スマートフォンさえ持ち歩いていればどこからでも自宅と同じようにゲームを遊べる「リモートプレイ」。便利ながらまだ課題も多い機能ですが、最新の通信技術「5G SA」でゲーマーの夢に一歩近付くかもしれません。ソニーとKDDIが行った技術検証を取材しました。

  • 5G SAでの「リモートプレイ」をソニーとKDDIが実験

    5G SAでの「リモートプレイ」をソニーとKDDIが実験

近い将来、「リモートプレイ」がもっと快適になるかも

近年、リモートプレイやクラウドゲーミングなどの技術が進化したことで、外出先でもスマートフォンから家庭用ゲーム機のハイクオリティなゲームを楽しめるようになりつつあります。たとえば、PS5やPS4には「PS Remote Play」という遠隔機能があります。以前はWi-Fi環境のみで利用でき、あくまで自宅の中で別の部屋から遊べる程度でしたが、2021年9月のアップデートでLTE/5G経由でどこからでも利用できるようになりました。

据え置きの家庭用ゲーム機のソフトをスマホでも同じように遊べるという夢のような機能ですが、まだ完璧ではありません。場所や時間帯によっては通信環境が整わず、映像や操作が遅れて満足に遊べないことがあります。特に、展開の速いFPSやレースゲーム、格闘ゲームなどのプレイヤーにとってはまだ快適とは言えない部分も多いでしょう。

そこで、最新のモバイル通信技術「5G SA」とその目玉機能「ネットワークスライシング」を活用して、より快適で安定したゲームストリーミング(リモートプレイ)ができないか、というのが今回行われた実験の概要です。

  • PS5の「PS Remote Play」

    PS5の「PS Remote Play」

5G SAとネットワークスライシングで何が変わるのか

日本でも5Gのサービス開始から丸2年が経ち、すでに5G対応のスマートフォンを持っている人も多いでしょう。しかし、今提供されている5Gはまだ“真の5G”ではありません。

現状で提供されている5Gは、より細かく言えば「NSA」というタイプ。スマートフォンから基地局までの無線通信は5Gになっていますが、そこから先のコアネットワークと呼ばれる裏方の部分は4G(EPC)のままなのです。このNSA方式でも通信速度など一部のメリットは現れていますが、本領が発揮されるのは、コアまですべて5Gになる「SA」という次のステップに進んでからです。

  • 5Gは「SA」になってからが本番

    5Gは「SA」になってからが本番

ゲームストリーミングでも期待される「ネットワークスライシング」も、5G SAにならないとできないことのひとつです。詳しい説明をすれば技術的な話になりますが、一言でまとめると、その名の通りネットワークを目的別にスライスする(切り分ける)ことで、用途に合わせた専用道を作れる仕組みです。

5Gで通信する機器はスマートフォンばかりではありません。たとえば自動運転のための通信なら、一瞬のラグもなく指示を送れること(低遅延)や途切れず確実に通信できる安定性が重要でしょう。一方、VRで高画質のライブ映像を観るなら、そこまで厳しい低遅延や安定性は求めない代わりに通信速度(帯域の広さ)が重要になります。このように、何をしたいかによってネットワークに求める性能は変わるので、それぞれの目的に合わせたスライス(専用道)を作れるようにする機能がネットワークスライシングです。

  • 5G SAになると「ネットワークスライシング」で目的別にチューニングできるようになる

    5G SAになると「ネットワークスライシング」で目的別にチューニングできるようになる

ここで、話をゲームストリーミングに戻しましょう。外出先のスマートフォンから自宅のプレイステーション5に接続してリモートプレイをするなら、ネットワークに求められる役割は「高画質なゲーム映像を途切れることなく送る」「指示・操作を一瞬の遅延もなく送る」という2つです。スライシングの仕組みがない5G NSAや4Gなら、ゲームのためだけの回線ではないのでそう都合良く改良することはできません。しかし、5G SAなら「低遅延で安定したゲーム専用回線」をネットワークスライシングで疑似的に作れるのです。

  • ゲームストリーミングの場合、映像とコントローラー操作のやり取りのために双方向の安定性が重要になる

    ゲームストリーミングの場合、映像とコントローラー操作のやり取りのために双方向の安定性が重要になる

リモートプレイ特有の「カクつき」が皆無!

今回の実験は、東京・虎ノ門にあるKDDIの研究拠点「KDDI DIGITAL GATE」にゲーム機を置き、約2km離れた東京国際フォーラム前から5G SAに接続されたスマートフォン(Xperia)でリモートプレイをするという形式で行われました。

ネットワーク/リモートプレイサーバーともに本番環境ではなく、試験用のものを用意。試験ネットワークは混雑時の通信環境を再現した通常スライス、リモートプレイのためにチューニングされたゲームストリーミング用スライスに分割された状態です。

各スライスに接続された2台のスマートフォンで格闘ゲームをリモートプレイする様子を観戦、そして実際にコントローラーを握って試遊してみました。

  • 格闘ゲームをプレイする様子。5G SAと実験用リモートプレイサーバーを経由してPS5に接続されている

    格闘ゲームをプレイする様子。5G SAと実験用リモートプレイサーバーを経由してPS5に接続されている

恐縮ながら筆者はあまり格闘ゲームの経験がなく、1フレーム単位の攻防を繰り広げるような、おそらくゲーマーの中でも最も遅延にシビアな人々であろう格ゲープレイヤーのお眼鏡にかなうのかは判断しかねますが、安定性の違いははっきりとわかりました。

通常スライスでも5G SAですから、調子の良い瞬間だけ見れば「あれ、どっちが専用スライスだっけ?」と思う場面も。しかし、通常スライスのほうはカクつく、遅れる瞬間があるのに対し、専用スライスのほうは約1分×3ラウンドの試合を通して見ても至って安定していました。その一瞬が勝敗を分けるゲームでは、「リモートプレイでも十分遊べる」「やっぱり無理」という評価を左右するだけの大きな違いと言えます。

以下に、通常スライス/ゲームストリーミング用スライスそれぞれの実際のプレイ映像を用意したのでぜひ見比べてみてください。プレイ風景の映像は、左側(金のコントローラー)が専用スライスに接続された端末です。

「ゲーム専用回線」はいつ実現される?

auの5G SAは2022年2月から法人向けの提供が始まっており、夏以降に個人向けサービスもスタートする見通しです。これによって、土台となる5Gコアを持つ5G SA基地局は全国に整備されていきますが、その上で実際にネットワークスライシングが運用されるようになるのはまだ数年先の話となりそうです。

  • KDDIの5G SAサービス展開予定

    KDDIの5G SAサービス展開予定

理由としては、まずネットワークスライシングに必要な技術の標準化が完了しておらず、端末側の対応も必要です。特にスマートフォン向けの場合、用途別のスライスを運用するには「ゲームの通信だけゲームストリーミング用スライスに流し、動画を観たりSNSを見たりするのは通常スライスへ」というように、アプリごとに通信を振り分ける必要が出てきます。この技術が完成していないため、実験は端末ごとに接続するスライスを変える形で行われました。

具体的な提供形態や料金などは、まず技術の完成を待ってから実現可能な方法を検討するという“待ち”の状況。今すぐに実現される話ではありませんが、数年先のリモートプレイ環境はより魅力的なものになりそうです。

  • 「外でもPS5」が普通になる日を楽しみにしておこう

    「外でもPS5」が普通になる日を楽しみにしておこう