マイクロソフトが、マルチクラウド戦略を加速させている。米国時間の11月2日~4日に開催されている開発者向けイベント「Microsoft Ignite」でも、Microsoft Azureに関するさまざまな発表が行われており、そのなかでも、Azure Arcは、マルチクラウドを実現するための重要な製品に位置づけられ、その進化にも注目が集まっている。

「今年のIgniteでは、Azureを、いつでも、だれでも、どこでも使えるようにするためにAzure Arcが大きく進化した」と語る米マイクロソフトAzure Edge + Platform担当コーポレートバイスプレジデントのロアンヌ・ソーン(Roanne Sones)氏に、Microsoft Cloudによるマルチクラウド戦略と、Azure Arcの進化などについて聞いた。

  • 米マイクロソフト Azure Edge + Platform担当コーポレートバイスプレジデント ロアンヌ・ソーン(Roanne Sones)氏

    米マイクロソフト Azure Edge + Platform担当コーポレートバイスプレジデント ロアンヌ・ソーン(Roanne Sones)氏

――Microsoft Cloudの特徴を改めて教えてください。

ソーン氏:Microsoft Cloudの最大の特徴は、お客様が求める柔軟性を実現できるという点です。フォーチュン500のような大手企業のお客様は、数1000種類におよぶアプリケーションやデータベース、サーバーを活用し、しかもそれをさまざまな拠点で運用しています。オンプレミスやマルチクラウド、エッジで活用し、開発ツールや言語、フレームワークも多岐に渡っている。そして、アプローチも、オープンソース、Kubernetes、DevOpsなどさまざまです。

その結果、環境や投資が分散しており、人もプロセスもサイロ化するという課題に直面しています。サイロはどこにでも存在します。業務利用の現場でも、データセンターでも、OTにも存在している。これが大きな課題です。

多くのお客様からの要望は、クラウドによってモダナイズしたいということ、その際に、ベンダーにロックインされたくないということです。お客様が求めているのは柔軟性であり、ソリューションを複数のクラウドプロバイダー間で使えるようにしたいということです。

Microsoft Cloudが目指しているのは、お客様に対して、包括的で、信頼できるクラウドプラットフォームを、必要なところで提供し、多くのことを達成できるようにすることです。そして、人、プロセス、テクノロジーをあわせて、サイロを壊したいと思っています。

Microsoft Cloudは、すでにフォーチュン500社のうち、95%で使われています。その理由は、Microsoft Cloudはフルクラウドであり、インフラ、プロダクティビティソリューション、BPA (Business Process Automation)、デペロッパーサービスを、Azureを通じて提供し、しかもそれを、オンプレミス、マルチクラウド、エッジで提供できるという柔軟性があるからです。

Microsoft Cloudの基盤となるのはAzureであり、設計時点からハイブリッドの思想を取り入れています。オンプレミスでもクラウドでもシームレスに、複数のクラウドプロバイダーの環境でも利用することができます。

――マルチクラウドの活用において、Microsoft Cloudはどんなメリットを提供できますか。

ソーン氏:マルチクラウド環境を構築、運用する際に、3つのニーズがあります。ひとつは、ITプロフェッショナルは、オンプレミスでも、マルチクラウドでも、エッジでも、ひとつの画面で、すべてのサービスを利用し、管理したいという点です。これを解決するのがAzure Arcとなります。

2つめは、デベロッパーはクラウドネイティブアプリを開発し、これをあらゆるところにデプロイしたいと考えていますが、その際に、使い慣れたツールを使用し、アプリを構築し、どこでもメンテナンスできるようにしたいと考えています。とくに、注目を集めているのが、これをエッジの環境でどう実現するのかという点です。マイクロソフトでは、VS Codeに投資をしたり、GitHubを通じて公開したりといった取り組みを通じて、使い慣れたツールをそのまま使えるような取り組みを進めています。

そして、最後に、ハイブリッド/マルチクラウドにおいては、お客様は、あらゆる場所でデータを活用したいと考えている点です。プロダクティビティソリューションやデータセンター、OTなど、活用したいと考えてる場所はさまざまです。今回のIgniteでも触れていますが、Azure Arc enabled Data ServicesやAzure Arc enabled Application Servicesを通じて、その上に構築されるアプリやデータは、さまざまな環境に移植して利用できるようになります。

ここでいくつかの事例を紹介しましょう。

ベアリングとシールの世界的なメーカーであるSKFは、Azure Stack HCI上で Azure Arc対応のデータサービスとAzure Kubernetes Serviceを起動させるハイブリッドアーキテクチャーを構築しました。これにより、エッジでのデータAIインテリジェンスを用いたリアルタイムな意思決定を可能にしました。工場内のクラウドサービスを拡張することで、運用効率が向上し、ハードウェアコストが40%削減され、OT関連の機械のダウンタイムは約30%削減しました。

また、通信企業であるNokiaでは、AVA (AI & analytics, Virtualization, Automation)と呼ぶ通信事業者向けのAIエコシステムを提供しており、そのネットワークやサービスの最適化をマイクロソフトが支援しています。AVAは、ハイブリッドなマルチクラウドで動作しており、Azure Arc上で動作するMicrosoft Azure Kubernetes Serviceを用いて、更新されたアーキテクチャーのPoCを成功させました。これにより、データセンターの場所や顧客のクラウドプラットフォームの場所を問わずに、複雑なインフラストラクチャーを容易に管理し、異なる国のデータガバナンスのニーズに対応しています。AVAのアーチテクチャがアップデートされたことにより、世界中のさまざまなデータニーズをもつ顧客へのサービスを向上させるだけでなく、データのコンプライアンスと顧客の安心を確保することにも役立っています。

――マルチクラウド戦略における他社との違いはどこにありますか。

ソーン氏:Microsoft Cloudが、マルチクラウドの実現において、最も力を注いできたのは柔軟性です。オープンで、エコシステムファーストのアプローチをしています。たとえば、Azure Arcでは、CNCF(Cloud Native Computing Foundation)に準拠したKubernetesクラスターで動作する環境を実現したり、VMware Tanzuとの連携など、幅広い柔軟性を提供しています。また、シンプルなインフラを通じて、Azure Arcの機能を活用できるという点も大きな特徴です。デルやHP、レノボとのエコシステムによって提供されるAzure Stack HCIでは、すぐにAzure Arcの機能を活用でき、シンプルな管理環境や運用環境を実現でき、さらにオンプレミスでワークロードを動かすよりも、高いコスト競争力を実現できます。

そして、全体像を見て、包括的な環境を実現している点も、Microsoft Cloudの大きな特徴です。仮想マシンのワークロードをサポートするだけでなく、WindowsやLinux、SQL Serveなど、広がりを持って対応し、既存のアプリケーションをモダナイゼーションしたり、クラウドネイティブのKubernetesを活用したいというお客様にもパスを提供し、包括的なサービスを提供できます。プロダクティビティ、IT、OTの世界を自由に行き来でき、いま持っているインフラと、これからやりたいものの両方に対応できるのがMicrosoft Cloudの強みです。

――マイクロソフトのマルチクラウド戦略においては、Azure Arcが重要な役割を担っています。今回のIgniteではどんな進化を遂げましたか。

ソーン氏:Azure Arcは、ひとつのコントロール画面を提供することからスタートしました。それが、開発者のオペレーション環境にもなり、クラウドネイティブなアプリケーションの開発ができ、Azure上のサービスの移植性を高めることもできるようになりました。今年のIgniteでは、Azure Arcによるハイブリッド/マルチクラウド環境の管理を強化しています。たとえば、VMware vSphereとAzure Stack HCIのお客様は、Azure上で仮想マシンやKubernetesを、Azure Portalから一元管理できるようになります。

また、Azure Arc enabled Machine Learningの強化も発表しました。今回の機能強化では、クラウド環境だけでなく、オンプレミス環境でも、推論とスコアリングができるようになります。オンプレミス環境からデータを動かすことができないといった制約がある場合にも、オンプレミス環境で機械学習を利用することができ、より幅広いお客様に活用してもらえるようになります。

このように、今年のIgniteでのAzure Arcの進化は、Azureをいつでも、だれでも、どこでも使えるようにしていくという点にあるといえます。

――エッジ環境における進化のポイントはどこですか。

ソーン氏:Azure Virtual Desktopのアップデートを発表しました。ここでは、Azure Stack HCIのユーザーが、Virtual Desktopの機能を利用できるようになりました。これによって、病院内などで個人情報を管理するなど、データ保護に関する規制が厳しい業界においても対応でき、Azure Stack HCIを設置した病院の敷地を出ることなく、Azure Virtual Desktopを活用できるようになります。

――2021年3月には、Azure Perceptを発表しました。この手応えはどうですか。

ソーン氏:シリコンからサービスまでを統合して提供できるエッジソリューションがAzure Perceptです。AIや機械学習をエッジで利用でき、ローコード/ノーコードでAIソリューションを開発したり、新たなクラスのアプリケーションを作り上げ、コストを下げ、効率性をあげ、ビジネスのやり方を変えていくことができると期待しています。現在、多くのお客様がPoCを行っています。空間アナリティクスへの関心が高く、カメラと空間分析を行うAI/MLを組み合わせた活用などが始まっています。発表できる段階で、またお知らせしたいと思っています。、AI/MLの可能性を広げることができると期待しています。

――今回のIgniteでは、Azure Arc以外に注目しておくべき発表はなにかありますか。

ソーン氏:データに関するメッセージが、重要な発表だといえます。お客様のトランスフォームの鍵になるのがデータです。データ活用に向けたサービスは、ますます重要になってきます。また、デベロッパー向けにさまざまなツールを発表しました。同時にDeveloper Velocityというコンセプトを打ち出して、新たなスピード感を持って、ITデベロッパーやOTデベロッパー、データサイエンティストなどが一緒になってアプリケーションを開発するための支援を行います。デベロッパーが生産性を高め、効率的に開発し、さらに、チームとして開発できる環境も支援していくことになります。