大阪大学(阪大)は10月11日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のタンパク質を改変して免疫することにより、同ウイルスだけでなく、「SARS-CoV」や「WIV1-CoV」など、多様なSARS類縁ウイルスの感染に対しても有効なワクチンとして働くことを明らかにしたと発表した。
同成果は、阪大 免疫学フロンティア研究センター 分化制御の新中須亮特任准教授、同・黒﨑知博特任教授、同・免疫機能統御学の榊原修平准教授らの研究チームによるもの。詳細は、免疫学、神経科学、がん生物学などを扱う学術誌「Journal of Experimental Medicine」に掲載された。
ワクチンの原理は、感染ウイルスまたはその構成タンパク質をあらかじめ免疫することにより、将来のウイルス感染時にウイルスに結合し、生体への侵入を阻害する有効な抗体を生体内に作っておくというものであり、新型コロナに対しても世界中で用いられている。
一方で、現在用いられている新型コロナに対するワクチンは、当該ウイルスには有効ではあるものの、SARS類縁ウイルス、たとえばWIV1-CoVウイルスに対しては無効であることが示されている。
そこで研究チームでは今回、将来起こり得るSARS類縁ウイルスによるパンデミックにも有効なワクチン開発を試みることにしたという。そこで着目されたのが、SARS類縁ウイルスで共通に有する構造で、その共通部位に対する抗体を誘導すれば、たとえSARS類縁ウイルスへの感染が生じたとしても有効ではないかという仮説を構築。その仮説をマウス動物モデルで検定することにしたという。
その結果、SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質レセプター結合領域(RBD)のコアー領域(コアーRBD)が、SARS類縁ウイルスでも構造的によく類似しているということが判明。RBDにはもう1つヘッド領域(ヘッドRBD)が存在し、RBD全体を免疫すると、主としてヘッドRBDに対する抗体が誘導されることがこれまでの研究からわかっていたことから、このコアー領域に結合する抗体を優位に誘導するためには、ヘッドRBD領域をグリカンエンジニアリングによる糖鎖付加(グリコシル化)を実施し、抗体からマスキングすれば、コアー領域に対して優位に抗体を誘導できるのではないかと推測され、そうした改変RBDが作成されたという。
この改変RBDをマウスに免疫したところ、予想どおりコアー領域に対する抗体、なおかつ親和性の高い抗体を誘導できることが判明。ウイルスの生体侵入阻害活性の測定が行われたところ、SARS-CoV-2だけではなく、SARS類縁ウイルスである、SARS-CoVやWIV1-CoVにも阻害活性を有することが確認されたほか、長期にわたって、このSARS類縁ウイルスに有効な抗体を産生し続ける長期プラズマ細胞も誘導できていることが確認されたという。
研究チームでは、今回の研究成果を踏まえ、将来ヒトにおいてSARS類縁ウイルスの爆発的感染が生じても、同様な原理を用いて有効なワクチンを開発できることが期待されるとしている。