◆消費電力測定(グラフ107~114)

最後に消費電力を比較してみたい。今回はSandra 2021のDhrystone/Whetstone(グラフ107)、CineBench All CPU(グラフ108)、CineBench Single CPU(グラフ109)、TMPGEnc Video Mastering Works 7(グラフ110)、3DMark FireStrike Demo(グラフ111)、Metro Exodus 2K(グラフ112)の6つを測定、それぞれの平均値をグラフ113、平均値とIdle状態の差をグラフ114にまとめてみた。

  • グラフ107

  • グラフ108

  • グラフ109

  • グラフ110

  • グラフ111

  • グラフ112

  • グラフ113

  • グラフ114

グラフを見るとまず明らかなのがCore i9-12900Kの消費電力の高さだが、これは別に今に始まった話ではないし、別に珍しくもない。よく見ると面白いというか興味深いのが、Ryzen 7 5800X3Dの消費電力の低さである。Metro Exodus(グラフ112)では、もうGPUの消費電力そのものが大きすぎて判り難いが、グラフ107~111ではコンスタントに30W近い消費電力削減が実現できているのが判る。グラフ113を見ると、Ryzen 7 5800XとRyzen 7 5800X3Dの差は

Dhrystone 28.4W
Whetstone 31.0W
CineBench All 31.2W
CineBench Single 11.7W
TMPGEnc Peak 17.2W
TMPGEnc Sustained 29.2W
FireStrike Demo 18.2W
Metro Exodus 2K 4.8W

と結構無視できない差があることが判る。これは主に、メモリアクセスが大幅に減ったことが要因であると思われるが、この結果として性能/消費電力効率が大幅に向上したのが、Ryzen 7 5800X3Dの大きなメリットである。例えばCineBenchでAll CPUで実施する際の消費電力量は

Ryzen 7 5800X 11523.4W・sec
Ryzen 7 5800X3D 10514.9W・sec
Core i9-12900K 8963.8W・sec

となっており、Ryzen 7 5800Xから1割程度削減できていることになる(まぁそれでもCore i9-12900Kには及ばないのだが。ただDDR4を使った場合、Core i9-12900Kがここまで優秀な数字になるかは要検証だろう)。

Idle時の消費電力との差を算出したグラフ114ではこれが顕著である。Dhrystone/Whetstoneをフルに動かしても110W程度。TMPGEncですら145W程度であり、明らかにRyzen 7 5800Xよりもバランスが良い。

2020年11月にRyzen 7 5800Xのレビューをした時に筆者は「面白いのはやはりRyzen 7 5800Xだろうか。ダイが一つにも関わらず、ほぼ105WというTDP枠を使い切っている事が判る。ということは、特に全コアをフル稼働させるシーンでは、Ryzen 9 5900Xよりも平均的に高い動作周波数で稼働しているものと想像される。にも拘わらず性能という意味ではRyzen 9 5900Xの方が上なのは、むしろ動作周波数を下げてコア数を増やした方が絶対性能という意味では上になるからだ。」と書いた。要するにRyzen 7 5800Xは消費電力が高めに設定されているのが惜しい、という話であるが、Ryzen 7 5800X3Dは結果的にメモリアクセスの消費電力を減らすことで、30W余りの省電力化に成功した。性能はそれほど落ちず、消費電力を減らせるというのはなかなか素晴らしい事ではないかと思う。

考察と総評 - アプリ次第な面もあるが、電力効率の優秀さが光る

ということでざっくり評価させていただいた結果で言えば

  • CPU性能の向上はアプリケーション次第。最適化したアプリケーションでないと効果は薄い
  • 省電力の効果が素晴らしい

という2点に集約される。

まず1つ目。一般的なアプリケーションでは、Excelの様な表計算ソフトで大規模なシートを処理するとか、あまりないと思うがCNN/RNNなどの推論処理、GEMMなどを使う科学技術計算などではその効果が期待できるが、逆に言えばそれ以外のアプリケーションでは期待しない方が良い。Photo12のキャプションに「脚注を見ると『全てのテストは1920×1080pixelで実施した』とされているあたりがミソ。」と書いたのは、AMDはGeForce RTX 3090を使って評価したにも関わらず、性能差が出るのは2Kだけという話であり、実際この傾向は今回も再確認できた。AMDとしてはやはり性能を全面に押し出したかったのだろうが、詐欺とは言わないまでも誤解を最大限に招きそうな表現であることは間違いない。正確に言えば「GPU性能が有り余っている環境でのみ、Ryzen 7 5800X3Dはその性能を発揮できる」というべきだっただろう(まぁこう書いたら誰も買わなそうな気もするので、難しいとは思うが)。

その一方で2つ目は素晴らしい。もし今Ryzen 7 5800XとRyzen 7 5800X3Dのどちらを買うか迷ってるなら、筆者としてはこの省電力効果だけでRyzen 7 5800X3Dを強く推したい。ぶっちゃけると、なんせRyzen 7 5700Xよりも消費電力が少ないのだ。それでいてRyzen 7 5800X並みの性能が出せるときたものだ。これをお買い得と言わずして何をお買い得と言おう。今年の夏も電力制限があるとかの話がある中、Ryzen 7 5800Xより2万円余分に払う価値があるか? と言われたら、筆者は「ある」と答える(まぁこれは個人的な見解なので、異論がある人が多いだろうとは思うが)。

惜しむらくは、アプリケーション最適化は今のところMilan-XベースのEPYCでは話があるが、Ryzen向けにそうした話が無い事だろうか? ただ未来はこうした3D積層SRAMを向いているだけに、アプリケーションの対応にも期待したいところではあるのだが。