ASUS JAPANの「ROG Flow Z13」は、13.4型ディスプレイを採用するスレートスタイルのゲーミング“タブレット”だ。その見た目はタブレットではあるものの、OSはWindows 11 Home 64ビットを導入し、CPUにはIntelの第12世代Coreプロセッサ(開発コード名:Alder Lake)、GPUにはNVIDIAのGeForce RTX 30 Laptopシリーズを採用する本格的なゲーミングPCといってもいい。

今回レビューするのはCPUが「Core i9-12900H」、GPUが「GeForce RTX 3050 Ti Laptop」を搭載するROG Flow Z13ラインアップで最上位となるモデルだ。加えて、今回はASUSの外付けGPUボックス「ROG XG Mobile」を接続した状態におけるゲーミング処理性能も検証した。

  • 13.4型ディスプレイを搭載したゲーミング“2-in-1”PC「ROG Flow Z13」

ASUSは2022年1月に新しいゲーミングノートPCのラインアップとして「ROG Flowシリーズ」「ROG Zephyrusシリーズ」「ROG Strixシリーズ」「ASUS TUFシリーズ」を発表し、日本国内モデルとして16機種を2月から順次投入している。ROG Flowシリーズは、モバイルゲーミング環境を実現する2-in-1 PCのラインアップとして位置づけられている。

ROG Flow Z13はこのラインナップにおいて、着脱式キーボードでクラムシェルスタイルのノートPCとスレートスタイルのタブレットを使い分ける点が大きな特徴だ。なお、ASUSの新しいゲーミングノートPCのラインアップ詳細についてはこちらの記事を、日本で展開するモデルの発表会詳細についてはこちらの記事でそれぞれ紹介している。

キーボード部は取り外し可能。タブレットとしても使える

本体のサイズは本体のみの場合で幅302×奥行き204×厚さ14.5mm、重さは1.18kgになる。これに着脱式専用キーボードを装着するとサイズは幅302.8×奥行き220.72×高さ20.1mmとわずかながら大きくなり、重さは約1.52kgへと増える。ただ、それでも13.4型ディスプレイクラムシェルスタイルの“汎用”ノートPC相当の重さとサイズに収まる(モバイルノートPCと呼ぶにはやや無理がある)。

  • 着脱式キーボードを取り外すとスレートスタイルのタブレットとして使える

  • 背面にスタンドを備え、本体だけで自立させられる

  • 背面のスタンドはここまで倒せる

キーボードは装着したままディスプレイカバーとしても使用可能だ。キーボードの本体側を折り込んでディスプレイ下に装着することで、キーボードに角度がついてタイプしやすくなる。ただ、浮いたキーボードを薄いパネルだけで支えているため、タイピング時はボンボンと弾むような音が響いてしまう。キーピッチは約18.5mm、キーストロークは約1.7mmを確保する。

  • キーボードでは一部に分割レイアウトを取り入れている

  • バックライトは指定した色とパターンで光らせることが可能だ

  • 浮かせて打ちやすい角度をつけることもできる

  • キーボードはカバーとしても使える

本体に搭載するインタフェースはThunderbolt 4、USB 2.0 Type-A、microSDメモリーカード。そしてROG XG Mobile用の専用インタフェースを備える。無線接続ではWi-Fi 6に対応したほか、Bluetooth 5.1も利用できる。

  • 右側面にはヘッドホン&マイク端子とUSB 2.0 Type-Aを備える。電源ボタンは指紋センサーを組み込んでいる

  • 左側面にはThunderbolt 4にROG XG Mobile専用インタフェースを載せる

  • ROG XG Mobile専用インタフェースはゴム製のカバーで保護されている

  • 上側面には排気スリットが並ぶ

  • 下側面には着脱式キーボードユニット専用コネクタがある

  • 背面のスタンドを跳ね上げるとmicroSDスロット(赤枠)にアクセスできる

13.4型ディスプレイの解像度は、評価機の「GZ301ZE-I9R3050TE」で1,920×1,200ドット。最上位構成ラインアップでは解像度が3,840×2,400ドットのモデル(GZ301ZE-I9R3050TE4K)も用意している。ただし、1,920×1,200ドットのディスプレイではリフレッシュレートが120Hzなのに対し、3,840×2,400ドットのディスプレイでは60Hzに留まる。ゲーミング用途では120HzのGZ301ZE-I9R3050TEを、4Kを要するコンテンツ制作用途ではGZ301ZE-I9R3050TE4Kを選ぶのが妥当だろう。

  • 評価機の解像度は1,920×1,200ドット。光沢パネルはメリハリのある八所育を楽しめるが、周囲の光が映り込む

最上位モデルの“単体性能”をチェック!

評価機「GZ301ZE-I9R3050TE」はROG Flow Z13の最上位構成モデルで、Core i9-12900HとGeForce RTX 3050 Ti Laptopを搭載。Core i9-12900HはP-Coreとして6基、E-Coreとして8基を組み込んでいる。P-Coreはハイパースレッディングに対応しているので、CPU全体としては20スレッドを処理できる。動作クロックはベースクロックでP-Coreが2.5GHz、E-Coreが1.8GHz、ターボ・ブースト利用時の最大周波数はP-Coreで5GHzに達し、E-Coreでも3.8GHzまで上昇する。Intel Smart Cache容量は合計で24MB。TDPはベースで45W、最大で115Wとなる。

  • CPU-ZでCore i9-12900Hの仕様情報を確認する

GPUとして搭載するGeForce RTX 3050 Ti Laptopは、CUDAコアを2,560基搭載し、ブーストクロックは1,035~1,695MHz。グラフィックスメモリにGDDR6 4GBを搭載してメモリインタフェースは128bit確保している。評価機材のGPU動作クロックを3DMark System Informationで調べたところ、Average clock frequency欄で1,200MHz、Clock frequency欄で1,755MHzと表示されていた(Memory clock frequency欄の表示は1,375MHz)。

  • GPU-ZでGeForce RTX 3050 Ti Laptopの仕様情報を確認する

Core i9-12900HとGeForce RTX 3050 Ti Laptopを組み合わせた"タブレット単体での"処理能力を検証するため、PCMark 10、CINEBENCH R23、CrystalDiskMark 8.0.4 x64を用いてベンチマークテストを実施した。なお、ROG Flow Z13ではユーティリティの「Armoury Crate」において処理能力とクーラーユニットなど多くの項目を設定できるが、そのプリセットとして「Windows」「サイレント」「パフォーマンス」「Turbo」を指定できる。ここでは、PCの総合的な処理能力を評価するためにWindowsモードを指定してスコアを測定した。ゲームにおける処理能力とArmoury Crateの詳細については、ROG XG Mobileを接続した状態も含めて後ほど評価する。

なお、比較対象としてCPUにCore i7-11800H(8コア16スレッド、最大4.6GHz、キャッシュ24MB)とGeForce 3070 Laptopを搭載し、ディスプレイ解像度が1920×1080ドット、システムメモリがDDR4-3200 8GB、ストレージがSSD 512GB(PCI Express 3.0 x4接続)のノートPCで測定したスコアを併記する。

ベンチマークテスト ROG Flow Z13 比較対象PC(GeForce RTX 3070 Laptop)
PCMark 10 7111 7047
PCMark 10 Essential 10933 10232
PCMark 10 Productivity 9765 9211
PCMark 10 Digital Content Creation 9142 10077
CINEBENCH R23 CPU 12384 10077
CINEBENCH R23 CPU(single) 1919 1515
CrystalDiskMark 7.0.0 x64 Seq1M Q8T1 Read 3347.06 2078.69
CrystalDiskMark 7.0.0 x64 Seq1M Q8T1 Write 3223.33 1160.68

見た目はタブレットのROG Flow Z13が、堂々たるクラムシェルスタイルの比較対象ゲーミングノートPCをほとんどのスコアで上回っている。比較対象もゲーミングPCなので、当然処理能力としては高いレベルにある。それをスレートタブレットのROG Flow Z13がさらりと追い越していくのだから、ある意味驚いた。ゲーミングPCとしての実力は、とても高いレベルにあると言えるだろう。

続いて、外付けグラフィックスを接続した状態でゲームにおける処理能力を検証するが、その前にASUSが独自に用意したユーティリティ「Armoury Crate」について解説する。Armoury Crateではシステムステータスの把握やアクティベートしたゲームタイトル管理、PCに組み込んだLEDやキーバインドの設定、そして動作クロック、有効にするグラフィックスコアの切り替えなど、その制御範囲は多岐にわたる。そこで、想定される利用場面に合わせて最適な設定を事前にプリセットしてユーザーが選択できるようにしている。

用意されているモードは「Windows」「サイレント」「パフォーマンス」「Turbo」の4種類だ。「Windows」は汎用的なPC利用を想定して負荷に合わせた可変が効くバランスを重視したモードで、「サイレント」は静音を重視してグラフィックスはCPU統合グラフィックスコア限定としてCPUの動作クロックを下げて発熱を抑え、クーラーファンの回転数を下げて静かに使えるようにしている。パフォーマンスモードは処理能力優先のモードで、Turboモードは処理能力を最大限に引き出す設定となる。

なお、バッテリー駆動状態では自動的にサイレントモードが選択される。この状態でもパフォーマンスモードは使えるがTurboモードは選択できない。TurboモードはAC接続時のみ有効にできる。

  • ユーティリティ「Armoury Crate」でプリセットされているモードを選択すると、動作クロックやクーラーファン回転数をモードに合わせた設定に切り替える

外付けGPUボックス「ROG XG Mobile」装着時の性能は?

外付けGPUボックスの「ROG XG Mobile」は、PC本体をAC接続にした状態で有効になる。ROGシリーズの対応モデルに搭載する専用インタフェースにROG XG Mobileのケーブルと接続してコネクタにあるノッチでロックするとコネクタのLEDが白から赤に変わり、システムでROG XG Mobileを認識したダイアログが表示される。

ここでOKをタップ(クリック)するとROG XG Mobileに搭載したGPUがPC本体のGPUに代わって外付けGPUとして認識される。評価機の「Armoury Crate」でも、それまで表示されていたGeForce RTX 3050 Ti Laptopに代わって、評価用のROG XG Mobileに搭載されていたGeForce RTX 3070 Laptopに表示が切り替わってい。

  • 外付けGPUボックスの「ROG XG Mobile」

  • インタフェースとしてUSB3.2 Gen1 Type-Aが4基、DisplayPort出力、HDMI出力、SDメモリーカードリーダー、有線LAN用RJ-45を備える

  • ROG XG MobileとPC本体を接続するケーブルは太く短いので取り回しに苦労する

  • 接続ケーブルのPC接続側コネクタ

  • ROG XG Mobileも本体にスタンドを備えているので、縦置きでも利用できる

  • ROG XG Mobileを有効にすると、GPU-Zの仕様情報もGeForce RTX 3070 Laptopに切り替わった

ゲームにおける処理能力の検証では、まず、ROG Flow Z13本体のみでACを接続した状態(GPUでGeForce RTX 3050 Ti Laptopが認識されている状態)でArmoury Crateで「パフォーマンス」「Turbo」を選択して測定し、加えて、ROG XG Mobileを接続してTurboモードを選択して測定したスコアを並べている。

ゲームベンチマークテストとしては3DMark Time Spy、ファイナルファンタジー XIV:漆黒のヴィランズ、FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク、シャドウ オブ ザ トゥームレイダー ディフィニティブエディション、FarCry 6を実施した。なお、比較対象としてCPUにCore i7-11800H(8コア16スレッド、最大4.6GHz、キャッシュ24MB)とGeForce 3070 Laptopを搭載し、ディスプレイ解像度が1920×1080ドット、システムメモリがDDR4-3200 8GB、ストレージがSSD 512GB(PCI Express 3.0 x4接続)のノートPCで測定したスコアを併記する(ただし、シャドウ オブ ザ トゥームレイダー ディフィニティブエディションを除く)。

システム構成 ROG Flow Z13:パフォーマンス ROG Flow Z13:Turbo ROG XG Mobile:Turbo 比較対象PC(GeForce RTX 3070 Laptop)
3DMark Time Spy(標準設定) 4014 4714 11133 10049
FFXIV:漆黒のヴィランズ(最高品質) 4320 9040 17034 16752
FFXVベンチマーク(カスタムで全てON&最高or高) 測定不能 1647 4589 4526
トゥームレイダー(グラフィックス設定で全て最高、平均fps) 16 29 137
FarCry 6 ベンチマーク(カスタムで全てオンor最高、最大fps) 13 18 86 80

ROG Flow Z13本体のみでは、いかにCPUがCore i9-12900Hであったとしても、最新世代ながらエントリークラスのGeForce RTX 3050 Ti Laptopに見合った、比較対象のゲーミングノートPCから大きく引き離されたスコアとなってしまうが、ROG XG Mobileを接続してGeForce RTX 3070 Laptopが認識されると比較対象を上回るスコアをたたき出している。外付けユニットという、比較対象と同じGPUとはいえ処理速度的には不利になる構成だが、Core i9のパワーをもってして力ずくで引き離したといえるだろう。

以上のように今回の評価はROG XG Mobileを含めてROG Flow Z13の処理能力に集中して評価した。これは「ゲーミングPCといえど、否、ゲーミングPCだからこそ見た目より性能でしょ」という超私的価値観と「デザインに意見を言えるほど美的センスを持ち合わせていない」という超私的限界が故だ。

  • 背面に設けた「LEDで輝く基板が見える窓」やスタンドを開くに役立つ「赤いノッチ」、そしてスリットなど「みんな好きでしょ、こういうの」的デザインがゲーミングデバイスらしさを演出する

タブレットスタイルでの気軽なゲーミングにぴったり

タブレットPCの利点として、コントローラーを持った状態で本体を自立させれば設置スペースが少なくて済むという点が挙げられる。これは、やりたいと思ったらどこでもすぐやりたいゲーマーにとって、設置環境条件としては意外とメリットが大きい(ゲームやる前に片づけて場所を空けるなんてことしてられっかってこと)。

その観点でいえば、ゲーム専用機の気軽さでPCゲームができるROG Flow Z13は、なにげにPCゲームの普及に大きな潜在力を持っているのではないだろうか。

  • タブレットスタイルにした本体とROG XG Mobile、そしてワイヤレスで接続したコントローラーの組み合わせは、気軽に始められるPCゲームの可能性を感じさせる