RFマウントレンズは、赤帯を鏡筒先端に巻くアッパーグレードのLレンズシリーズと、無印というべき廉価版のレンズシリーズに大きく分けられます。後者は、手ごろな価格ながらそれ以上の写りが得られるのが特徴で、現在9本をラインナップ。プロからアマチュア、初心者まで愛用者が多いことでも知られています。今回ピックアップする「RF16mm F2.8 STM」は、最新の“無印レンズ”です。

  • 軽量でコンパクト、そして何より手に入れやすい価格の超広角単焦点レンズ「RF16mm F2.8 STM」。キヤノンオンラインショップの販売価格は41,800円ですが、多くの販売店では入荷待ちの状況が続いています

F2.8の超広角レンズとは思えない価格とサイズ

まず驚かされるのは販売価格でしょう。超広角で開放値F2.8クラスの交換レンズは、これまで高価なものばかりで、気軽に買えるものではありませんでした。本レンズはその定説を覆すもので、キヤノンオンラインショップでの価格は41,800円。ローンを組んだり、ボーナスまで待たなくても手に入れられる価格といえます。

  • 前玉の大きさは控えめ。しかしながら凸レンズなので、見た目の雰囲気はよいように思います(あくまでも個人的にですが)。フィルター径はφ43mmとしています

  • マウントは金属製。高価なレンズではないのでプラスチック製マウントかもと思っていましたが、杞憂に終わりました。レンズの品格のよく分かるところといえます。前玉よりも後玉のほうが大きいレンズです

これを可能としたのが、徹底したコストダウンです。例えば、7群9枚のレンズ構成のうち1枚を、ガラス素材よりもるかに加工がしやすくコストが抑えられるプラスチックを用いたPMoレンズ(プラスチックモールド非球面レンズ)を採用。このレンズは、先に発売された「RF50mm F1.8 STM」にも搭載されているもので、いまや同社の十八番ともいえるもの。もちろん、プラスチックだからといって画質の低下を招くことや、長期の使用に耐えられないようなものではありません。

さらに、光学特性的にデジタル処理で対応できる収差などは、「デジタルレンズオプティマイザ」などカメラ内の「レンズ光学補正」を積極的に活用していることも挙げられます。以前から、周辺減光やディストーションなどはデジタル処理による補正が一般的でしたが、それをさらに推し進めており、倍率色収差による色のにじみなども補正しています。おそらくは、光学設計の段階でそれを見越した作りがなされているものと思われます。デジタルカメラならではといったところでしょう。

  • 本レンズを装着したときの「レンズ光学補正」の様子。「歪曲収差補正」はONに固定されているからでしょうか、ON/OFFの切り替えができないようになっています。「デジタルレンズオプティマイザ」では、色のにじみなどの補正を行っています

手ブレ補正機構は、鏡筒の大きさもあり省略されていますが、そもそも手ブレに対して耐性の高い画角の広いレンズであるので気にしなくてもよいと思いますし、最新のEOS Rシリーズのカメラにはセンサーシフト方式の手ブレ補正機構が備わっていますので、さほどの心配も不要です。それ以外に関しては、必要なところはしっかりと他のレンズと同様とし、質感の高い鏡筒外装に加えてマウントは金属製とするなど、レンズとしての品格は忘れていません。別売ながらレンズフード(ES-65B)も用意されており、隙のないものとしています。コストカットとかコストダウンというような言葉はあまり良いイメージはないのですが、本レンズはバランスよく対応していると述べてよいでしょう。

  • 鏡筒にはリングの切り替えスイッチが備わります。機能を割り当ててコントロールリングとして使うことも、フォーカスリングとして使うことも可能です

超広角の画角を持ち、開放F2.8の大口径レンズながら、コンパクトに仕上がっているのも本レンズの魅力です。鏡筒の大きさ、重さはRF50mm F1.8 STMとほとんど変わりません。ちなみに、本レンズの大きさはφ69.2×40.2mm、重さは165gとしており、RF50mm F1.8 STMとの数字的な違いは改めて書き出す必要がないほど。その大きさ重さゆえ、収納場所を選ぶこともありません。外観についても同じことがいえ、焦点距離が鏡筒に書かれていなければ50mmと間違うこともありそうです。

  • RF50mm F1.8 STM(右)との外観および大きさ比較となります。前玉の大きさこそ違いますが、そのほかは瓜二つ。焦点距離の数字が鏡筒に書かれてなければ、まったく区別はつきません

電子補正の効果もあり、写りに不満なし

注目の写りは、いい意味で期待を裏切ってくれます。絞り開放から解像感、コントラストは高く、今風の写りが楽しめます。古いレンズのようにぼやぼやで緩い描写を期待すると、ある意味すごくがっかりしてしまうはず。光学特性の出やすい絞り開放での画面周辺部の描写も、クラスを考えれば隙を感じさせないもので、満足度の高い結果です。

色のにじみや周辺減光なども、前述の「レンズ光学補正」内にある「周辺光量補正」や「デジタルレンズオプティマイザ」のおかげで気になることはありませんし、反対に不自然に感じることもありません。ちなみに、補正のためのデータはレンズ側に記録されているため、一眼レフのEOS DIGITALのように新しいレンズが出るたびにカメラ側に登録する手間を不要としています。

逆光にも強く、フレアやゴーストの発生もよく抑えており、太陽など強い光源の位置もさほど気にしなくてよいように思えます。ワイド系のレンズでは顕著となるディストーションも気になりません。なお「レンズ光学補正」には「歪曲収差補正」も搭載されていますが、本レンズを装着した場合、同補正はON/OFFできないようになっています。メーカーに確認はしていませんが、おそらく最初から「歪曲収差補正」はONに固定されているものと察せられます。写りは結果的にまさにお値段以上。現代的でよい描写の得られるレンズと述べてよいでしょう。

RF16mm F2.8 STMは、改めて述べるまでもなく価格と写りのバランスの取れた魅力ある超広角単焦点レンズに思えます。私自身としては本レンズと35mmか50mm、それに85mmを携えて旅に出たら面白そうだなと思いました。もちろん、風景撮影でも小型軽量なこともあり重宝するように思えます。「RF600mm F11 IS STM」や「RF800mm F11 IS STM」が登場したときと同様、意外な焦点距離のレンズが、意外なプライスタグを提げて出てきました。今後もRFレンズシリーズの動向に注目しておきたいと思います。

キヤノン「RF16mm F2.8 STM」のポイントまとめ

  • 大口径の超広角レンズながら小型軽量でウエアラブル
  • デジタル処理による画質補正の結果は上々。違和感はなし
  • 金属マウントの採用など、作りのクオリティも高し
  • お値段以上の圧倒的なコストパフォーマンス
  • 作例を見る限り、ゴーストの発生は見受けられません。光源の周りに若干フレアの発生が見受けられますが、それはどんなレンズでも見受けられるレベルです。光源の位置や強さなどが変われば、また違った結果となるかもしれませんが、上々の逆光特性です キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf5.6・1/1000秒)・WBオート・ISO100・JPEG

  • 絞り値はF5.6。画面の隅々までしっかりと解像しており、色のにじみやディストーションなどもよく抑えられていることが分かる作例です。半逆光ですが、目立つようなフレアの発生も見受けられません キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf5.6・1/500秒)・WBオート・ISO100・JPEG

  • 画角的に20mm前後のレンズではちょっと窮屈に写る被写体も、16mmは余裕あるアングルで撮影が楽しめ、周りの雰囲気も画面に入れやすく感じます。解像感、コントラストも良好な仕上がりです キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf4.0・1/250秒)・WBオート・ISO100・JPEG

  • 絞り開放での撮影です。周辺減光はよく抑えられており、合焦した部分の解像感も文句ないものです。画面周辺部に補正で抑えきれなかった色のにじみがわずかに発生していますが、それ以外は上々の写りです キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf2.8・1/1600秒)・WBオート・ISO100・JPEG

  • 絞りはF8、ほぼパンフォーカスとなる位置(ロープウェイのカゴ)にピントを合わせています。色収差の発生もよく抑えられており、画面全体ヌケがよくコントラストの高い写りが得られました キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf8.0・1/400秒)・WBオート・ISO100・JPEG

  • 本レンズの最短撮影距離は13cm。写真はそれよりも少し長い20cmほどの撮影距離としています。画角の広いレンズらしい遠近感のある写りが得られました。解像感も高く、錆び付いた重機の部品をリアルに表現しています キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf8.0・1/400秒)・WBオート・ISO100・JPEG

  • 消波ブロックを作っている現場に出くわしました。歩道と現場を仕切る柵のところからギリギリ低くカメラを構え、シャッターを切っています。その圧倒される大きさを16mmの画角でしっかり写し込むことができました キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf5.6・1/1000秒)・WBオート・ISO100・JPEG

  • 港にあった乗降用ゲートの色が印象的に感じ、シャッターを切りました。雲ひとつない青空が画面全体を占め、それを背景に黄色にフレームの塗られたゲートが浮かび上がりました。超広角レンズならではのアングルといえるでしょう キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf4.0・1/2000秒)・WBオート・ISO100・JPEG

  • ヨットハーバーに備えてあったベル。絞りを開き背景を適度にボカすとともに、強い遠近感を活かしたアングルとしました。周辺減光も良好に補正されていることが分かります キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf2.8・1/4000秒)・WBオート・ISO100・JPEG

  • 壁の色が面白く、カメラを向けてみました。絞りは開放から1段絞ったF4ですが、合焦部分のシャープネスはクラスとしては上々の結果。画面周辺部に発生することの多い色のにじみもよく補正されています キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf4.0・1/4000秒)・WBオート・ISO100・JPEG

  • 数段絞って撮ってもよかったのですが、ちょっと意地悪く開放絞りで撮影。コントラストは文句ないレベル。合焦部分のシャープネスも良好です。画面四隅のアウトフォーカスの写りはちょっと暴れ気味ですが、そう気になるレベルではありません キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf2.8・1/4000秒)・WBオート・ISO100・JPEG

  • こちらも絞り開放での撮影。ピントの合った被写体を際立たせるほどではないですが、それなりのボケが得られました。これまでは、カメラによる光学的な補正は一部の収差だけでしたが、今後はより多くの収差を補正するカメラも出てきそうです キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf2.8・1/1250秒)・WBオート・ISO100・JPEG

  • お店の看板や道の上に落ちた影が面白く感じ、カメラを向けました。画角の広いレンズゆえ、風景ばかりでなく道幅の狭い通りなど、引きの効かない場所でのスナップ撮影にも活躍しそうに思えました キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf4.0・1/1000秒)・WBオート・ISO100・JPEG