宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所は11月19日、超高光度赤外線銀河「IRAS08572+3915」の活動銀河核の中心にある超大質量ブラックホールを取り囲む「分子トーラス」について、そのガス構造内にある一酸化炭素から生じる近赤外吸収線を分光観測して内部構造を調べた結果、(1)分子トーラス内部が連続的なガスではなく、離散的な複数の分子ガスの雲(分子雲)によって構成され、それらが外側に噴出したり内側に落下したりしているような動的構造であること、(2)分子雲が、30~700Kと多様な温度を持つ高密度ガスであることの2点が判明したと発表した。
同成果は、東京大学大学院 理学系研究科/JAXA 宇宙科学研究所 宇宙物理学研究系の大西崇介 大学院生、同 松本光生 大学院生、JAXA 宇宙科学研究所・宇宙物理学研究系の中川貴雄 教授、同 磯部直樹 助教らの研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。
現在、ほぼすべての銀河の中心には太陽質量の数百万倍から数十億倍という超大質量ブラックホールが存在すると考えられている。活動銀河核とは、そのようなブラックホールに大量のガスが落ちることで明るく輝く、銀河の中心領域のことだが、可視光を分光した際に幅の広い輝線が観測される1型と、観測されない2型の2種類があり、その違いは、ブラックホールが分子トーラスに取り囲まれていることに由来すると解釈されている。また分子トーラスは、活動銀河核が光るために必要なガスの供給源であるともいわれている。
こうしたことから、分子トーラスの内部構造を明らかにすることが、活動銀河核を理解する上で不可欠とされているが、分子トーラスの直径は銀河全体の1万分の1程度と小さく、その内部構造を直接撮像することは現在の観測技術では困難であるため、いまだに詳細なことはわかっていないという。
そこで今回の研究では、IRAS08572+3915という超高光度赤外線銀河を例に取り、撮像するのではなく、分子トーラス内部の一酸化炭素(CO)ガスによる近赤外吸収線(振動回転遷移吸収線)を、すばる望遠鏡で高分散分光することで、トーラスの内部構造を調べることが試みられた。
観測された吸収線スペクトルの速度成分が分離された結果、COガス吸収線には、複数の速度成分が存在することが判明。これは、分子トーラス内のCOガスが、連続的に存在しているのではなく、複数の分子ガスの雲(分子雲)を形成して離散的に存在していることを示唆するものであるという。
また、分子雲の運動と空間的な位置、分子雲と中心のブラックホールとの距離なども調べたところ、トーラス内の分子雲は中心に近いところでは噴出し、離れたところでは落下しているという、動的な内部構造が判明したという。さらに、分子トーラスがおよそ30~700Kと多様な温度を持つ、高密度な分子雲によって構成されていることも確認されたとする。
今回の成果について研究チームでは、COガス近赤外吸収線の高分散分光による、トーラス内部構造のさらなる観測研究への足掛かりになるとしており、今後は、この手法をほかの活動銀河核にも適用することで、分子トーラスの内部構造を体系的に調べることが可能になるとしているほか、今回の手法を用いることで、活動銀河核の研究を推進することが期待されるとしている。