最新の8Kディスプレイで文化財を楽しめる企画展示「8Kで文化財 みほとけ調査」が、東京・上野の東京国立博物館(トーハク)でスタートしました。同博物館にある法隆寺宝物館で12月5日まで開催中です。

  • 「8Kで文化財 みほとけ調査」展示会場

  • 展示ブース内で体験しているところ

トーハクの総合文化展(常設展)、もしくは開催中の特別展のチケットがあれば、追加料金なしで体験できます。トーハクでは新型コロナウイルス感染症への対策として事前予約制を導入しているため、鑑賞の際はWebサイトからの入館日時予約が必要です。

開館時間は9時30分~17時。休館日は毎週月曜日です(ただし月曜日が祝日または休日の場合は開館し、翌平日に休館)。

  • 東京国立博物館を正門側から見たところ。写真には写っていないが、法隆寺宝物館はこの左手にある

  • 法隆寺宝物館の外観

8K大画面で仏像鑑賞。調査気分を味わえる“懐中電灯”も

同企画は、シャープとトーハク、文化財活用センター(ぶんかつ)の3者共同で開発した、新しい文化財展示の取り組みです。トーハクが所蔵する3体の仏像を3Dモデル化し、シャープが開発した「8Kインタラクティブミュージアム」の精細な8Kディスプレイを通じて観察できるようになっています。

  • 展示ブースは2つあり、一度に最大2人が体験可能。各ブースには幅約1.5mの鑑賞エリア(足下の枠線内)を設けている

  • トーハクが所蔵する3体の仏像を3Dモデル化し、8K大画面で鑑賞

要するに、ディスプレイに表示された仏像を観察するという展示ですが、ただリアルな映像を眺めるだけにはとどまりません。体験時には、懐中電灯型のコントローラーを手に持って、画面の中の仏像を照らして細部を観察できます。

さらに、幅約1.5mの鑑賞エリアの中を左右に動いたりしゃがんだりすると、画面の中の仏像を回したり、角度を変えて眺めたりできます。

  • 新開発の懐中電灯型コントローラーを持ったところ

10分ほどのプログラムを通して、仏教が日本へ伝来してくるなかで、仏像の姿形がどのように変化していったかを時系列で体験できる構成となっています。各仏像には特徴を紹介する「見どころポイント」が用意されていて、仏像の見方がまったく分からない人でも、違いや特徴が分かりやすい作りになっています。

鑑賞しているときの気分は、まるで仏像を調査する研究員になったかのよう。実物よりも大きく画面表示できるため、普段の展示ではなかなか気づかないような、細かな造形の違いも観察できました。

1体目は、2世紀の制作とされる古代インド・クシャーン朝期の「菩薩立像」。この仏像が生まれたガンダーラ地方は仏像の発祥地のひとつとされています。現代のパキスタン北西部に相当し、かつてはシルクロードの要衝でもありました。仏像の誕生に影響を与えたと言われる、古代ギリシアの彫刻の雰囲気を残しています。

  • 「菩薩立像」(2世紀 パキスタン・ガンダーラ 石造)の3Dモデルを鑑賞

2体目は、7世紀の中国で制作されたという「十一面観音菩薩像」。3体のなかで最も小さい仏像です。今回の展示では、頭の上の小さな顔にさらに彫り込まれている“超絶技巧”を細部まで観察できました。

  • 重要文化財に指定されている「十一面観音菩薩立像」(7世紀 中国 木造)の3Dモデルに、懐中電灯型コントローラーで“光”を当てたところ

  • コントローラーの向きと、画面の中の“光”を当てている部分が連動し、仏像を調査しているような気分に

3体目は、鎌倉時代の日本で制作された「菩薩立像」。瞳に水晶を入れる“玉眼”に加えて、唇にも薄い水晶板を用いてつやめきを与える“玉唇”とでもいうべき珍しい表現技法を用いています。

  • 重要文化財に指定されている「菩薩立像」(13世紀 日本 木造)の3Dモデル。X線調査によって分かった内部構造が確認できるのも3D映像ならではの特色だ

3体の仏像はいずれもトーハクが所蔵しており、展示を見た後は館内を巡って実物を見ることもできます。クシャーン朝の菩薩立像と中国の十一面観音菩薩像はトーハクの東洋館で、鎌倉時代の菩薩立像は本館でそれぞれ実物が展示されています。

3体の実物展示の場所・期間

  • 菩薩立像(2世紀):東洋館3室 / 通年展示
  • 十一面観音菩薩立像(7世紀):東洋館1室 / 11月16日~2022年4月24日
  • 菩薩立像(13世紀):本館11室 / 11月16日~2022年1月30日
  • 東京国立博物館が所蔵している仏像の実物写真。左から菩薩立像(2世紀)、十一面観音菩薩立像(7世紀)、菩薩立像(13世紀)

来場者に仏像をどう見せるか? 舞台裏と狙いを聞く

シャープ、トーハク、ぶんかつの3者による“8K×文化財”の取り組みは、2020年に開催された「8Kで文化財 ふれる・まわせる名茶碗」に続く第2弾となります。前回は茶碗型コントローラーという“モノ”を動かして鑑賞する方式でしたが、今回のテーマは「みほとけ調査」。仏像という観察対象に懐中電灯型コントローラーを当てる新しい操作方法となりました。

このプログラムを担当した東京国立博物館の研究員、西木政統さんは「懐中電灯は、みほとけ調査の必携アイテムです。仏像が保管されている場所は、お寺や収蔵庫のような暗い場所が調査することも多いからです。仏像自体には触らずに、調査者が周りをぐるぐると回りながら観察することも多くあります」と話していました。仏像にライトを当てるのは「みほとけ調査」の基本スタイルというわけです。

  • 左から、東京国立博物館研究員 兼 文化財活用センター研究員の西木政統さん、シャープマーケティングジャパン ビジネスソリューション社 デジタルイメージング営業推進部 8K事業企画 参事の本山雅さん

この体験を再現するために、シャープは8Kディスプレイとセンサーカメラ、懐中電灯型コントローラー、3Dモデルを組み合わせた操作システムを開発しました。人感センサーやカメラで人の動きを検知して、画面内の仏像を照らして観察する仕組みを採用しています。

  • 懐中電灯型コントローラー(下)とセンサーカメラ(上)

仏像の3Dモデルは1体あたり数百枚の写真から高精細なものを制作。大きなディスプレイに写して拡大しても鑑賞できる映像としては、過去にないものとなっています。シャープの本山雅さんは「複雑な形状の仏像を3Dモデルとして回転させる時の動きをいかに自然に見せるか、研究を重ねました。ライトを照らすという操作も、センサーとスムーズに連動させる点で苦労がありました」と振り返りました。

ディスプレイは70V型で、シャープの8K対応テレビ「DW1シリーズ」(2021年モデル)に相当するものを用いており、従来と比べて視野角や色味の良さが向上しているとのこと。斜めから鑑賞する場合も仏像の色味を適切に再現できるという点で、ディスプレイの画質向上が展示のリアルさに一役買っています。

西木さんは「仏像が生まれてから日本に入ってくるまでの流れを体験できるように、各時代・地域を代表するような仏像を選びました。私たちが普段よく目にする日本の仏像が、どのように伝わり、生まれていったのか、体験を通して思いをはせていただけば」と語っていました。