キヤノンの「EOS R3」は、現時点でEOS Rシリーズの頂点に立つカメラ。AE/AF追従で電子シャッター30コマ/秒、メカシャッター12コマ/秒の高速連続撮影に対応し、電子シャッターではブラックアウトフリーで撮影できます。視線入力によるフォーカスエリアの選択が可能なのもポイントで、加えて人物検出や乗り物検出など進化したAFを搭載。EOS初となる裏面照射型積層CMOSセンサーは高い階調再現性と高感度特性を誇るなど、注目点の多いカメラに仕上がっています。なぜ、フラッグシップモデルに与えられる“1”ではなく“3”なのか、不可解に思えてしまうほど。今回は画像編として気になる写りに加え、機能および操作感なども交えながら総合的にチェックしていきます。
走行する鉄道車両は視線入力でピタリ合焦
まずは、話題となっている視線入力です。瞳の動きをカメラが検出してフォーカスポイントの選択を行う機能で、もっとも得意とするのが陸上のトラック競技やクルマ/オートバイのレース、鉄道のような動きの比較的つかみやすい被写体です。そこで、まず走行する鉄道車両を狙ってみました。ロケーションは4本の線路が走る複々線区間で、しかも通過する列車本数の多いところを選びました。
なお、カメラのAFまわりの設定はデフォルトとしています。内訳は、視線入力ON、フォーカスモードはフォーカスポイントと重なった被写体にピントを合わせ続けるサーボAF(コンテニュアスAF)、捕捉した被写体をフォーカスポイントが追うトラッキングON、画面全域でAFの可能な全域AFとしています。
便利に感じたのが、フォーカスポイントの選択の際、右手親指による操作の手間がなくなったこと。ファインダー上の被写体を見るだけで視線の位置を示すポインターが素早く動き、フォーカスポイントが選択できます。まさに直感的で、しかも狙った(見つめた)被写体を外すこともありません。トラッキングも機能しているため、一度被写体を捕捉すれば画面外に出るまでピントを合わせ続けます。
複数の電車が同時に走っている場合は、ピントを合わせている電車から他の電車へのフォーカスポイントへの乗り移りも簡単。高速合焦のAFと相まって、ピント位置の切り替えがとてもスムーズに感じました。デフォルトでは、視線入力を使ってピントの位置を切り替えたい場合、いったんシャッターボタンを押すのをやめて再度視線入力でピント位置を合わせ直す必要がありますが、設定によりシャッターボタンを押している最中でも視線入力を有効することも可能。ピントの状態はもちろんガチピンで、トラッキングでもしっかりと被写体を捕捉していることが分かります。
動きが予測しづらいラガーマンも視線入力で問題なし
今回、キヤノンのプロラグビーチーム「横浜キヤノンイーグルス」の練習風景を撮影する機会に恵まれました。特に、動きの読みづらいラグビーのような被写体の場合、視線入力はどうなるのかが気になっていたので、とてもよい機会となりました。
さまざまなシーンで撮影を試した結果、視線入力はラグビーの撮影でも使いやすく感じました。前述のとおり、視線で素早くピント位置が変えられるので、すぐにシャッターを切る体勢が整えられ、シャッタータイミングを見逃すことが抑えられます。被写体の動きによっては、視線入力によるピント位置の乗り移りも容易であるなど、動きの読めない被写体でも視線入力は十分効果的でした。EOS R3をさほど触っておらず、スポーツを撮影する機会の少ない私ですらそのような結果でしたので、日常的にスポーツなど動体を撮っているカメラマン・フォトグラファーは、ある程度使いこなせば効果的に活用できると思います。
もうひとつ便利に思えたのが、電子シャッター時の連続撮影モードでのブラックアウトフリー。最初の1コマ目と2コマ目は瞬間的にブラックアウトしてしまうのですが、それ以降はブラックアウトすることなく撮影が続けられます。ラグビーのように動きが予測できない被写体でも、ファインダーを覗きながら正確に追うことがたやすく、被写体が意図せずフレームアウトすることはありません。撮影前は、被写体を追う精度はブラックアウトする場合とさほど変わらないのではと思っていましたが、その違いは意外なほど大きく、動体撮影に限らずスナップなどでも重宝することでしょう。
この機能は、当然ながら電子シャッター使用時のみ有効ですが、ローリングシャッターゆがみもよく抑えられており、撮影した画像を見る限り気になることはありません。厳密に確認すればゆがんでいるのかもしれませんが、通常見る分にはまったく違和感のないものです。今後登場するEOS Rシリーズは、電子シャッターがデフォルトとなる可能性が高いと思います。
高感度も上々、画質は文句なし
スナップもEOS R3でトライアルしてみました。視線入力は、操作デバイスを指で操ってフォーカスポイントを選択するよりはるかに手間がかからず、とにかくスピーディ。ワンショットAF(シングルAF)、1枚撮影モードでの撮影でもとても有効に感じます。私個人は、縦位置グリップ一体型の大柄なカメラでスナップを撮ろうと思うことはありませんが、この機能が付いているから撮ってみたいと感じさせます。視線入力は、ぜひ他のクラスへの投入が今後待たれるところです。
写りを見た場合、顕著に思えたのがノイズレベル。画素数を2,400万に抑え、さらに効率よくフォトダイオードを照射する裏面照射型のイメージセンサーであるため、高感度域でのノイズレベルはよく抑えられています。ISO12800程度ならノイズの発生は気にならないといえ、それ以上の感度となっても画質の低下は緩やか。ナイトゲームや室内競技など、高感度を必要とするシーンでも高品質の画像が得られること請け合いです。加えて、ダイナミックレンジはとても広く、豊かな階調再現性が得られます。さらに、画質向上に貢献しているのがボディ内手ブレ補正機構の存在。手ブレ補正機構を備えるレンズとの組み合わせなら最高8段分の補正効果が得られ、とても頼もしく思えます。
フィルム一眼レフ時代は飛び道具的な存在であった視線入力。EOS R3ではスキのないものに仕上がり、さまざまなシーンで活躍する機能に進化していました。おそらく、他のクラスのカメラにも遅かれ早かれ波及することは間違いないでしょう。また、高画質に貢献する裏面照射型積層CMOSも同様で、こちらもデファクトスタンダードな存在となる可能性が高いように思われます。
そんな革新的な機能や装備を搭載するEOS R3は、操作感なども含めて完成度が高く、EOS Rシリーズの頂点に立ってもおかしくないと感じます。ライバルのフラグシップモデルであるソニー「α1」やニコン「Z 9」と比較しても、決して見劣りする部分はありません。冒頭にも記しましたが、それはなぜ“1”ではなく“3”なのか不思議に思えてしまうほどなのです。