AMDは3月8日、Ryzen Threadripper Pro 5000-WXシリーズを発表した。オンラインの形で詳細が説明されてたので、これをご紹介したい。

Ryzen Threadripper Pro 5000-WXシリーズは要するにZen 3コアベースのRyzen Threadripperである。コンシューマ向けのRyzen、及びサーバー向けのEPYCは既にZen 3ベースの性能が投入されている中、Workstation向けのThreadripperのみZen 3コアの投入が遅れており、ようやくといったところである。

そのWorkstation向けのマーケットシェアを同社は順調に獲得しているとしており(Photo01)、このシェアを更に広げるべく、ようやくZen 3コアに更新をしたとも言える。既存のRyzen Threadripper Pro 3000シリーズと今回の5000シリーズの違いはこちら(Photo02)。基本的にはZen 2コア→Zen 3コアが唯一の違いであって、これに伴い動作周波数の若干の向上とか、AMD Pro周りでも新たにAMD Shadow Stackの利用が可能になったといった違うはあるものの、機能面での大きな違いはない。

  • AMD、Ryzen Threadripper Pro 5000-WXシリーズを発表 - Zen 3ベースのThreadripper

    Photo01: 筐体容積が30Lのセグメントという話なので、これをもう少し広げるとまた違った様相が見えてくるのかもしれないが。

  • Photo02: L3の容量そのものは同じだが、L3の持ち方がZen 3で変わったこともあり、この部分での性能向上も期待できそうではある。

ラインナップはPhoto03で示す通りで、新たに24core/48thread構成が加わったが、概ね3000シリーズと同じ組み合わせがそのまま維持されている。Packageも同じで、TDPの同じなので、BIOS Updateさえ行われれば、既存のシステムのCPUを入れ替える事で性能向上を期待する事も可能だろう。また競合であるIntelのXeon W-3300シリーズとの比較がこちら(Photo04)である。

  • Photo03: TDPは280W据え置きながら、若干動作周波数も向上している。勿論Zen 2→Zen 3でIPCの向上が実現しているので、トータルではかなりの性能向上となるはずだ。

  • Photo04: Xeon W-3300シリーズはIce Lakeベースになって、以前のCascade LakeベースのW-3200シリーズよりは大分マシにはなったのだが、まだスペック的には開きが大きい。

以下、AMDによる性能比較の結果をご紹介したい。まず最初は5000シリーズではなく3000シリーズでの話だが、アプリケーションのRyzen Threadripperへの対応が進んだという話である。例えばAnsys Mechanical Simulationでは、同じハードウェア構成であってもAMD BLISを採用したv2021.R2を使う事で2.3倍に高速化された、としている(Photo05)。それはともかくとして、今回の5000シリーズを、これに対応するIntelの製品と比較した結果その1(Photo06)、その2(Photo07)、その3(Photo08)、その4(Photo09)、その5(Photo10)が示された。Photo11はPhoto06と同じように、複数の製品を同クラスのIntelの製品と比較した結果であり、全般的に優位であるとのアピールである。またXeon Platinm 8280 Dualとの比較(Photo12)でも、やはりThreadRipper Pro 5995WXが有利としている。更に低価格品(Xeon W-2295は推奨小売価格$1333)であっても、十分競合できるという説明である(Photo13)。第一陣としては、LenovoがThinkStation P620にこのRyzen Threadripper Pro 5000WXシリーズ搭載モデルを提供する予定、との事であった(Photo14)。

  • Photo05: グラフの下にあるv2021.R1 w/ AMD BLISはv2021.R2 w/ AMD BLISの間違いと思われる。ちなみにAMD BLISはAOCL(AMD Optimizing CPU Libraries)に含まれるBLIS(Basic Linear Algebra Subprograms Libraries)である。要するにBLASの事だ。

  • Photo06: Autodesk MayaのInteractive Graphicsの比較。64コア品はGeon Platinum 2820×2との比較となっている。

  • Photo07: Unreal EngineとChromiumのそれぞれのコンパイル時間(なので短い方が高速)。ただSoftwareはともかく、Scienceではない気がする。

  • Photo08: After Effects、Chaos V-Ray、Autodesk Mayaの結果。この辺はコアの数がそのまま効いている感じである。

  • Photo09: PTC Creo、SolidWorks、Keyshotの3つだが、この3つについて脚注にテスト詳細が示されていないので、それぞれで何を比較したのかが良く判らない。

  • Photo10: Autodesk Revit、Autodesk AutoCAD、Corona Renderでの比較。こちらはThreadripper Pro 5965WXになっているのだが、Corona Renderでは脚注にはXeon W-3375となっている(AutoCADはXeon W-3345、RevitはXeon W-3300 Seriesとある)。今一つ正確さに欠ける気が...

  • Photo11: 64コアのThreadRipper Pro 5995WXをXeon W-3375と比較するのは流石に可哀想ではあるのだが。

  • Photo12: まぁこれは予想できた結果ではある。ただ性能の比較であれば、Cascade LakeのXeon Platium 8280ではなく、Ice LakeのXeon Platimum 8380H辺りを使うべきだったと思うのだが。

  • Photo13: 現時点ではまだ価格が未公開であるが、明らかにXeon W-2295より安いと思われる12コアのRyzen Threadripper Pro 5945WXでも同等以上の性能を出している、というあたりで、性能価格比の高さもアピールポイントになるのだろう。

  • Photo14: もともとRyzen Threadripper ProシリーズはまずLenovoから提供された事を考えると、これは順当な流れである。

説明としては以上になるが、そもそもAMDはもう少し早くこのZen 3ベースのThreadripperを提供しても良かった気がする。ここにきて慌てて追加、というのは要するにIntelへの対抗だろう。Intelは間もなく第4世代のXeon ScalableとしてSapphire Rapidsベースの製品を投入すると見られており、時間を置かずにXeon-Wにもこれが追加されると思われる。こちらはIntel初のMCM対応Xeon(FSBで接続されたマルチダイなら2006年のDempseyがあるが)であり、コア数も大幅に増え、更にIPCも大幅に向上。DDR5サポートでメモリ帯域も大幅向上ということで、Zen 3ベースの製品ではかなり苦しくなる(おそらくZen 3ベースでは性能的には逆転されるだろう)。

勿論AMDも次にZen 4ベースの製品が控えている(3D V-Cache搭載はEPYCはともかくThreadripperまで降りてくるかどうか、ちょっと疑問である)から、ここでキャッチアップは十分可能だと思うが、そこまでの間の中継ぎとして今回先手を打ってラインナップを更新したというところだろうか。BIOS Updateさえ提供されれば、既存のプラットフォームがそのまま使えるというのは導入コスト低減の観点で大きな魅力であり、そのあたりを狙ったものと思われる。だったらもっと早く投入していれば良かったのにと思わなくもないのだが、そのあたりの理由は伺う事は出来なかったのが残念である。