四度目の正直での打ち上げ成功

同社はまず、2018年から試作ロケットを使い、PSCAから軌道に到達しない(サブオービタル)試験飛行を2回実施。どちらもトラブルで失敗に終わったものの、衛星打ち上げへの挑戦に移った。

2020年9月12日には、初の軌道到達を目指した「ロケット3.1」の打ち上げ試験を実施。しかし、ロケットの誘導システムに問題が起き、打ち上げから30秒後に飛行を中断させるコマンドが送られ、失敗に終わった。

同年12月には、改良した「ロケット3.2」による打ち上げを実施。高度100kmを超え、初の宇宙到達はなしとげたものの、第2段エンジンの混合比に問題があり、計画より早くエンジンが停止。軌道速度には達しなかった。

今年8月には、タンクを延長するなどして改良した「ロケット3.3」が打ち上げられたが、第1段エンジン5基のうち1基が、離昇直後に停止。ロケットは横滑りしたのち、のろのろと上昇し始めたものの、最終的に打ち上げは失敗に終わった。原因は、打ち上げ前にロケットに推進剤を充填するためのクイック・ディスコネクトから燃料が漏れ、ロケットと発射台の間で発火し、ロケットの電子機器が破損したことだとされる。

そして通算4度目の挑戦となった今回、ロケット3.3の2号機、シリアルナンバーLV0007は、日本時間11月20日15時16分(太平洋標準時19日22時16分)に、PSCAから離昇した。

ロケットは順調に舞い上がり、ぐんぐん加速し、やがて宇宙空間に到達。第2段エンジンも問題なく動き、そして打ち上げから8分47秒後、ロケットは7.61km/s、すなわち軌道速度に達した。

その後のデータ分析で、ロケットは高度約500km、軌道傾斜角86.0°の、計画どおりの軌道に入っていることを確認。打ち上げは完璧な成功を収めた。

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    ロケット3.3の2号機、シリアルナンバーLV0007の打ち上げの様子 (C) Astra

ロケットの第2段には米宇宙軍が開発した「STP-27AD1」という性能確認用の機器が搭載されていた。この機器は分離される形式の衛星ではなく、第2段に装着されたまま軌道を周回している。

初の打ち上げ成功を受けて、ケンプ氏は「アストラにとって、軌道に到達できたことは歴史的なマイルストーンとなりました。これにより私たちは、お客さまへのサービス提供と、ロケットの生産、打ち上げ頻度の向上に集中することができます」と語った。

「ロケットのチームは何年にもわたって、懸命に取り組んできました。反復に次ぐ反復、失敗に次ぐ失敗を経て、ついに成功につながりました」。

また、共同設立者で同社CTOも務めるロンドン氏は「この成功は、私たちの素晴らしいチームと、これまで築いてきた文化によってもたらされたものです。今日の成功に至るまでに行われた、製造、打ち上げ、構築、失敗からの学習、そしてその反復を続けた勇気と献身には感謝の気持ちしかありません」と語っている。

アストラは今後、今年中に次号機となるLV0008の打ち上げを計画しているほか、LV0009やLV0010の製造も進めているという。

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    ロケット3.3の2号機、シリアルナンバーLV0007が軌道に到達した瞬間 (C) Astra

超小型ロケットの市場競争が始まる

今回のアストラのロケット打ち上げ成功は、米国の民間企業が衛星打ち上げに成功した例としては、オービタル・サイエンシズ、スペースX、ロケット・ラボ、ヴァージン・ギャラクティックに続いて5例目となった。米国の超小型ロケットに限れば、ロケット・ラボ、ヴァージン・ギャラクティックに続いて3例目となる。

現在、超小型ロケット界のトップ・ランナーはロケット・ラボで、同社のエレクトロン・ロケットはこれまでに22機中19機が成功。100機以上の小型・超小型衛星を宇宙へ送り込んでおり、この分野の商業打ち上げ市場でほぼ独占状態にある。

ヴァージン・ギャラクティックの「ローンチャーワン」ロケットは、今年1月18日に初めて打ち上げに成功。6月には2機目の打ち上げにも成功し、少しずつ実績を積み上げている。すでに宇宙インターネット「ワンウェブ」の衛星など、多数の受注も獲得している。

アストラも、前述のようにすでにに20件以上の打ち上げ受注を獲得済みで、今回ついにロケットの打ち上げが成功したことで、小型・超小型衛星の商業打ち上げ市場に本格的に参入。いよいよロケット・ラボやヴァージンとの直接的な競争に臨むことになる。

また、この3社以外にも、ファイアフライ・エアロスペースやレラティヴィティ・スペースといった企業がロケットの開発を行っている。さらに世界に目を向けると、欧州や日本などにも、このクラスのロケットを開発している企業が数多く存在する。

さらに、小さな衛星を打ち上げるのは小さなロケットだけの仕事ではない。大型ロケットで小型・超小型衛星をまとめて打ち上げる「ライドシェア」というサービスもあり、打ち上げ時期などの自由度はアストラのような超小型ロケットより劣るが、衛星1機あたりの打ち上げ価格が安くなるというメリットがあることから、選択肢のひとつとして、超小型ロケットのライバルとなっている。こうしたライドシェアによる商業打ち上げは、米国のスペースXや欧州のアリアンスペース、インドのISROなどが手掛けている。

こうした動きを背景に、今後数年のうちに競争は一気に激化し、また吸収合併や撤退といった淘汰も始まるものとみられる。

今回のアストラの打ち上げ成功は、商業打ち上げ市場における本格的な競争の始まりという、ビジネス面で大きな出来事になったのはもちろんのこと、従来とは一線を画する設計思想のロケットが成功したことは、技術的にもきわめて興味深い出来事となった。

超小型ロケット界の異端児ともいえるアストラは、今後どんな旋風を巻き起こすのだろうか。

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    アストラのロケットと射場 (C) Astra

参考文献

Astra Reaches Orbit | Astra
Astraさん (@Astra) / Twitter
Astra Announces LV0007 Launch Window For The United States Space Force | Astra
At Astra, failure is an option | Ars Technica
Nasdaq, We Have Liftoff! | Astra