コンピュータを使っている際に、最も恐ろしいのは「作ったデータを失ってしまう」ことだ。macOSが標準で搭載するバックアップ機能「Time Machine」は、ユーザーがミスなどでデータを損失する危険を最小限にしてくれる便利な機能だ。今回はちょっと技術的な側面からTime Machineのバックアップ方法を解説していこう。

バックアップには種類がある

12月29日、京都大学のスーパーコンピュータが、誤操作によって77TBものデータが失なわれてしまったというニュースが飛び込んできた。幸いに48TBぶんはバックアップから取り戻せたというが、どんなに高性能なコンピュータを優秀なスタッフが管理していても「絶対」はない、人間のケアレスミスというのは100%起きるのだ、という見本かもしれない。

さて、若干技術的な話になるが、バックアップは大きく分けて「フルバックアップ」「差分バックアップ」「増分バックアップ」という3種類に分けられる。それぞれの違いを見ていこう。

  • フルバックアップ
    フルバックアップはその名の通り、全体を丸ごとバックアップする手法で、最もシンプルだ。個々のバックアップが完全なデータとして使えるが、一度にバックアップするデータの量が大きく、時間と容量を食うのが欠点となる。
  • フルバックアップ

  • 差分バックアップ
    そこで登場したのが、最初にフルバックアップを行い、次回以降は前回との違い(差分)だけを記録する「差分バックアップ」だ。最初のフルバックアップと、復元したい時点の差分バックアップを合わせるだけで全体が復元できるが、初回との差分は徐々に大きくなるため、後になるに従ってバックアップのサイズ(容量)もバックアップにかかる時間も大きくなってしまう。ただし、もしいずれかの差分バックアップが失敗していても、別の段階での状態に戻せるというメリットもある。バックアップの時間や容量を節約するためには、定期的にフルバックアップを取り直す必要がある。
  • 差分バックアップ

  • 増分バックアップ
    そんな差分バックアップの欠点をさらにカバーするのが「増分バックアップ」だ。これは差分バックアップのさらに差分バックアップという感じの手法で、初回にフルバックアップを取り、次回以降はその都度、前回との差分だけをバックアップしていく。これにより毎回のデータ転送量とかかる時間は最小にとどめることができるが、全体を復元するには初回から最新までのすべてのバックアップが正しく記録されている必要がある。従って、安全に運用するためには、やはり定期的にフルバックアップを取り直す必要がある。
  • 増分バックアップ

バックアップは大きく3タイプと説明したが、Time Machineはどれにあたるかというと、最後の「増分バックアップ」をさらに改良したものになる。基本的には増分を記録しつつ、ある程度溜まったところで自動的に増分を1つに統合(マージ)してくれることで、定期的にフルバックアップを取る手間がなくなる。そして容量がいっぱいになったら古いものから順に削除もしてくれる。つまりユーザーがメンテナンスする必要なく、安全性とストレージ容量の節約を両立できるのだ。

  • 具体的には、24時間の間は1時間おきに差分バックアップを取り、24時間以降は1日ごとにマージ。さらに30日以上経ったデータは1週間ごとにマージされ、ドライブの空き容量が足りなくなると古いデータから削除していく

さらに、実は最新のTime Machineでは、「コピーオンライト」や「スナップショット」という仕組みを使うことで、保存にかかる時間を大幅に短縮できるようになっているのだが、これはファイルシステムにも関わる話なので回を改めたい。いずれにしても「自動で保存してくれる」「短時間で保存できる」「容量も調整してくれる」「データは自動でマージしてくれる」と、とにかく利便性が高くなる工夫をしているのだ。

とはいえ、油断は禁物

便利で強力なTime Machineバックアップだが、弱点がないわけではない。これはTime Machineに限った話ではないが、「バックアップディスクが壊れてしまった」というような状況においては、さすがのTime Machineもお手上げだ。

これを回避するには「バックアップの多重化」、つまり「バックアップのバックアップ」を用意しておく必要がある。ついでに言えば、多重化したバックアップディスクは物理的に離れた場所に保管しておくことで、災害などで一度に両方が失われてしまうことを回避できるのが理想的だ。

また、Time Machineのバックアップドライブは、システム全体をバックアップしてくれはするが、起動可能なバックアップではないので、別のブートディスクを使って起動した上で復元することしかできない。最近のMacは起動ディスク上に緊急起動用のリカバリーシステムのパーティションを用意しているが、それでもストレージが物理的に壊れてしまった場合などに備えて、別途ブート可能なディスクがあったほうがいいし、バックアップがそれを兼用できるならそれに越したことはない。

こうした「バックアップの多重化」や「起動可能なバックアップ」を取りたい場合は、Time Machine以外のバックアップソフトを併用するといいだろう。ただし、バックアップの多重化も、Time Machine以外のバックアップソフトの併用も、バックアップ用のストレージが複数必要になる。手間やコストといった面でTime Machineの手軽さからは遠ざかってしまうし、この辺りはデータを失うリスクと天秤にかけたうえで判断するしかない。これ以上はユーザー諸氏の判断とさせていただこう。

今回は少し脱線して技術寄りの話をお届けしたが、次回はさらにTime Machineのちょっとディープな設定についてお届けする。