10代後半から20代前半の選手が多く活躍するeスポーツのプロシーン。タイトルにもよりますが、20代半ばに引退するケースも多く、その選手寿命の短さから、プロゲーマーのセカンドキャリアに関する話題がたびたび取り上げられてきました。

今回は、プロ選手の経歴を活かしたセカンドキャリアを歩んでいるXhanZさんにインタビュー。XhanZさんは、PC版『PUBG: BATTLEGROUNDS』(以下、PUBG)のプロ選手として活動したあと、現在は4つの学校でeスポーツ講師をしながら、プロゲーミングチーム「Sengoku Gaming」でPUBG MOBILE部門のコーチとしても活躍しています。

プロ引退後に成功するためには何が必要なのでしょうか。XhanZさんのこれまでの経験を踏まえながら、セカンドキャリアについての考え方を聞きました。

  • 4つの学校でeスポーツ講師をしながら、プロゲーミングチーム「Sengoku Gaming」でPUBG MOBILE部門のコーチを務めるXhanZさん。写真は選手時代のもの

プロ選手として3年活躍し、セカンドキャリアの道へ

――最初に『PUBG』のプロ選手になった経緯や、主な活動歴を教えてください。

XhanZ:僕はもともとずっとサッカーと駅伝をやっていて、スポーツ一筋でした。ただ、趣味でやっていたPCゲームをきっかけに、ゲームのプロ選手の存在を知ったんです。それが20歳くらいのころで、自分もゲームでプロを目指そうと思うようになりました。

そこからは、やっていたスポーツを辞め、専門学校や大学にも行かず、ひたすらゲームの練習をしていました。その間は、親がやっている会社の仕事を手伝いつつ、親には「23歳までにプロになれなかったら諦める」と伝えていました。

そして、いろいろなゲームをやっていくなかで、出会ったのが『PUBG』。PCゲームに慣れていたこともあり、スタートダッシュを切れたので、『PUBG』の競技シーンがスタートした初期のころにプロチームに所属できました。23歳のときですね。

プロになってからは、国内プロリーグの「PUBG JAPAN SERIES」(以下、PJS)で結果を出しながらキャリアを積み、最終的に「Sengoku Gaming」PUBG部門のメンバーとして活動していました。プロ選手としての活動期間は、約3年です。

――XhanZさんは2020年12月末に選手引退を発表されましたが、選手としてやり切ったという気持ちからの決断でしたか?

XhanZ:そうですね。PJSの終了が発表されて、「Sengoku Gaming」PUBG部門が解散するタイミングでもありました。今振り返っても、あのタイミングで引退したことに後悔はありません。

当時、すでにeスポーツ講師の仕事をしながら、選手活動をしていたんです。PJSの終了後に開催された「PUBG JAPAN CHALLENGE」(PJC)は、平日にも試合が行われる大会だったので、スケジュール的に両立が難しいという事情がありました。なにより、僕としては講師の仕事がすごく楽しかったので、そちらに注力していこうと考えました。

――選手のころから、すでに講師の仕事をされていたんですね。どのようなきっかけから、講師を始めたのでしょうか?

XhanZ:プロになって2年ほど経過したころ、チームから「講師の仕事があるよ」と紹介してもらったのがきっかけです。セカンドキャリアを安定させたい気持ちがあったので、これはチャンスだと思い、話を聞いて「やります!」と即答しました。当時は静岡に住んでいたのですが、1週間で準備して、学校のある福岡へ移住しました。

4校のeスポーツ講師、さらにPUBG MOBILE部門コーチも

――セカンドキャリアとして、現在どのような仕事をされているか教えてください。

XhanZ:現在は、4つの学校でeスポーツ講師の仕事をしていて、もう1校増える予定です。話をいただくたびに受けていたら、どんどん増えていました(笑)。オンラインでの授業もありますが、すべて九州にある学校です。

もう1つのメインの仕事は、「Sengoku Gaming」PUBG MOBILE部門のコーチです。あとは、イベントでMCや解説をするなど、ちょっとしたストリーマーやキャスターのような仕事もさせてもらっています。

――講師の仕事では、どんなゲームタイトルを教えているのでしょうか?

XhanZ:教えるタイトルは、今はあまり限定されていません。なので、普段からできるだけ幅広いタイトルに触れるようにしています。

また、ゲームスキル以上に注力しているのが、人前で話す能力を身につけるための「トークスキル」の授業。これは僕から学校側に提案したカリキュラムです。実況解説の練習や、企業面接の練習、グループディスカッションなど、セカンドキャリアを見据えた授業も行っています。

  • 講師をしているXhanZさん

――プロゲーマーのセカンドキャリアというと、講師やコーチ以外にも、さまざまな選択肢があると思います。ほかの選択肢を考えたことはありましたか?

XhanZ:正直に言うと、いただいた仕事を受けていたら、流れで今こうなっただけなんです。チームから別の仕事を提案されていたら、まったく違う仕事をしていたかもしれません。ただ、自分が好きなことを続けてきた結果なので、今の仕事が一番やりたかったことなのかなと思いますね。

――選手引退後にストリーマーとして活躍するケースも、一般的にはよくイメージされると思います。そういった選択肢については、どう考えていましたか?

XhanZ:ストリーマーで食べていくのは、プロになるよりも難しいと僕は思っています。プロはゲームの実力さえあればなれますが、ストリーマーは上手さやおもしろさに加えて、動画編集のスキルなど、求められるものがすごく多い。毎日配信する負担を考えても、配信が相当好きでないと難しいと感じますね。

もらった仕事はすべてこなし、チャンスにつなげていく

――活動に集中したい選手も多いと思いますが、現役時代はどのくらいセカンドキャリアのことを考えるべきなのでしょうか?

XhanZ:引退後のことをあまり気にしない人なら突っ走れると思いますが、僕は引退後のことを考えると、不安で足踏みしてしまっていたんです。なので、僕としてはセカンドキャリアの道を用意しておいたほうが、より選手活動に集中できると考えていました。

それに、最初に講師の仕事に飛びついたのは、頼まれたのが『PUBG』の授業だったという理由もあります。生徒に教えながら、授業の時間に自分も『PUBG』をプレイできることに大きなメリットを感じていました。

しかも生徒には、PJSに出場していたほかのチームの選手であるGomashioくんがいて、大会では敵なのに、授業中は講師と生徒として一緒に『PUBG』をしていたんですよ。いい刺激になりましたね。

――選手引退後、セカンドキャリアで成功するためには、どんなことが必要だと思いますか?

XhanZ:いただいた仕事を、すべてこなすことですね。僕自身、可能な限りすべてやってきました。例えば、インタビューを受けたり、キャスターとして出演したり、そういったチャンスをいただいたら、たとえ無償だったとしても、断らずに受けることが大事だと思います。

仕事で1日練習できなかったくらいで、ゲームが下手になるわけではありません。むしろ、ちゃんと外に出て仕事をして、リフレッシュしてまた練習する。自分にとっては、そういうメリハリをつける要素として捉えていました。

それから、チーム内でも必要な連絡をすぐに返すなど、オーナーさんやスタッフさんとのコミュニケーションをしっかりとることが大事。社会人としてのマナーがきちんとしているほど、仕事を振ってもらいやすくなります。そういうチャンスから、少しずつ実績をつくっていくことが大切だと思います。

eスポーツ専門学校で、プロになる夢を叶える生徒とは?

――eスポーツ専門学校について、世間では「プロを目指すのに、本当に通う必要があるのか」と疑問視する声もある印象です。講師をされているXhanZさんから見て、実際にプロになるのはどんな生徒なのでしょうか?

XhanZ:僕が3年近く講師をしてきて、プロになった生徒は2人だけです。その2人は、ちゃんとした生活リズムで、授業にもしっかり出席して、やるべきことをやっていました。逆に、「学校に行く意味なんてない」と言って、家でゲームをしていた生徒で、プロになった人は1人も見ていません。

でも、「わざわざ専門学校に行く必要があるのか」という世間の声も、ある意味で正しいと思うんですよ。プロになるために、ほかのことは一切気にせずゲームに打ち込みたいなら、たしかに学校に来なくてもいい。ひたすら家で練習すればいいですよね。

ただ、学校に来る生徒たちの背景には、親御さんの意向があったり、本当に自分がプロになれるのかという不安があったりします。そうしたなかで、ちゃんと学校に行きながらプロを目指せる環境というのが、eスポーツ専門学校だと思っているんです。

もし学校に通っている間にプロになれたら、選手活動に専念すればいいし、プロになるのが難しければ、学校でバックアップを受けながら別の道を考えることもできる。例えば、ゲームやeスポーツに関わる会社に就職するとか、そうした道も考えられるのが一番のメリットだと感じます。

――なるほど。しかし、3年近く見てきてプロになった生徒が2人というのは、なかなかリアルな数字ですね。

XhanZ:僕が教えている学校のなかには、ミュージシャンやアイドルを目指す音楽系の学科を設置しているところもありますが、その卒業生でプロとしてデビューして、テレビに出るような人は、たった数人です。

サッカーや野球のプロ選手になれる人もわずか。どんなジャンルでも、プロの世界というのは厳しいものです。「専門学校に行ったところで、プロになれない」という声もありますが、そもそもごく一部の限られた人しかプロになれないのは、当たり前のことなんですよね。

――ほかのプロの世界と比べて、プロゲーマーはどこか簡単になれそうなイメージを持たれているのかもしれないですね。

XhanZ:世間からはそう見えているかもしれない、という感覚もよくわかります。でも、実際に身を置いてみると、かなり厳しい世界なんですよね。ただ、一方ですごく夢のある世界でもあります。

僕がコーチをしているPUBG MOBILE部門の選手たちは、最低年俸が保証されていて、さらにリーグの年間賞金総額は3億円。実際に、ゲームでとんでもない金額を稼いでいるんですよ。そういうところを目指す人は、どんどん増えてほしいですね。

――ちなみに、プロ以外の道を目指すことになった場合、どんな進路選択があるのでしょうか?

XhanZ:eスポーツに携わる仕事は、多岐にわたります。学校にもよりますが、例えばeスポーツ大会の運営を学ぶイベントマネジメント専攻に転向して、裏方として支える道に進む生徒もいます。

また、プログラマー専攻など、eスポーツとは異なる学科への転向ができる学校もあります。なので、例えば2年生までにプロになれなければ、3年生では別の学科に移って専門知識を学ぶ、といった判断もできます。

僕が教えていたなかでは、プロゲーマー専攻からモデル専攻に転向して、自身のやりたいことを見つけた生徒もいました。こういった選択肢の広さは、学校に通う大きなメリットの1つだと思います。

eスポーツの世界で、講師として先駆者になりたい

――XhanZさんが今後、チャレンジしたいと考えていることがあれば教えてください。

XhanZ:eスポーツのプロ選手が引退後に講師になると、セカンドキャリアの逃げ道だと言われることもあるんです。でも、それはまだeスポーツの世界で、講師として成功している人がいないからだと思うんですよね。だから、僕はeスポーツの講師として、先駆者になりたいと思っています。

あと、僕は「Sengoku Gaming」というチームが大好きなんですよ。なので、このチームをもっと大きくしていくために、いかに貢献できるかを考えていきたいと思っています。もし「Sengoku Gaming」がなかったら、自分で学校をつくろうかなって(笑)。それくらいeスポーツは、これから底知れない影響力を持つと思っています。

――それでは最後に、プロ選手を目指している人や、その後のセカンドキャリアを考える人たちへメッセージをお願いします。

XhanZ:プロになるためには、ひたすら努力することが一番です。ただ、今出ている1つのゲームに固執するのではなく、手広くプレイしておいて、「これだ」と思うゲームが出たときにスタートダッシュできる実力をつけておくことが、プロへの近道になると思います。

セカンドキャリアに関しては、やはりチャンスをいただいた仕事はすべてやることですね。個人に仕事がもらえる時点ですごいことなので。それを意識していれば、おのずと結果がついてくると思います。

――XhanZさん、本日はありがとうございました!