今回の研究で電極として用いられたのが、剥離法によって表面が平坦にされた超伝導体ニオブとセレンの合金の「NbSe2」であり、NbSe2には中心原子テルビウム(Tb)を化合物フタロシアニン(Pc)2個がサンドイッチにしているTbPc2と、Pcの1個が解離したTbPcの2種類の分子が吸着させられたとする(Tbはスピンを、Pcはラジカルスピンを持つ、2スピン系分子)。
このNbSe2に吸着したこの2種類の分子が持つスピンに関する情報を、電流を用いて読み出すことに挑戦。超伝導状態は精密で磁場に敏感な電子状態を有し、特に磁性不純物が近傍に置かれたときYu-Shiba-Rusinov(YSR)状態が超伝導ギャップ内に出現することが知られており、空間的に原子レベルの限られた領域を流れるトンネル電流の分光を用いることで、4f電子スピンをYSRで検知、かつ4fスピンと配位子が作るスピンの相互作用エネルギー(分子内交換相互作用エネルギー)を直接に観察することに成功したとのことで、これにより、超伝導と分子の組み合わせが量子ビット応用に有用であること、また精密化学分析技術にも貢献できることが示されたと研究チームでは説明する。
なお、量子物性を発揮する超伝導体と分子合成・設計技術による単分子磁石の組み合わせは、物理・化学境界領域のさまざまな新奇現象を生じると期待されており、今回の研究で示されたYSR状態を用いた4fスピンの直接検出は、量子ビットの読み取りに応用されることが期待されると研究チームでは説明しているほか、超伝導体はクーパー対が形成されており、吸着した分子のスピンの情報を撹乱しないなど、電極として優れた性能も有していることが判明したことから、今後、さらにその界面研究が発展することが考えられるともしている。