スウェーデン王立工科大学などの研究チームは2021年7月27日、ハッブル宇宙望遠鏡を使った観測で、木星の衛星「ガニメデ」の大気中に水蒸気が存在する証拠を初めて発見したと発表した。

この水蒸気は、ガニメデの表面にある氷が固体から気体に変化(昇華)したことで発生したものとみられるという。

論文は同日付け発行の論文誌『Nature Astronomy』に掲載された。

  • ガニメデ

    ハッブル宇宙望遠鏡が1996年に撮影したガニメデ (C) NASA, ESA, John Spencer (SwRI Boulder)

ガニメデは木星を回る衛星のひとつで、比較的大きな4つの木星の衛星、いわゆるガリレオ衛星の中で最大であり、さらに太陽系の中でも最大の衛星である。

これまでの研究で、ガニメデには地球のすべての海の水を合計したよりも多くの水が存在する可能性が示されている。ガニメデの温度はきわめて低いため、地表にある水は凍っているものの、地下約160kmの奥深いところには液体の水もあると考えられており、そこに生命が存在する可能性もあるとみられている。

そんな中、スウェーデンのストックホルムにあるスウェーデン王立工科大学(KTH)のローレンツ・ロス(Lorenz Roth)氏らの研究チームは今回、ガニメデの大気中に水蒸気が存在することを示す証拠を初めて発見した。

研究チームはもともと、米国航空宇宙局(NASA)の木星探査機「ジュノー」の観測ミッションを支援するため、ガニメデの大気にあると考えられていた原子状酸素を探していた。

この研究の発端は、1998年にまでさかのぼる。この年、ハッブル宇宙望遠鏡は初めてガニメデの紫外画像を撮影することに成功。その画像には、「オーロラ・バンド」と呼ばれる、地球など磁場をもつ天体でみられるオーロラ・オーバルに似た、カラフルなリボン状の帯電したガスが写っており、ガニメデに弱いながら磁場があることを示す証拠となった。

このオーロラ・バンドには発光の特定のパターンがあり、また、ある2つの紫外観測画像を比べると、似ている部分と異なる部分があることがわかった。このうち似ている部分については、分子状酸素が影響していると解釈できた。一方、異なる部分については、分子状酸素の存在だけでは説明がつかず、原子状酸素が関係している可能性が高いと考えられてきた。

そこでロス氏らの研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡が過去20年間に撮影したガニメデの紫外画像データを再分析し、原子状酸素の量を測定しようとした。ところが、その結果、ガニメデの大気には原子状酸素がほとんど存在しないことが判明。別の理由が探し求められることとなった。

これを受け、ロス氏らは、紫外画像に写っているオーロラの相対的な分布を詳しく調べた。その結果、ガニメデの表面温度は一日を通して大きく変化しており、とくに赤道付近では正午ごろになると、表面の氷から少量の水分子が昇華し、放出されるほどの温度になることが判明したという。

そして、紫外画像で見られた発光パターンの違いは、大気中の水蒸気があると予想される場所と相関関係があるという。

  • ガニメデ

    ハッブル宇宙望遠鏡が1998年に撮影した、ガニメデの紫外画像。2枚の画像を見比べると、大気から観測される発光に特定のパターンがあることがわかる。このうち、似ている部分については分子状酸素の存在によって説明がつく。一方異なる部分については、これまでは原子状酸素によるものと考えられていたが、実際には水蒸気によるものだったとみられる (C) NASA, ESA, Lorenz Roth (KTH)

ロス氏は「これまでは分子状酸素しか観測されていませんでした。この分子状酸素は、荷電粒子がガニメデの氷の表面を侵食したときに発生したものです。今回見つかった水蒸気は、温められた氷の領域で生じた熱的散逸によって昇華した氷に由来するものとみられます」と語る。

なお、前述のように液体の水は地下深くにしか存在しないため、今回見つかった水蒸気は、海から蒸発したものではないと考えられるという。

研究チームはまた、今回の発見は、欧州宇宙機関(ESA)が主導して開発中の大型木星氷衛星探査計画「ジュース(JUICE)」への期待を高めるものになるとしている。ジュースは2022年に打ち上げられる予定で、2029年に木星系に到着。木星の大気や衛星の探査を行い、2032年にはガニメデの周回軌道に入っての探査も計画されている。

ロス氏は「今回の研究結果は、ジュースの観測機器チームに貴重な情報を提供し、探査機の運用を最適化するため、観測計画の向上に役立てることができるでしょう」と語っている。

ガニメデは、氷衛星として代表的な天体であり、また水があることから生命が存在する可能性もあるばかりか、ガリレオ衛星の中でどのような役割を果たしているのか、そして木星とその環境との磁気、プラズマの相互作用についても知るために、かねてより詳細な探査が望まれている。

NASAでは、木星系を理解し、その起源から生命が居住可能な環境が出現するまでの歴史を解明することは、木星のようなガス惑星とその衛星がどのように形成され、進化していくのかについて理解を深めることになると強調。さらに、太陽系外にある木星型惑星や、その居住可能性についても新たな知見が得られることが期待できるとしている。

  • ガニメデ

    今年6月、NASAの木星探査機ジュノーが撮影したガニメデ (C) NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS

参考文献

Hubble Finds First Evidence of Water Vapor at Jupiter’s Moon Ganymede | NASA
A sublimated water atmosphere on Ganymede detected from Hubble Space Telescope observations | Nature Astronomy
Hubble Finds First Evidence of Water Vapour at Jupiter’s Moon Ganymede | ESA/Hubble
Hubble Finds First Evidence of Water Vapor at Jupiter's Moon Ganymede