NTTドコモが打ち出した「ドコモのエコノミーMVNO」に参画したフリービットが、ドコモショップでの取り扱いやdポイント連携などを提供する新サービス「トーンモバイル for docomo」、および新料金プラン「TONE for iPhone」を発表した。新料金プランは12月22日から、全国のドコモショップの店頭での取り扱いがスタートする。

「ドコモのエコノミーMVNO」に参画するのは、今のところNTTコミュニケーションズとフリービットの2社だけ。NTTコミュニケーションズは間もなくドコモの子会社になるため、グループ外の“外様”としてはフリービットが唯一の参画企業となる。フリービット代表取締役社長の石田宏樹氏に、参画の経緯や狙いを独占インタビューした。

  • 「ドコモのエコノミーMVNO」に参画したフリービットの石田宏樹社長

ドコモショップで多くの人に知ってもらえるのはすごくハッピーなこと

トーンモバイルは、2013年11月に前身のfreebit mobileとしてMVNOサービスをスタート。月額1,000円、独自端末の割賦代金を合わせても2,000円(当時の価格表記は税別)という分かりやすい価格設定で、子ども向けの見守り機能やシニアにも安心の充実サポートなど、独自のサービスを提供してきた。2015年には、TSUTAYAを展開するCCCグループと資本・業務提携し、サービス名をトーンモバイルに変更。しかし、2019年12月にはCCCとの提携を解消している。

トーンモバイルは、現在フリービット傘下のドリーム・トレイン・インターネット(DTI)がサービスを提供。一方で、「トーンモバイル for docomo」はロゴなども一新し、石田氏が代表を務める新会社のトーンライフスタイルがサービスを提供する予定だ。

  • トーンモバイルのロゴも、明るい新デザインに一新した

  • イメージキャラクターは引き続き坂口健太郎さんが担当する

新サービスのスタートに合わせて放映されるCMでは、俳優の坂口健太郎さんが「まさかトーンがドコモの仲間になるとは」との台詞を口にする。実際に、同様の感想を抱いた人も多いのではないだろうか?

トーンモバイルはなぜ、ドコモと組むことにしたのか。石田氏によれば、そこには前身のfreebit mobile時代から抱き続けてきた「ユーザーとの接点を増やし、その声を聞きたい」という思いがあったという。

――「ドコモのエコノミーMVNO」に参画された経緯を教えてください。

石田さん:2018年に発表した中期経営計画に、我々の特徴である「安全安心のサービス」をオープン化していくことを盛り込みました。オープン化して広げていくためにキャリアへ提供することも視野に入れて、実はそのための技術だったり、他のアカウントが使える仕組みを、コツコツと作り始めていたんです。

一方でトーンのサービスは、知ってもらいさえすればその良さを分かってもらえるのに、そのための接点が足りないというジレンマをずっと抱えてきました。そこへ今回、ドコモさんからお声がけをいただいた。我々のサービスを多くの人に知ってもらえる、触れてもらえる機会ができるのはすごくハッピーなことですし、ぜひ進めていきたいと思いました。

――freebit mobile時代には独自店舗を展開し、CCCとの提携後はTSUTAYA、その後はカメラのキタムラと、ずっと店頭販売にこだわってこられましたが、その理由は?

石田さん:我々のターゲットは初めてスマホを使うお子さんだったり、シニアの方々です。そうした方々に「安全安心」を提供するには何が必要か。その完全解を求めてサービスを作ってきました。さらに完全解を追求するためには、リアルな接点から得られる顧客の声がとても大切だと考えています。ドコモショップで取り扱ってもらうことで、これから2,300店舗という、とてつもなく大きな数の接点が持てることになる。当然集まってくる声も多くなるので、それをどう活かせるかがひとつの勝負だと思っています。

――「安全安心のサービス」はトーンモバイルの大きな特徴ですが、そもそもこのようなサービスを展開しようと考えたのはなぜですか?

石田さん:我々がMVNO事業に参入したのは、「インターネットを広げて社会に貢献する」というフリービットの理念の実現には、スマートフォンを広げていくことが大事だと考えたからです。一方で、固定網の世界で寡占化を経験してきたので、モバイルも回線だけのサービスをやっていたら、いずれ持たなくなると分かっていました。そこで、回線にプラスしてサービスをマルチレイヤーで提供しようと生まれたのが「TONEファミリー」などのサービスです。

サービスだけでなく販売方法も含めて、新しい体験が作れないかと店舗まで垂直統合したのが、2013年に福岡・天神にオープンした直営店でした。店頭でのユーザー体験を時間をかけて作って、CCCさんとの提携後はそのノウハウを展開していただきました。

――CCCとは、2015年に資本・業務提携し、2019年に解消されています。これはどのような理由だったのですか?

石田さん:もともとCCCさんからお声がけいただいてスタートした提携だったんですが、両者でのシナジー効果がそこまで出なかったということです。TSUTAYAは大半がフランチャイズなので、サービスの店舗展開が思った以上に難しかった。逆に、CCCさんの方ではトーンによる集客を期待されていたのですが、指名買いで来る人が多く、応えられなかった。増田さん(編集部注:CCCの増田宗昭社長)には本当に多くの勉強をさせていただき恩義を感じていますが、お互いにうまくかけ算ができなかったったことが解消につながったと考えています。

現在は、同じCCCグループのカメラのキタムラさんに取り扱っていただいていますが、同社は直営なので店舗展開が早かったのが助かりました。ただ、基本的に予約制で時間が空いたところでやっていただいているので、お客様の声が我々のもとに届きにくいというところもあります。そういう意味での新たな接点を模索していたタイミングで、ドコモさんからお声がけいただきました。

本丸であるAndroidの専用端末販売の可能性も含めて、今話し合っている

――今回、ドコモで提供するサービスがiPhone向けだけなのはなぜでしょうか?

石田さん:Androidは、専用端末で「安全安心のサービス」の完全解を作っているので、単純にSIMとして提供してしまうと完全解ではなくなってしまいます。その点iPhoneなら、我々の特徴も出しやすいと考えたからです。ドコモショップ店頭で販売されているiPhoneだけでなく、外から持ち込んだiPhoneもサポートしていただけることになったので、まずはそこからスタートすることになりました。

サービスプランを増やすことはできますが、そのプランがドコモショップで売りやすいかどうかについては、今後いろんな議論が必要だと思っています。本丸であるAndroidの専用端末と組み合わせたプランをどうやって実現するか。それが揃わないと我々の目指す完全解にならないので、端末を店頭に置いていただくことも目指していきたいと思っています。特にシニアの方々に対しては、やっぱり専用端末でないとサポートできないところもあるので。ただ、ドコモショップで他社の端末を販売するのは今までにないこと。それが可能なのかも含めて話し合っているところです。

  • トーンモバイル for docomoはiPhone向けのサービスのみを提供する。iPhone本体はドコモショップで最新のiPhone 13シリーズが購入できるほか、家にあるお古のiPhoneも使用できる

――「ドコモのエコノミーMVNO」は現在、OCN モバイル ONEとトーンモバイル for docomoの2つで、OCN モバイル ONEは間もなくドコモ傘下のサービスになります。トーンモバイルはいわば“外様”ですが、やりにくさはないですか?

石田さん:それは特に感じていません。すごくフェアにやっていただいてますし、細かいことまで含めて話し合いながら協力的にやっていただいています。ただ、ドコモショップで販売していただくためのハードルは、やはり高いと感じています。キャリアさんと我々のようなMVNOでは、広告ひとつとってもレギュレーションが違います。店頭スタッフの方々がそのことで困ってしまわないように、我々の方で判断して基準を合わせたりといったことをやってきました。最終的には我々に任せていただいてますが、お客様に誤解を抱かれないようにということは、ドコモさんからも指摘をいただきながら進めています。

――今後、参画するMVNOが増えて行く可能性もあると思いますが、どう差別化していきますか?

石田さん:ターゲットを明確にすることだと思っています。何ギガいくらでキャンペーンでしか価格が変わらないという状況は分かりづらいですから、我々としては、そこはまったく別のものとして展開していくことが重要だと考えています。ただ、それは我々の考えであって、ドコモさんがどんな考えで「エコノミーMVNO」を展開するのか、そのニーズを満たせないとやっぱりウィンウィンにはなれません。

我々のプランは、いわゆるMVNOのど真ん中のプランではないかもしれませんが、ドコモさんには「トーンモバイル for docomo」におけるdアカウントの獲得という形で貢献できると考えています。ジュニア向けのサービスをお子さんが利用するには、ご両親にもアカウント必要になるので、dアカウントが一度に最大3アカウント増えるからです。「TONEファミリー」で利用いただけるチャットアプリ「ONEメッセンジャー」などもdアカウントに対応していきますので、そうするとサービスを利用するために登録いただくことで、さらにアカウントが増える可能性もあります。そういったところで他社とは違う、ウィンウィンの関係が築けると考えています。

――今後、ドコモに期待することは何でしょうか?

石田さん:そうですね…。よく販売目標を聞かれるのですが、どのくらい売っていただけるのかは正直言ってまだ分かりません。現在、カメラのキタムラさんで取り扱っていただいているのが約100店舗なので、それがそのまま23倍になれば我々としてはハッピーですけど、そこは本当に全然分からないです。ただ、我々のサービスがマッチするお客様に対しては、しっかりお薦めいただければいいなと思いますし、その方がお客様にとってもハッピーになるんじゃないかとは思っています。

――フリービットの中期計画では、今後トーンモバイルのさまざまな技術をオープン化し、幅広い分野に応用していくことが盛り込まれています。今回、新たに会社も設立されましたが、今後の展開について教えてください。

石田さん:今、日常生活とネットの世界のすべての窓口がスマートフォンに集中する状態になっています。我々は、そのコアデバイスを自社で作ることができます。一方で歴史的にも、2Gから3G、3Gから4Gと切り替わったときに、プレイヤーが大きく入れ替わってきました。5Gでもまたプレイヤーが入れ替わるとして、その時代に我々はどういうライフスタイルを提供できるのか。そのショールームがトーンモバイルになると考えています。

これから医療だったり、エンターテインメントであったり、モビリティであったり、あらゆるものが変わってきます。そのベースの技術、たとえばブロックチェーンのようなものも含めて、今いろんな準備をしているところです。同時に、その技術コンポーネントを外部に提供していくことも進めていて、アルプスアルパインさんとのいろいろな取り組みもそのひとつです。同様に、トーンモバイルの技術の外部展開も進めていますし、本当にびっくりするようものが年明けぐらいから出てくると思います。楽しみにしていただければと思います。

――ありがとうございました。