東京大学(東大)は10月20日、これまでの研究で十分に理解されていなかった、「X線バースト天体」において、不安定核(放射性同位体)「マグネシウム-22(22Mg)」が、別の不安定核である「アルミニウム-25(25Mg)」に変換する「22Mg(α,p)25Al」反応を実験的に調べ、反応に寄与する共鳴の詳細情報を得ることに成功したと発表した。
同成果は、東大 原子核科学研究センターの山口英斉講師、同・早川勢也特任助教、中国科学院 近代物理研究所のHu Jun研究員のほか、理化学研究所(理研)、豪州・モナシュ大学、米・ミシガン州立大学、英・エジンバラ大学、中国・北京師範大学、韓国・成均館大学、韓国・梨花女子大学、伊・INFN-LNS研究所、加・マクマスター大学、ベルギー・ブリュッセル自由大学、中国・蘭州大学の研究者らも参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学専門誌「Physical Review Letters」に掲載された。
X線バーストは、天体からX線が短時間に大量に放出される現象であり、銀河内で頻繁に起こっている熱核反応爆発として知られている。多くのX線バーストは、光量が急激に立ち上がってゆっくりと減衰するパターンを見せるが、バーストが繰り返し起こる場合も知られており、その理解のためには爆発のメカニズム、特にその背後にある原子核反応の精密な理解が必要だと考えられている。
22Mg(α,p)25Alは、反応経路がヘリウムと陽子を交換する「(α,p)反応」を経由して、より高速に反応が進む(αp-過程)の最重要反応の1つとされているが、αp-過程を形成する反応の多くは、ある不安定核から別の不安定核を作る反応であるため、安定核の反応と比較して実験が困難であり、研究がなかなか進まないという課題があった。
今回の研究は、東大の持つ不安定核ビーム生成技術を活用することで、反応生成物である25Alから共鳴を調べるという逆転の発想で22Mg(α,p)25Al反応の天体温度における解明が目指すもので、具体的には高強度24Mg安定核ビームを重水素標的に照射することで、自然界に存在しない25Al同位体を、天体温度に近いエネルギーを持つ不安定核ビームとして生成。同ビームの強度は1秒間あたり2×105個で、25Alと陽子の共鳴散乱を起こした後の反跳陽子を捕らえ、エネルギーを精密測定したところ、25Alと陽子の複合核である、シリコン-26(26Si)の共鳴を多数観測することに成功したという。
この26Siの共鳴は、22Mg(α,p)25Al反応の中間状態であり、観測された共鳴の強度やスペクトル形状から、それぞれの共鳴状態の性質を分析。そこから22Mg(α,p)25Al反応の共鳴反応断面積の評価を行い、天体における核反応率へと変換。この核反応率を用いて新しいX線バーストモデルを作り、光量計算を行ったところ、同モデルにて、過去に観測されたX線バースト、GS 1826-24 とSAX J1808.4-3658の光量をより良く再現することができることが確認されたとする。
研究チームでは、今後、より多様な高強度不安定核ビームを生成する技術開発が進展すれば、22Mg(α,p)25Alに限らず、X線バーストの多くの重要反応の研究が可能となるとしている。また、その理解が進むことで、地球や生物の体を形作る元素の起源の解明にもつながることが期待されるともしている。