超望遠域までカバーする望遠ズームレンズというと、大きく、重い…というのが一般的な認識といえます。持ち運びやカメラバッグへの収納が面倒に感じることも少なくありませんし、カメラを構え続けるにも腕力がないと辛いと感じます。見た目にもちょっと大袈裟で、場所によっては必要以上に目立ってしまうことすらあります。何より、とても高価です。しかし、キヤノンが発売したEOS Rシリーズ用の「RF100-400mm F5.6-8 IS USM」は、そのような概念を大きく覆す意欲的な望遠ズームといえます。

  • 超望遠域までカバーする望遠ズームとしては細身で軽量、そして何より手に入れやすい価格が特徴の「RF100-400mm F5.6-8 IS USM」。キヤノンオンラインショップの販売価格は90,500円ですが、現在は「納期約4カ月」と案内しています

レンズは500ml缶並みのサイズに抑え、価格もグッと抑えた

本レンズを語るにあたり、鏡筒の大きさ、重さと価格を外すわけにはいきません。大きさはφ79.5×164.7mm。これは、500mlの清涼飲料水やビールの缶の大きさに近いものです。質量も635gと、このクラスの焦点距離を持つ望遠ズームとしてはとても軽量となります。テレ端の焦点距離が100mm長くなりますが、上位クラスの“白レンズ”である「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」は大きさφ93.8×207.6mm、質量1,370gですので、その違いは侮れません。

もちろん、本レンズもテレ側にズームしていくとインナーの鏡筒が繰り出し、全長は超望遠をカバーする望遠ズームらしい長さになりますが、それでもテレ端ではさほどの長さとはならず、しかもカメラを構えた状態での重量的バランスの変化も少なく感じます。

  • ワイド端(上)とテレ端(下)の状態です。インナー鏡筒の繰り出し量は、焦点距離やズーム比から考えれば控えめな感じです。カメラを構えた状態でズーミングしても、重量的なバランスが大きく変化することはありません

  • ワイド端(上)とテレ端(下)の画角比較です。ズームレンジが広いので、スポーツイベントや野鳥、鉄道の撮影など、活躍する場を選びません。70-200mmクラスの望遠ズームを持つユーザーも持っていて損のないレンズといえます 共通データ:キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf11)・WBオート・ISOオート・JPEG

注目の光学系は9群12枚。ズーム全域で色のにじみを抑えるUDレンズ1枚と、ディストーションを抑える非球面レンズ1枚を採用しています。なかでも、非球面レンズはキヤノンが得意とするプラスチックをマテリアルとするPMo非球面レンズ。近ごろリリースしている低価格帯のレンズには、必ずと述べてよいほどこのレンズが採用されており、キヤノンの自信のほどがうかがえます。

その光学系により価格が抑えられているのも魅力的です。実売価格は90,500円で、先のRF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMが368,500円であることを考えると、驚くほどリーズナブル。本レンズは誰でも扱いやすい大きさ重さであるとともに、望遠ズームとしては圧倒的に手に入れやすい価格を実現しています。

  • 鏡筒の左側面には、AF/MF切り替えスイッチと手ブレ補正機構ISのON/OFFスイッチを備えます

  • 鏡筒の右側面には、ズームロックスイッチを備えます。インナー鏡筒も軽量に仕上がっているものと察せられますが、それでもズームロックの搭載はありがたく思えます

絞り開放から安定の画質、AF性能も不満なし

もちろん、その写りにスキはありません。合焦面のシャープネスのキレは絞り開放からよく、1段ほど絞るとさらに増してきます。前述のUDレンズによるものと思われますが、色のにじみもよく抑えられおり、画面全域ですっきりとした写りに仕上げてくれます。周辺減光やディストーションも気になるレベルではありません。逆光でのフレアやゴーストの発生はズーム全域でよく抑えられており、クリアでヌケのよい写りが得られます。

望遠レンズでは、AFの速さがより一層気になるところですが、マイクロUSMの駆動は速やかでストレスを感じることは皆無。どの焦点距離でも、フォーカスエリアと重なった被写体に速やかにピントが合います。もちろんマイクロUSMですので、音もほぼ無音。静寂性を求められる場所での撮影も問題になることはないでしょう(カメラ側のシャッター音には注意が必要ですが)。カメラ側の性能に依存するところも多いですが、サーボAF(コンテニュアスAF)での被写体の喰い付きも上々。作例をチェックした限り、しっかりと被写体を捕捉し続けています。鉄道や航空機、運動会をはじめとするスポーツイベントの撮影などでは、特に心強く感じることと思います。

エクステンダーが使えるのも本レンズの魅力。「EXTENDER RF1.4x」「EXTENDER RF2x」のいずれにも対応します。RFマウントのレンズはショートバックフォーカスであることなどから、望遠レンズでも後玉がマウント面近くにあることが多く、エクステンダーが使用できないものもあるなかで、本レンズは拡張性の高さが評価できます。もちろん、AFはどちらのエクステンダーでも、どの焦点距離でも正確に作動しますので、安心して撮影に臨めます。

頑張ってほしかったと思うのがレンズフードです。いくらコーティング技術が進化したとはいえ、前玉に太陽のような強い光源が当たるとフレアやゴーストの発生の要因になりますし、シャープネスやコントラストの低下も招きます。本レンズも専用のフード(ET-74B)は用意されているのですが、残念ながら別売(実売価格は4,800円)。先に紹介した同社オンラインショップでの本レンズの税込価格にフードの税込価格を足しても10万円を切りますので、同梱して販売しても十分勝負できるのではと思います。何より、必須というべきフードが最初から付いてくればユーザーフレンドリーだと思うのですが。

高価なレンズは写りがいいのは当たり前ですが、キヤノンはその下のクラスでもメーカーの名に恥じない高性能なレンズをこのところ相次いで発売しており、ユーザーとしてとても嬉しく思えます。本レンズも例外ではなく、写りの良さは特筆すべきところといえるでしょう。400mmまで超望遠域までの撮影を可能としながらハンドリングしやすい大きさ重さとしているのも見逃せないところ。価格も安価に収まり、望遠撮影の楽しさをぐっと身近にしてくれるレンズのように思えます。願わくば、ミドルクラスのEOS Rシリーズのカメラももう少し手に入れやすい価格にしてくれれば…と思わずにはいられません。

キヤノン「RF100-400mm F5.6-8 IS USM」のポイントまとめ

  • 超望遠域までカバーする望遠レンズながら軽量コンパクト
  • 素速く静粛性に優れたAF。サーボAFでの喰い付きも上々
  • エクステンダー装着でより望遠域の撮影が楽しめる
  • 低価格なのは大いに評価できるが、レンズフードは同梱してほしかった
  • ワイド端100mm、絞り値は開放F5.6の作例となります。半逆光ながらフードなしで撮影していますが、ピントを合わせた被写体周辺のコントラストやシャープネスなど上々です。フードをしていたら、結果はもっとよかったかもしれません キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf5.6・1/800秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離100mm

  • 最短撮影距離には及びませんが、被写体にぐっと寄って撮影したカットです。絞りはわずかに絞ったF7.1。合焦部分のシャープネスは高く、背景および前景のボケ味はナチュラルに思えます キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf7.1・1/200秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離200mm

  • テレ端での撮影。AFはサーボAFに設定しています。大気の影響もあって、カリカリの解像感ではないですが、それでもピントを合わせたジェットホイルのシャープネスは高いように思えます。半逆光での撮影ですが、やはりフードは欲しいところ キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf8.0・1/800秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離400mm

  • 順光での撮影では、いうまでもなくフードがなくともシャープネスおよびコントラストも上々の結果。このレンズの本領が発揮されます。わずかに糸巻き状のディストーションが発生しています キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf8.0・1/800秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離400mm

  • 焦点距離325mm、絞りは開放に近いf8.0での撮影。狙った被写体に正確にピントが合っています。解像感も高く、合焦したヨットをリアルに再現しています。手ブレ補正の効きもよく、安心して手持ちで撮影に臨めます キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf8.0・1/1000秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離325mm

  • カメラに対して向かってくる船舶をサーボAFで連続撮影した中の1カット。しっかりと正確に被写体を捕捉しています。解像感も上々で、ピントの合った部分もキレのよい写りが得られました キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf8.0・1/500秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離400mm

  • 山頂にある熱海名物秘宝館に直結するロープウェイ。ロープの光の反射がより印象的に写るところを探してシャッターを切りました。撮影した場所には電柱が立っており、その影でレンズ前玉に当たる太陽光を遮光するようにして撮影しています キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf8.0・1/320秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離165mm

  • 熱海港から見た砂浜の海岸沿いに立つホテルを撮影しました。海から発生する水蒸気の影響も少なく、解像感の高い写りが得られました。熱海港で釣りを楽しむ人は前ボケとなっていますが、不自然な感じはしません キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf7.1・1/800秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離225mm

  • 熱海港に停泊していた小型のタグボード。1段ほど絞り込むとともに、露出をわずかに切り詰めることで、鉄の質感を表現してみました。長年の使用でできた船体の凹凸や錆浮きなど雰囲気ある仕上がりが得られました キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf8.0・1/320秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離100mm

  • 熱海港周辺を遊覧する船にカメラを向けました。海鳥が乗船客の投げるエサを求めて飛び回っています。絞りは開放ですが、ピントの合った部分のシャープネスは高く、周辺減光も気にならないレベルです キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf5.6・1/640秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離100mm

  • こちらも同じ熱海港周辺を遊覧する船を狙ったものです。テレ端の400mmで、海鳥の白さを強調するためにちょっと露出を切り詰めています。望遠レンズの圧縮効果で、海鳥が密になって飛んでいるかのように見えます キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf8.0・1/400秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離400mm

  • 熱海の駅前でうろうろしていたら突然目の前をバッタが飛んでいき、お店のガラスに着地。すかさずカメラを向けました。焦点距離は400mm、被写体との距離はおおよそ1mとなります。望遠マクロも得意なレンズです キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf8.0・1/400秒)・WBオート・ISO2500・JPEG・焦点距離400mm