日本HPのゲーミングノートPC「Victus 16」は、16.1型ディスプレイを採用するクラムシェルスタイルのゲーミングノートPCシリーズだ。搭載するCPUやGPU、システムメモリの規格、本体に搭載するHDMI出力規格の違いで複数のモデルが存在するが、今回はCPUにAMD Ryzen 7 5800Hを搭載し、GPUにはNVIDIAのGeForce RTX 3060 Laptopを組み合わせた構成を取り上げる。

  • 今回評価するのはVictus 16 AMDモデルの最上位構成だ

HPのゲーミングノートPCのラインアップは主に「OMEN」ブランドで展開されているが、「Victus」ブランドでもゲーミング製品をラインナップしている。選択できる仕様の自由度で差別化が図られているようで、例えばOMENブランドはGPUにNVIDIA GeForce RTX 3070 Laptopまで選べるが、VictusブランドではNVIDIA GeForce RTX 3060 Laptopまで選べるようになっている。

  • 天板には「V」のエンブレムが大きく刻まれている

  • ディスプレイヒンジにさりげなく刻印された「016」

  • 背面にある排熱スリットはディスプレイを開くと排熱をディスプレイパネル表面に沿って上方に吐き出す

  • 底面のスリットから本体内部に組み込んだクーラーユニットを目視できる

本体に搭載するインタフェースは、USB 3.0 Type-Aが3基にUSB 3.0 Type-Cが1基、SDカードスロット、そして映像出力としてHDMI 2.1を備えている。さらに、ゲーミングノートPCでは必須の有線LAN(RJ-45)も搭載。無線接続ではIEEE802.11axに対応したほか、Bluetooth 5.2も利用できる。

  • 右側面には有線LAN、HDMI出力、USB 3.0 Type-A、USB 3.0 Type-Cを備える

  • 左側面には2基のUSB 3.0 Type-Aを搭載する

  • 正面

  • 背面

  • ディスプレイの上には有効画素約92万画素のWebカメラとステレオスピーカーアレイを内蔵する。音響設計ではB&O Playの監修が入っている

キーボードのキーピッチは実測で約18.5mm、キーストロークは約1.5mm確保する。右寄りにはテンキーを備えているが、この並びがアルファベットキーと隣接しているだけでなく、キーピッチがアルファベットキーとほぼ変わらずに連続して配置されている。そのため、Enterキー、BackSpaceキーなどをタイプするときにテンキーをたたきそうになって意識してしまうことが少なからずあった。

  • キーボードはピッチが実測で約19mm、キートップサイズが同じく実測で約16mm。タッチパッドサイズは実測で約125×80mm

  • キーボードにはLEDを組み込んで暗所でもタイプ可能だ

  • キーストロークは実測で約1.5mm。感触は軽め

ディスプレイには、解像度が1,920×1,080ドットで非光沢タイプのパネルを採用する。見栄え重視のゲーミングモデルでは光沢タイプを採用する製品も少なくないが、周囲の環境光がディスプレイに反射して視認性に影響することも多い。このため、ゲームプレイを重視するならばVictus 16のような非光沢タイプのディスプレイを選びたいところだ。また、リフレッシュレートが144Hzと汎用ノートPCと比べると速いため、動きのあるコンテンツをなめらかに再生できる。

  • ディスプレイは非光沢パネルを採用しているので、周囲の環境光を反射せずゲームプレイに集中できる

ディスプレイは16.1型というやや珍しいサイズで、15.6型より一回り大きくて見やすい。一方で、17.3型ディスプレイを搭載したノートPCと比べてボディサイズをコンパクトにできる利点もある。

なお、Victus 16の重さは約2.48kgと決して軽くはないが、それでも置き場所や収納性を考えるとボディがコンパクトであるメリットはある。Victus 16の本体サイズは約W370×D260×H23.5mmとなっており、17.3型ディスプレイを搭載するHPのゲーミングノートPC「OMEN 17」よりも幅が3cm弱短く、その分コンパクトになっている。

Victusブランドでも十分強力なゲームプレイが可能

今回はOSにWindows 11 Home 64ビット版、メモリにDDR4-3200で16GB(8GB×2枚構成)、ストレージにSSD 512GB(NVM Express 1.3)のMicron MTFDHBA512TDV-1AZ1AABHAを載せている機材を用いて、Victus 16の性能を評価する。

CPUとして搭載するRyzen 7 5800Hは、2021年1月に登場した「Ryzen 5000 Series for Mobile」のプロセッサだ。AMDにおけるAPU世代としては2022年に登場したRyzen 6000 Series for Mobileの1つ前となるが、それでもアーキテクチャに“Zen 3”を採用している。Ryzen 7 5800Hは8コア16スレッドの構成で、動作クロックは基本で3.2GHz、最大ブーストクロックで4.6GHzとなる。TDPはデフォルトで45W。L3キャッシュメモリの容量は合計で16MBだ。

  • CPU-Zで確認したRyzen 7 5800Hの仕様

GPUとして搭載するGeForce RTX 3060 Laptopは、NVIDIAが2021年1月に発表したノートPC向けGPU「GeForce RTX 30シリーズ」で、現行ラインアップではGeForce RTX 3050 Tiの上位に位置する“中の下”モデルだ。NVIDIAが2020年に投入したAmpereアーキテクチャをノートPC向けGPUでも導入し、CUDAコアの数は3,840基、ブーストクロックは1,283~1,703MHz、グラフィックスメモリはGDDR6に対応してメモリインタフェースのバス幅は192bit確保している。

Ryzen 7 5800HとGeForce RTX 3060 Laptopを組み合わせたVictus 16の処理能力を検証するため、ベンチマークテストのPCMark 10、CINEBENCH R23、CrystalDiskMark 8.0.4 x64を用いて測定した。加えて、ゲーム描画処理能力を測定するベンチマークテストとして3DMark Time Spy、ファイナルファンタジー XIV:漆黒のヴィランズ、シャドウ オブ ザ トゥームレイダー ディフィニティブエディション、FarCry 6を実施している。

なお、比較対象としてCPUにCore i9-12900H(Pコア6基+Eコア8基20スレッド、最大5GHz、キャッシュ24MB)とGeForce RTX 3050 Ti Laptopを搭載し、ディスプレイ解像度が1920×1080ドット、システムメモリがDDR4-3200 16GB、ストレージがSSD 512GB(PCI Express 3.0 x4接続)のノートPCで測定したスコアを併記する。

性能 Victus 16 比較対象PC
PCMark 10 6546 7111
PCMark 10 Essential 9522 10933
PCMark 10 Productivity 9139 9765
PCMark 10 Digital Content Creation 8750 9142
CINEBENCH R23 CPU 12080 12384
CINEBENCH R23 CPU(single) 1402 1919
CrystalDiskMark 7.0.0 x64 Seq1M Q8T1 Read 3506.93 3347.06
CrystalDiskMark 7.0.0 x64 Seq1M Q8T1 Write 2945.53 3223.33
3DMark Time Spy(標準設定) 8028 4714
FFXIV:漆黒のヴィランズ(最高品質) 15612 9040
FFXVベンチマーク(カスタムで全てON&最高or高) 3345 1647
トゥームレイダー(グラフィックス設定で全て最高、平均fps) 108 29
FarCry 6 ベンチマーク(カスタムで全てオンor最高、最大fps) 72 18

比較対象ノートPCが搭載する第12世代“Alder Lake”CoreプロセッサのCore i9-12900Hと比較すると、Ryzen 7 5800Hの一般的なPCとしての処理能力を測定するPCMark 10とCINEBENCH R23のスコアは低い値になっている。しかし、一転してゲーミングベンチマークテストのスコアは比較対象を大きく上回る。ゲーミングPCとしての実力に注目した場合、搭載するGPUの差がCPUの差を凌駕していると言えそうだ。

Victus 16はゲーミングノートPCという性格上、静音性よりも処理能力を優先することになり、高クロックで動作するCPUとGPUを冷却するためクーラーファンが高速で回転する。そのため、多くのゲーミングPCは回転するファンの騒音が轟々と唸ることになるが、Victus 16のクーラーファンは風切り音こそはっきりと聞こえるものの、その音量は決して大きいものではなかった。

電源プランをパフォーマンス優先に設定して3DMark NightRaidを実行し、CPU TESTの1分経過時において、Fキー、Jキー、パームレスト左側、パームレスト左側、底面のそれぞれを非接触タイプ温度計で測定した表面温度と、騒音計で測定した音圧の値は次のようになった。

表面温度(Fキー) 37.2度
表面温度(Jキー) 42.4度
表面温度(パームレスト左側) 28.8度
表面温度(パームレスト右側) 28.3度
表面温度(底面) 48.4度
発生音 48.3dBA(暗騒音37.5dBA)

キーボードは全体的にほんのりと温かくなる。測定値としてはJキーで42度台と、“お風呂”並みの温度となっているが、温度計で示された数値ほど熱いという実感はない。少なくとも暑くて汗ばんで不快になることはなかった(ただ、この作業をしていたのは冷え込みが厳しかった3月下旬のことだったのは考慮する必要がある)。

クーラーファンから発生する風切り音は、騒音計で測定する限り50dBAに近いレベルまで達している。ただ、こちらも測定値が示すほどうるさいと感じなかった。風切り音は高い「キーン」という鋭いサウンドで、これが騒音計にあまり認識されなかったのかもしれない。

20万円強で投入されたVictusブランドのゲーミングモデル

Victus 16は、今回評価した最上位構成モデルでも209,000円前後で購入できる。これは汎用ノートPCと比べても高くない。それでいて、処理能力はベンチマークテストのスコアを見て分かるようにとても高い。ディスプレイは非光沢で見やすく、動きのあるシーンもなめらかだ。その意味で、費用対効果はとても高く感じる。

なお、ビジネス利用も考えてVictus 16を購入しようと考えるケースもあるかもしれない。もし文章入力の機会が多いならば、タイピングのフィーリングについてはよく試した上で判断することを強く推奨しておきたい。

  • ACアダプタのサイズはW168×D78×H25mmで、重さは608g(コード込み)