東京五輪に水素を提供したENEOSのねらいとは
2021年7月23日に開催された東京2020オリンピック競技大会の開会式。その前後からENEOS※1が提供する水素エネルギーについてのテレビCMをよく見かけるようになった(ラジオCMも提供していた模様だ)。
ENEOSは石油・ガス・水素・電気供給カテゴリーの東京2020ゴールドパートナーとして石油や電気、水素などのさまざまなエネルギーを各施設や大会用車両などに供給を行うと広報資料などを通じ、発表していた。
また、同大会の聖火台では、史上初めて水素を燃料にすると公表し注目を集めた。
ENEOSは脱炭素に向けた新たなエネルギー源としてCO2フリー水素のサプライチェーン構築を目指し、研究開発および事業化を進めている。
ENEOSの水素事業への取り組みや、今後を見据えた戦略を同社の水素事業推進部 前田征児副部長に伺った。
--東京オリンピック・パラリンピックの東京2020ゴールドパートナーとしての具体的にどういったものを提供したのでしょうか。
前田氏: 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の関連施設に、再生可能エネルギー由来の電気などを供給しました。
この発表の中で、東京2020大会の関連施設(53施設)に供給する電気は、再生可能エネルギー由来で、供給予定電力量は約2400万kWhと公表しています。具体的には、バイオマス発電や太陽光発電で発電された電力で、CO2排出係数ゼロの環境配慮型エネルギーです。
この電力に加えて、利用時にCO2が発生しない水素ガスを聖火台などの燃料として供給しました。
再生可能エネルギー由来の電気や水素を供給することを通じて、ENEOSは持続可能性に配慮した脱炭素・循環型社会の実現に貢献するエネルギー事業の構築を進めています。
聖火台以外にも使用された水素
--放映されたテレビCMでは、パラリンピック競技大会で使用する水素を供給する車両をエネゴリくんが運転するシーンが記憶に残っています。
前田氏:東京2020大会で使用された燃料電池自動車「MIRAI」約500台や聖火台、聖火リレーで使用するトーチの一部などに水素ガスを供給しました。
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開会式から閉会式まで、聖火台では水素ガスが燃やされました。
燃料が水素なので、本来透明な炎のはずが、どうして赤い炎なのかと多くの方から質問されます。炭酸ナトリウムによる炎色反応で着色し、自然な炎の色にしていると聞いています。
聖火台に使用する水素は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と経済産業省との連携をもとに、福島県浪江町に設置された「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」において太陽光を利用して製造され、当社が供給を担いました。(筆者注:FH2Rは東芝エネルギーシステムズ、東北電力、岩谷産業が運営)。
--今回、東京2020大会に水素ガスを供給したことで伝えたかったことは。
前田氏:日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、それに向けた成長戦略を掲げています。
このため、ENEOSグループは政府が宣言する以前の2019年に民間企業として、「2040年には、ENEOSグループの事業活動で排出するCO2相当分を環境負荷低減および環境対応型事業の強化によって相殺する計画を立て、その実現に向けて活動を進める」と公表し、その実現に向けてCO2フリー水素サプライチェーン構築に邁進しています。そして、実現に向けた研究開発・事業戦略を策定し、社会実装を進めようとしています。
【編集部注】
※1 ENEOSは正式には全角表記
【著者】