ASUSの「Zenbook Pro 15 OLED UM535」は、15.6型ディスプレイを搭載したクラムシェルスタイルノートPCだ。日本向けにASUS JAPANが2021-2022冬モデルとして2021年11月に発表した有機EL搭載ノートPCの7モデルの1つとして登場した。

  • “プレミアム”で処理能力を重視した「Zenbook Pro」の一族ながら、価格にも配慮した「ASUS Zenbook Pro 15 OLED UM535」

有機EL採用モデルとしては一般的な出で立ち

ASUSの“高価格帯”(ASUSは“プレミアム”と呼んでいる)ノートPCブランドとして位置づけられているZenbookのラインアップは、現在「Zenbook」「Zenbook S」「Zenbook Flip」「Zenbook Pro」で構成されている。このうち、Zenbook Proシリーズは処理能力と大画面ディスプレイ搭載を優先したラインアップで、今回評価するZenbook Pro 15 OLED UM535の他に、2019年に登場した「Zenbook Pro Duo UX581」がある。

Zenbook Pro Duo UX581がディスクリートGPU(GeForce RTX 2060)を搭載し、3,840×2,160ドットの有機ELメインディスプレイと3,840×1,100ドットの液晶サブディスプレイを備えていたのに対し、Zenbook Pro 15 OLED UM535はディスクリートGPUを載せず、ディスプレイの解像度も1,920×1,080ドットといった、割とノーマルなスタイルでまとまっている。

  • ASUSでは2021年11月に有機ELディスプレイ搭載ノートPCを一斉に投入している。UM535もその中の一モデルだ。15.6型で1,920×1,080ドットという控えめな解像度なので、ズーム設定を推奨の125%から100%に変更しても問題なく視認できる

強力なRyzenプロセッサ搭載で高性能

ディスクリートGPUは載せていないものの、処理能力を重視したZenbook Proということで、CPUにはAMD Ryzenシリーズのハイエンドラインアップになる「Ryzen 9 5900HX」もしくは「Ryzen 7 5800H」を搭載する。

試用機が搭載しているRyzen 9 5900HXは、AMDのモバイル向けプロセッサーの中では最上位モデル。Zen 3アーキテクチャを採用し、8コア16スレッドでの同時処理に対応する。L2キャッシュメモリは合計で4MB、L3キャッシュメモリは合計で16MBを搭載。デフォルトのTDPは45Wだが、Configurable TDPは35~54Wの範囲で設定されている。CPUに統合しているグラフィックスはAMD Radeon Graphicsで、コア数は8基、動作クロックは2,100MHzだ。

  • CPU-Zで表示したRyzen 9 5900HXの仕様情報

  • GPU-Zで表示したRadeon Graphicsの仕様情報

AMDのノートPC向けCPUの最上位モデルとディスクリートGPUなしの構成としては、同じASUSのノートPCで先日評価した「ASUS Vivobook Pro 14 OLED M3401A」(以下、M3401A)がある。システムメモリの処理能力の傾向はほぼ同じと思われるが、ディスプレイサイズと解像度に違いがあるので、グラフィックス周りの描画能力で差が出そうだ。

そのほか、CPUとグラフィックスコア以外で処理能力に影響するシステム構成を見ていくと、システムメモリにはLPDDR4X-4266 16GBを搭載。ストレージは容量1TBのSSDで、ウエスタンデジタルの「SDBPNTY-1TOO」を採用していた。接続バスはNVM Express 1.4(PCI Express 3.0 x4)だ。

なお、比較対象としてはVivobook Pro 14 OLED M3401Aで紹介したベンチマークテストスコアとともに、CPUにIntel Core i7-1165G7(4コア8スレッド、動作クロック2.8GHz/4.7GHz、L3キャッシュ容量12MB、Iris Xe Graphics)を搭載し、ディスプレイ解像度が1,920×1,080ドット、システムメモリがDDR4-3200 8GB、ストレージがSSD 512GB(PCI Express 3.0 x4接続)のノートPCで測定したスコアも併記する。

ベンチマークテスト Zenbook Pro 15 OLED UM535 Vivobook Pro 14 OLED M3401A 比較対象ノートPC
PCMark 10 6557 6377 4615
PCMark 10 Essential 10594 10484 9645
PCMark 10 Productivity 10130 10087 6081
PCMark 10 Digital Content Creation 7131 6656 4549
CINEBENCH R23 CPU(multi) 12326 12133 4119
CINEBENCH R23 CPU(single) 1451 1482 1380
CrystalDiskMark 8.0.4 x64 Seq1M Q8T1 Read 2884.91 2483.33 3249.66
CrystalDiskMark 7.0.0 x64 Seq1M Q8T1 Write 3109.76 1809.92 2679.52
3DMark Time Spy 1439 1380 1149
FFXIV:漆黒のヴィランズ(最高品質) 3436「やや快適」 3105「やや快適」 2524「やや快適」

Vivobook Pro 14 OLED M3401Aのときと同じように、比較対象のCore i7-1165G7がRyzen 9 5900HXの“ひとつ下”のラインアップであるため、その差が歴然となるのはやむを得ないとして、同じプロセッサを載せているVivobook Pro 14 OLED M3401Aと比べるとわずかにスコアが上回っている。この違いには、ディスプレイ解像度の違いに加えて、グラフィックスメモリ(共有するDRAM)のクロックがZenbook Pro 15 OLED UM535で2,133MHz、M3401Aで1,600MHzとなっている差も影響していると思われる。

処理能力の測定とあわせて、Ryzenの最上位モデルの発熱と騒音についても測定してみた。発熱については、電源プランを「パフォーマンス優先」に設定して3DMark NightRaidを実行し、CPU TESTの1分経過時において、Fキー、Jキー、パームレスト左側、パームレスト左側、底面のそれぞれを非接触タイプ温度計で測定している。

表面温度(Fキー) 36.2度
表面温度(Jキー) 36.5度
表面温度(パームレスト左側) 32.0度
表面温度(パームレスト右側) 30.0度
表面温度(底面) 42.6度
発生音 37.6dBA(暗騒音36.4dBA)

Ryzenの最上位モデルを搭載している割には、騒音と表面温度が低く抑えられている。特に注目したいのが静かさで、騒音計の数値としては暗騒音とほとんど変わらない37.6dBAにとどまっている。ファンが回っていることは音で分かるものの、「フーン」というファンノイズはいたって静か。これならば、図書館の隣の席で使っていても気に障ることはないだろう。表面温度もキートップで体温程度、底面でも40度台前半にとどまっている。ボディの熱さで不快になることもない。

  • 底面部で最も高温になるのは奥側スリット(この画像では2列あるスリットの上側)の中央部付近。それでも「熱めの銭湯」程度に収まっている

バッテリー駆動時間をPCMark 10 Battery Life benchmarkで測定したところ、Modern Officeのスコアは16時間54分(Performance 6353)となった(ディスプレイ輝度は10段階の下から6レベル、電源プランはパフォーマンス寄りのバランスにそれぞれ設定)。本体の重さが1.8kg以上で、バッテリー容量が96,000mAhという別次元のサイズだからこそのバッテリー駆動時間といえるが、余裕で終日稼働できる。

本体サイズは幅356.7×奥行き239.5×高さ19.65mmで、重さが約1.855kg。このサイズのディスプレイを搭載したモデルとしては比較的薄いボディだ。重さも2kgを切っているので、15.6型ディスプレイ搭載としては軽いとASUSは訴求している。とはいえ、イマドキのモバイルノートPC基準で比べるとやや重い。その代わり、MIL-STD-810H準拠などの堅牢性を備えている。

  • 評価用機材の本体重さは実測で1,824gだった

  • なお、ACアダプタのサイズは実測でW137×D68×H23.5mmで、重さはコード込みで実測445gと本体と一緒に持ち歩くにはやや重い

Vivobookとの違いはプレミアム感

Zenbook Pro 15 OLED UM535は、ASUSのノートPCラインアップで“プレミアム”にカテゴライズされているZenbookファミリーの一員だが、これまで見てきたようにシステム構成は費用対効果を重視するVivobookファミリーのM3401Aとほぼ同じだったりする。

そんなZenbook Pro 15 OLED UM535を“プレミアム”と差別化するポイントがボディデザインということになる。天板にはZenbookファミリーの象徴たるメタル素材に上に同心円状に広がっていくスピンドル加工を施している。ボディ形状もカットアングルを工夫し、薄く見えるようにしている。また、ディスプレイでキーボードの奥を持ち上げてキーボード面に角度をつけてタイプしやすくする機構も備えている。

  • 同心円状にモールドされた天板のスピンドル加工はZenbook一族の証だ

  • ディスプレイを開くと、キーボード側が持ち上がって約3度のチルト角がつく

  • ディスプレイの最大開度は135度。ただし実質的な開度としてはキーボードチルトの3度を引くことになる

そのキーボードは、ピッチが実測で19mm(キートップサイズは実測で約16mm)、ストロークが実測で1.3mmだった。Enterキー列の右側にはテンキーが配置されている。このテンキーがキーボードとほぼ同じキーピッチで隣接しているため、“誤爆”しそうなプレッシャーを感じるかもしれない。キーストロークは浅く、キーを押し下げる感触も軽めだったこともあって、タイピングでは「なんとなく狭いな」と感じたのは正直なところだ。

  • キーボードはほぼ均等のピッチを確保している。テンキーが同じピッチで、かつ、Enterキーが縦に細長い形状なので見た目キチキチに詰まって誤爆しそうなプレッシャーを感じるが、とりあえず評価作業中に打ち間違えることはなかった

  • キーストロークは実測で1.3mmと浅く、タッチも軽めなのでもう一息“グッ”と押し込みたくなる

本体に搭載するインタフェースとして、USB 3.2 Type-C(映像出力と給電には対応しない)、USB 3.2 Type-A、HDMI出力、ヘッドホン&マイク端子、SDメモリーカードスロットを備える。無線LANはWi-Fi 5までの対応にとどまっており、最近のノートPCでよく見かけるWi-Fi 6には対応しない。なお、Bluetooth 5.1も利用できる。

  • 右側面にはUSB 3.2 Type-AとHDMI出力、SDメモリーカードスロットを備える

  • 左側面にはUSB 3.2 Type-Cとヘッドホン&マイク端子を用意している

  • 正面

  • 背面

本体にはディスプレイ上側にカメラを内蔵する。720p対応で有効画素数は約92万画素。Windows Hello対応のIRカメラとしても利用できる。なお、レンズには物理シャッターを備えていない。リモート会議向けにはAIノイズキャンセリング機能を搭載しており、ユーザーの声や周囲の環境音の音質をAIが学習することで、精度を高めてユーザーの声をクリアに聞かせることができるとしている。

  • ディスプレイ上側に組み込んだ有効92万画素のWebカメラ。物理シャッターは組み込んでおらず、ファンクションキーで有効無効を切り替える

  • ステレオアレイマイクはディスプレイ面ではなく上側面に内蔵している

奇をてらわないプレミアムで高性能な有機ELノートPC

Zenbook Pro 15 OLED UM535は、高級な雰囲気を醸し出すデザインとRyzen 9 5900HXの高い処理能力、そして、15.6型有機ELという鮮やかな色彩を表示できる大画面ディスプレイというZenbookの一族ながら21万円台とZenbook Proのモデルとしては購入しやすい価格になっている。デザインと性能、有機ELディスプレイに価値を見出せるならば、この製品はよりよい選択になるはずだ。

  • ディスプレイ側本体の背面側に刻印されたZENBOOK SERIESのロゴと、落ち着いた色調のパイングレー、そして天板に施したスピンドル加工など、“プレミアム”な雰囲気もZenbook Pro 15 OLED UM535を選ぶ理由の1つとなるだろう