることも増えてきた携帯電話の「実質〇円」の仕組みを解説していきます。

  • 「実質〇円」というスマホの売り方が復活してきた。しかし、その仕組みは以前とは少し異なる

    「実質〇円」というスマホの売り方が復活してきた。しかし、その仕組みは以前とは少し異なる

昔の「実質〇円」は本体代金ではなく通信料金からの割引

携帯電話の実質価格といえば、「同じ機種を2年間使い続けた場合の本体の負担額」を指す事が一般的です。

スマートフォンの販売/割引方法をめぐっては2019年に電気通信事業法が改正され、「通信料金と端末代金の完全分離」「行き過ぎた囲い込みの是正」などを目的とした値引き規制が行われました。

まず、2019年以前の仕組みを振り返ってみましょう。キャリアによって名称は異なりますが、指定のプランに加入した上で新しい携帯電話を購入すると、購入から24カ月間続く割引がありました。ドコモなら「月々サポート」、auなら「毎月割」、ソフトバンクなら「月月割」と呼ばれていた割引サービスです。

  • 2019年以前の割引イメージ(ソフトバンクの「月月割」)

    2019年以前の割引イメージ(ソフトバンクの「月月割」)

これらはあくまで機種代金ではなく通信料金に対する割引ですが、「もし本体代金から直接引いたとすれば、実質〇円で新しい機種を買ったことになる」というのが、従来の実質負担額の仕組みでした。

この仕組みの問題点としては、購入から2年経つ前に機種変更や他社への乗り換えをした場合、残りの割引が消えて負担額が上がってしまうことが挙げられます。このため、実質的に他社への転出を防ぐ「囲い込み行為」として総務省の有識者会議などで問題視され、2019年の法改正以降はこの売り方はできなくなりました(※ホームルーターなどは除く)。

今の「実質〇円」は2年後の返却(下取り)が前提

では、一度なくなったはずが復活してきた2022年現在の「実質〇円」はどのような仕組みになっているのでしょうか。

実際に店頭で見かけた「auのiPhone 12(64GB)が実質1円」というPOPを例に、割引の内訳をひも解いてみましょう。

  • 家電量販店で見かけた、auのiPhone 12(64GB)が実質1円という事例

    家電量販店で見かけた、auのiPhone 12(64GB)が実質1円という事例

  • 通信契約にひもづく割引(当店独自割引+5G MNP おトク割)は規制上限の22,000円に収め、端末単体購入でも適用される割引(対象機種限定特典)と残価型割引(スマホトクするプログラム)を重ねて実質1円まで下げている

    通信契約にひもづく割引(当店独自割引+5G MNP おトク割)は規制上限の22,000円に収め、端末単体購入でも適用される割引(対象機種限定特典)と残価型割引(スマホトクするプログラム)を重ねて実質1円まで下げている

au版のiPhone 12(64GB)の通常価格は94,485円です。「店舗独自割引」(▲16,500円)「対象機種限定割引」(▲29,404円)、そして他社からの乗り換え(MNP)と分割払いが条件の「5G MNP おトク割」(▲5,500円)を適用しても、代金は残り43,081円。まだ1円にはほど遠い金額です。

ここでのポイントは「残価」の存在。決められた分割回数を支払った後にスマートフォンを返却する(下取りに出す)ことで、残りの分割支払金の支払いが免除される仕組みを大手キャリア各社が導入しています。この機種の場合は43,080円が残価として設定されているため、先ほどの金額から引いて実質1円となります。

現在見かける「実質1円」のキャンペーンの多くは、このように「2年間使って返す」ことを前提に計算されています。

  • 残価型割引プログラムのイメージ図(au「スマホトクするプログラム」)

    残価型割引プログラムのイメージ図(au「スマホトクするプログラム」)

2年未満で返却した場合も残価の免除は受けられる

もし2年経つ前に買い替えたくなった場合でも、スマートフォンを返却すれば残価の免除は受けられます。

auの「スマホトクするプログラム」の場合、購入から13カ月目以降の返却であれば、2年間使った場合と同様に最終回(24回目)の分割支払金が免除されます。たとえば1年半で返却した場合、24回目(残価)のみ免除され、途中の18回目~23回目は支払うことになります。

また、残価型割引プログラムは通信料金とは独立しているため、たとえば2年間の途中で回線を解約したり他社に乗り換えてしまっても、機種代金の負担が大幅に増えるわけではないというメリットもあります。

3年目以降も使い続ける場合は料金アップに注意

以前の仕組みであれば、2年経った時点で分割払いと割引が終わり、毎月払う料金の総額はそのままか少し安くなるのが普通でした。しかし現在の仕組みでは、2年以上使い続けるとむしろ料金が上がってしまいます。

上にも書いたように、現在実施されている「実質1円」のキャンペーンで購入した場合、機種代金の一部が割引ではなく残価になっています。2年後に返却(下取り)すれば相殺されますが、使い続けたい場合は残りの金額も支払わなければなりません。

  • 残価型割引プログラムの場合、2年経ってからも使い続けるなら残価の支払い(再分割)が必要になる

    残価型割引プログラムの場合、2年経ってからも使い続けるなら残価の支払い(再分割)が必要になる

例に挙げたauのiPhone 12(64GB)であれば、2年経った時点で残っている本体代金は43,080円。この残価は原則、購入3年目から4年目にかけて24回の分割払いとなります。43,080円を24回で割ると月々の支払いは1,795円。つまり2年後、何もしないと毎月の料金が突然2,000円近く上がってしまうわけです。

もちろん、事前に「来月から残価分の支払いが始まる」といった案内がSMSなどで届くようにもなっていますが、そのタイミングで電話機の返却を行わないと「実質1円」でもなくなってしまう点は、従来の実質表記よりも使う側としては難しいキャンペーンではないでしょうか。

2022年版「実質〇円」のポイント
・2年後の返却(下取り)を条件とする割引が主流
・1年以上使えば2年を待たずに返却も可能
・2年で返さずに使い続けると料金が上がる

まとめると、過去の実質価格との意味合いの違いとして大きいのは上記の3点です。安易に「実質1円」の文字に踊らされることなく、2年後に買い替えなかった場合の出費まで確認した上で契約するようにしましょう。

  • ほかの家電量販店で見かけた、ソフトバンクのPixel 5aが48円という事例。赤文字の金額だけを見るとどちらも同じように安く見えるが、こちらは端末の返却は不要だ。条件をよく読んで考えたい

    ほかの家電量販店で見かけた、ソフトバンクのPixel 5aが48円という事例。赤文字の金額だけを見るとどちらも同じように安く見えるが、こちらは端末の返却は不要だ。条件をよく読んで考えたい