米国の宇宙旅行会社ヴァージン・ギャラクティックは2021年8月5日、宇宙旅行のチケットの販売を再開すると発表した。

価格は1人あたり45万ドル(約5000万円)。以前は25万ドルで販売されていたが、倍近くにまで値上がりした。墜落事故を受けた改修や、新型機の開発などが影響したものとみられる。

商業運航の開始は2022年後半を見込む。

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    スペースシップツーの飛行の様子(2018年の試験時のもの) (C) Virgin Galactic

ヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)は、実業家のリチャード・ブランソン氏らが立ち上げた米国企業で、自社開発の宇宙船による、サブオービタル飛行による宇宙旅行の実現を目指している。

サブオービタル飛行とは、宇宙の入口である高度80~100kmまで行って、すぐに降下して帰ってくるというもの。地球の軌道に乗る宇宙船とは異なり、宇宙空間にいられるのはわずか数分間だが、窓から青い地球や黒い宇宙空間を眺めることができ、船内は微小重力(いわゆる無重力)状態になるため、宇宙にいる感覚を味わうことができる。宇宙旅行のほか、微小重力環境を生かした実験や、天体観測などの需要が見込まれている。

同社は、「スペースシップツー」という空中発射型の宇宙船を開発し、試験を続けている。スペースシップツーはこれまでに「VSSエンタープライズ」と「VSSユニティ」の2機が製造されたが、前者は2014年に墜落事故を起こし喪失。その後、VSSユニティが製造され、2018年に初めて宇宙飛行試験に成功。これまでに4回の宇宙飛行を実施している。

今年5月に行われた3回目の試験は、ニューメキシコ州に造られた宇宙港「スペースポート・アメリカ」を拠点とした初の飛行となった。また6月には、米国連邦航空局(FAA)が、同社の商業宇宙輸送事業者のライセンスを更新し、顧客を宇宙に運ぶことを許可した。

そして7月11日に行われた4回目の宇宙飛行試験では、ブランソン氏ら6人を乗せて飛行し、実際の宇宙旅行と同じ作業や飛行手順を確認するとともに、安全性や快適性をアピール。商業運航に向けた準備を着々と進めつつある。

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    宇宙空間に到達したVSSユニティの船内で無重力状態を楽しむリチャード・ブランソン氏 (C) Virgin Galactic

さらに、商業運航に向けて、スペースシップツーを全面的に改良した新型機「スペースシップIII」の開発も進んでおり、現時点で1号機「VSSイマジン(Imagine)」が製造され、地上試験が行われている。また2号機「VSSインスパイア(Inspire)」の製造も進んでいる。

こうした進捗を背景に、同社は5日、宇宙旅行のチケットの販売を再開すると発表した。同社は以前にも販売しており、俳優やスポーツ選手などが購入していたが、前述の墜落事故を受けて一時的に停止していた。

価格は1席あたり45万ドル(約5000万円)から。1席単位での販売のほか、カップルや友人同士、家族向けの複数席のセットチケット、1機まるごと貸し切りのチケットも販売するとしている。

なお、1席あたりの価格は、2010年ごろは20万ドル、2013年には25万ドルだったが、今回倍近くにまで値上がりしたことになる。墜落事故を受けた改修や、スペースシップIIIの開発などが影響したものとみられる。

販売停止前に購入、予約されたチケットは現在も有効だという。新規販売分との差額も負担する必要はないものとみられる。

同社によると、2021年6月30日時点でのチケットの購入者数は約600人になるとし、前述の墜落事故を受けた購入の取り消しはあまりなかったとしている。また、1000ドルの予約金を支払い済みの予約者も約1000人いるとし、今回の販売再開後に購入した乗客は、長い順番待ちの列の並ばねばならない。

なお、研究や実験のために1席分を使用する場合の価格や、宇宙機関などの宇宙飛行士が訓練のための飛行する場合の1席あたりの価格、これまでと変わらず60万ドルのままだという。

同社のマイケル・コルグラツィエ(Michael Colglazier)CEOは「私たちは、宇宙の素晴らしさを世界中の人々に伝えるために努力を続けています。今回の販売再開により、まったく新しい業界と消費者の体験の扉を開くことができて嬉しく思います」とコメントしている。

またヴァージンは、「私たちは歴史が作られるのを見ているだけではなく、一緒にそれを実現しているのです」

VSSユニティの次の宇宙飛行試験は、今年9月下旬の予定。この飛行では、イタリア空軍との契約に基づき、同空軍に所属する3人の軍人と、研究用の装置を載せる。また「利益の発生する最初の飛行」になるという。

現時点で、商業運航の開始は2022年後半に予定されている。

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    商業運航の開始に向け、開発が進む新型宇宙船「スペースシップIII」 (C) Virgin Galactic

サブオービタル宇宙旅行をめぐっては、ネット通販Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏の宇宙企業ブルー・オリジンも力を入れており、7月20日にはベゾス氏らが搭乗し、初の有人飛行試験に成功した。

ブルー・オリジンはまだチケットの販売を行っておらず、価格の見込みなども明らかにされていないが、ヴァージンとの競争上、ほぼ同じ価格で販売するものとみられる。

参考:
「宇宙から見る地球は想像を絶する」、ヴァージンのブランソン氏が宇宙飛行
ブルー・オリジン、初の有人宇宙飛行に成功 - 宇宙旅行の実現まであと一歩

参考文献

Virgin Galactic - Virgin Galactic Announces Second Quarter 2021 Financial Results
Virgin Galactic
Virgin Galactic Receives Approval From FAA for Full Commercial Launch License Following Success of May Test Flight - Virgin Galactic
Virgin Galactic Successfully Completes First Fully Crewed Spaceflight - Virgin Galactic