慶應義塾大学(慶大)は5月17日、2つの磁性層の間に薄い絶縁層を挟んだ磁気トンネル接合において観測される磁場によりキャパシタンス(電気容量)が変化する現象である「トンネル磁気キャパシタンス(TMC)効果」として、世界最大級となる426%を達成したこと、ならびにそのメカニズムの解明に成功したことを発表した。

同成果は、慶大大学院 理工学研究科の佐藤健太大学院生、慶大理工学部の海住英生准教授、物質・材料研究機構介川裕章主幹研究員、米・ブラウン大学物理学科のシャオ・ガン教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

スピントロニクスにおいて、磁気トンネル接合は室温で大きなTMC効果を示すことから、世界中で研究が進められている。このキャパシタンスの変化率はTMC比と呼ばれ、2021年に研究チームが記録した332%が世界記録とされていた。今回の研究では、その記録更新を目指した取り組みが進められたという。

磁場により抵抗が変化する磁気トンネル接合は、トンネル磁気抵抗(TMR)効果と呼ばれ、その変化率(TMR比)が大きくなると磁気記録面密度が向上することから、HDDの磁気ヘッド技術として活用されている。また、トンネル磁気抵抗効果では、電圧を加えるとトンネル磁気抵抗比が下がるほか、TMC効果は、磁性層と絶縁層の界面に電子のスピンに由来するキャパシタンスが存在するため、逆に大きくなることが知られており、2021年の研究では、この電圧効果を利用する形で332%という値が達成されたという。

今回の研究では、磁性層と絶縁層の界面構造に注目。これまでに巨大なTMC効果が観測された磁気トンネル接合では、磁性層と絶縁層に、それぞれ鉄コバルト(FeCo)と酸化マグネシウム(MgO)が使用されていたが、鉄コバルトと酸化マグネシウムの結晶サイズは、それぞれわずかに異なっていることが課題とされていたことから。今回はマグネシウムとアルミニウムの酸化物であるスピネル(MgAl2O4)に着目することにしたという。このスピネルと鉄の結晶サイズの差は1%以内であることが知られており、これにより磁性層と絶縁層の界面で、原子同士がほぼ完全に整列することとなるためTMC比の向上が期待されたとしている。