そこで研究チームは今回、まず「N,N-ジメチルアニリン」や「オルトキシレン」といった、かさ高い置換基を複数有する芳香族化合物の水素化反応に有効な、協調触媒系の開発を行うことにしたという。

これまで独自に開発してきた、入手容易な有機-無機ハイブリッド担体に担持した「ロジウム-白金(Rh-Pt)二元ナノ粒子触媒」は、トルエンの水素化反応において、常温常圧といった温和な条件下で高い触媒活性を示していたが、かさ高い置換基を複数有する芳香族化合物の水素化反応には高温高圧条件が必要とされていた。

そこで今回は、不均一系金属ナノ粒子と「Lewis酸」の協調触媒系を用いることで、Lewis酸を添加しない場合には水素化が困難な基質に対しても、大幅な反応速度の向上が見出されたという。いずれの場合も反応温度40~50℃、大気圧水素という温和な条件下において、高い収率で芳香族化合物の水素化反応が進行することが示されることとなった。

今回の協調触媒系についての反応機構研究のため、詳細な分析が行われた結果、Lewis酸は基質と液相中で直接相互作用し、その複合体が、不均一系触媒表面で活性化された水素と反応することで、円滑に反応が進行していることが示唆されたとする。また、オルトキシレンの水素化反応における反応速度論解析の結果、1.25mol%のスカンジウムトリフラートを添加することで、30倍以上の反応加速が観測され、顕著なLewis酸による反応加速効果が確認されたともしている。

今回の協調触媒系は、炭化水素系芳香族化合物やアニリン誘導体のみならず、複数の置換基を有するピリジン誘導体におけるジアステレオ選択的な水素化反応にも有効に機能し、その生成物はさまざまな生物活性化合物の合成中間体として用いることが可能だという。

また置換基として、かさ高く複雑なキラル補助剤を含む芳香族化合物の水素化反応においても、高い立体選択性が示されたことから、このようなキラル補助剤を含む芳香族化合物の水素化反応は、従来法では高温や50気圧以上の水素を用いる必要があったが、今回の協調触媒系を用いることで大気圧の水素において高い収率で目的物が得られたとする。

なお、今回の協調触媒系を用いることで、これまで水素化反応において過酷な反応条件を必要とした高難度な基質においても温和な条件下での円滑な反応を実現できたことにより、水素を基軸としたさまざまなプロセスの省エネルギー化や省資源化の加速が期待されると研究チームでは説明しているほか、選択的水素化の知見をもとに、ファインケミカルズのより効率的な合成ルートを開拓できると考えられるとしている。

  • Rh-Ptナノ粒子触媒とLewis酸触媒からなる協調触媒系を用いる芳香族化合物の水素化反応

    (上)Rh-Ptナノ粒子触媒とLewis酸触媒からなる協調触媒系を用いる芳香族化合物の水素化反応。(下)今回の協調触媒系を用いるキラル補助剤を有する芳香族化合物の立体選択的水素化反応 (出所:東大Webサイト)