ドローンの大軍団が東京の夜空に描いた美しい地球や大会エンブレム、東京2020オリンピック大会の開会式でもひときわ印象的だったのが、このドローンショーだろう。これを支えたのは、大会のワールドワイド・パートナーでもあるインテルのデジタル技術だった。このドローンショーを実現できた背景について、インテルのオリンピック・プログラム・オフィスでテクニカル・ディレクターを務める松田貴成氏にお話を伺った。

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    最新の「プレミアム・ドローン」を手に。インテル日本法人 オリンピック・プログラム・オフィス テクニカル・ディレクターの松田貴成氏

1,824機のドローンを1台のパソコンで制御

今回の東京オリンピックに投入されたドローンは、インテル製の「プレミアム・ドローン」と呼ばれる機種だ。同社はこれまでにも継続的にドローンショーを手掛けており、2018年には最大1,218機を投入した平昌オリンピック、日本でも2017年に長崎ハウステンボスで300機、2019年に東京モーターショーで500機を投入したショーを行っている。それまでのドローンは「Shooting Starドローン」と呼ばれるひと世代前の機種が使われていたが、今回の東京オリンピック開会式では、前世代から軽量化やLED発色の強化、制御ソフトウェアも更新された最新型となる1,824機のプレミアム・ドローンでショーを行った。

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インテルのドローンの特徴は、ドローン本体そのもののハードウェアスペックだけではなく、使いやすいソフトウェアツールや、運用負担が非常に少ないオペレーションも含めた、ショーの実現を包括的に担えるインテルならではの部分にあると松田氏は説明する。今回の開会式でも、1,824機のドローンを制御していたのは、たった1台のパソコンなのだそうだ。「特に特別なものではない一般的なパソコンです。パソコン1台で数百から数千機のドローンをすべて制御できます。技術的には制御できる機数に制限はないので、もっと増やすことも可能です」と明かしてくれた。

ドローンの描くアニメーションの作成ソフトと、軌道のシミュレーションソフトなどのツールはインテル内製で、このパソコン上で動作させることができる。特にシミュレーションのツールはかなり精度が高いそうで、衝突回避や効率の良い経路などをドローンを飛ばす前に計算することができ、作業時間の短縮や、クリエイティブの幅の拡大に大きく貢献できるのだそうだ。

そのパソコンの上で動くソフトウェア技術と、ドローンの中のファームウェアによって、ドローンがプログラム通りに自律的に飛行、「どちらかといえば、自動飛行の技術です」と松田氏は話す。ドローンはGPS信号を受けることで座標を確認しており、設定されたプランに沿って飛行している。高度なGPS誤差補正の技術あってこそものといい、風など天候条件に対しても耐性を持っているそうだ。

自動飛行といっても制御パソコンとは常に通信をしており、例えば「急にヘリが接近してきた!」などの緊急時、リアルタイムでアラートを出し対処行動をとるといった制御も可能としている。また、システムの冗長性も特徴となる。実際に今回の開会式では、トラブルの際にすぐ切り替えができるよう、2台目のパソコンをバックアップ用に設置していたそうだ。普通のパソコンを使っていることもあり、確かに冗長化も容易そうに見える。

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ショーのノウハウ蓄積でさらなる進化へ

今後のドローンショーはどうなっていくのだろうか。技術的に機数がまだまだ増やせるなら、例えばさらに費用をかければもっとリッチなドローンショーが見られるのだろうか。松田氏は、「数が多ければいいというわけでもないんです。例えば何千機ものドローンが目の前で動いても、何を描いているのかわからない。見える位置や範囲、距離。それに場所や、デザインでも最適な機体数があると思います」と言う。開会式のショーも、「まず組織委員会のコンセプトが素晴らしかった。それに技術で応えられたことが1番良かったのだと思います」。

インテルはドローンショーのパッケージ販売をはじめている。内部にクリエイティブチームを持っていることで、提供先のクリエイティブチームと話を詰めながら決めていけることも強みなのだそうだ。デザインを自社でできなくとも、イメージからコンテを起こしたり、シミュレーションでイメージ合わせをするといったサポートも請け負う。世界中でドローンショーを提供してきたノウハウを活かし、航空法の管理といった非テクノロジな部分も含め、しっかりしたオペレーションのマニュアルがつくられていることもショーの成功を後押しする。

インテルのドローンは経験とフィードバックを受けて、機能を追加し続けているそうだが、現状で見えている課題や、今後の進化の方向にはどのような点が挙げられるのだろうか。松田氏曰く、「おおざっぱに、課題はたくさんあります」。ドローンの一般的な課題として、大雨や風、飛ばす場所の影響はまだまだ大きい。東京のど真ん中、建物が密集した飛行しづらい場所で実施された今回の開会式では、飛行技術の正確さを高めてきたプレミアム・ドローンの性能が功を奏した。松田氏は、「天候への耐性や、より正確で細かい飛行、LEDの明るさや輝度、多彩な発色は引き続き進化します。ソフトウェアとハードウェアをどちらも開発していく」と話していた。

ところで余談だが、オリンピック開会式前の東京の夜空で、リハーサルなのか各競技の「ピクトグラム」のパターンを描くドローンが目撃されたと話題になっていたが、ショーのバリエーションはかなり多く用意されていたようだ。大会公式Twitterを覗くと、メダル獲得世界記録更新を祝福するパターンなどが紹介されていた。さらには先日のオリンピック閉会式にあわせたものでは、2024年のパリ大会を予告するドローンの姿も公開されている。パラリンピックも開幕するし、ふと夜空を見上げれば、ドローンを目撃するチャンスはまだ残っているのかもしれない。