ソフトバンクと筑波大学の産学連携によるスポーツ支援サービス「AIスマートコーチ」が3月31日に公開されました。学校スポーツの課題解決を目的に、指導者不足や地域格差に左右されることなく、誰もが楽しく技術の基礎を固められるように作られたサービスです。AIスマートコーチは子どもたちの部活動にどんな影響を与えてくれるのでしょうか。
「AIスマートコーチ」でできること
AIスマートコーチは、学校スポーツ(部活動)やアマチュアアスリートに向けて開発されたサービスで、小学生~高校生の利用を想定しています。より具体的には、部活動を始めて特定の競技に打ち込むようになる時期である中学生がメインターゲットです。
まずは野球、バスケットボール、ダンス、サッカーの4種目に対応し、基礎として身につけておきたい各種動作を動画コンテンツとして用意。競技や練習メニューは順次追加される予定です。
AIスマートコーチがやってくれることは、まずお手本を見せること。そして、お手本動画と自分、あるいは過去の自分と現在の自分を比較して、成長点や課題を可視化することです。
お手本動画は、スポーツ教育のノウハウを持つ筑波大学が監修。出演者は同大学の学生が中心ですが、ダンスについてはD.LEAGUEの現役プロダンサーが出演します。
実際にアプリを操作して体験してみました。アプリのトップ画面から練習したい動画を選んで再生開始。さらに自分の練習風景を撮った動画を追加して、フォームや動きの違いを比較できます。上の写真では上下に並べていますが、重ねて視聴することも可能です。
アプリの操作感としては、最近はやりの縦向きショート動画(TikTokやYouTube Shorts)に近い印象。スマホ世代のターゲット層なら難なくすぐに使いこなせるはずです。
お手本と自分の動画の再生タイミングや重ねる位置をしっかり微調整できたり、視線や体の軸など注意すべき点をマーカーで書き込めたり、普通の動画編集ならちょっとなことも手軽にできるように気を配っています。
お手本との比較だけではなく、スマートフォンに保存されている動画同士を比較することもできます。日々撮り貯めた動画を使って自分の成長を確認したり、周りの先輩のフォームを研究したりと応用的な使い方もできます。
さらに、最新技術を惜しみなく使った機能も。動画に映る人の体や動きを読み取り、骨格の動きを視覚化する解析機能が搭載されています。プロの練習さながらの機能を初心者のうちから無料で使えるというのは、素人目に見ても上達が早そうに思えます。
開始時点ではAIスマートコーチの“AI”要素は骨格解析のみですが、将来的には先に述べたような動画比較時の微調整をAI技術で不要にし、余計な手間をかけずに練習に集中できるよう使い勝手を向上するなど、さらなる進化が計画されています。
どこでも、誰でも、その気になれば高みを目指せる練習システム
携帯キャリアとして知られるソフトバンクですが、スポーツとの関わりが深い会社でもあります。プロ野球球団「福岡ソフトバンクホークス」を保有するほか、プロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE」のトップスポンサーを務め、5GやxR、あるいは球場でのキャッシュレス決済の推進など、得意のICTと絡めた取り組みを多数行ってきました。
スポーツ教育という分野に限っても、今回が初めてではありません。元プロアスリートなど300人以上のコーチによる専門的な指導をオンラインで受けられる「スマートコーチ」という有料サービスを2015年から提供しています。
そこに今回の新サービスが加わったことで、まずは動画コンテンツやAI解析で基礎を固め、ある程度のレベルに達したらプロの指導で高みを目指すという流れが出来上がったことになります。
重要なことは、AIスマートコーチは地域や学校に関係なく、iPhoneかiPadがあれば誰でも利用できるサービスだということです。
今回ソフトバンクと手を組んだ筑波大学アスレチックデパートメントは、米国の大学スポーツのような分業体制を持ち込むことで日本の学校スポーツの課題を解決できないかと模索してきた組織です。
日本では学習面を受け持つ教員たちが部活動の指導にもあたりますが、この仕組みは教員の負荷の大きさが問題視されていると同時に、競技経験のない顧問のもとで第一歩を踏み出すことになる児童・学生にとってのデメリットもあります。それを解決できる分業体制を、アプリによって部分的に実現できる可能性があります。
良質な学習コンテンツや専門家による指導の機会をオンラインで提供することで、競技経験のない顧問教員にとっては理論と習得状況を踏まえた的確な指導を補うことができ、生徒/学生にとっては、地域ごとの競技人口の差や学校ごとの指導体制の差を問わず才能を開花させられる機会につながるでしょう。
当初は個人向けのサービスとして提供を開始しますが、構想的にはやはり学校単位、自治体・教育委員会単位での導入が欠かせません。2023年度に向けてチーム導入のための機能を開発し、学校や自治体と連携してアプリを育てていく計画です。