東北大学は7月29日、東京農業大学との共同研究により、妊娠期のマウスに、プラスチック可塑剤などとして使用されている化学物質「フタル酸ジエチルヘキシル」(DEHP)を投与すると、子孫で異常な精子形成が生じてしまう原因の一端を明らかにしたと発表した。
同成果は、東北大 加齢医学研究所 医用細胞資源センターの丹藤由希子助教、同・松居靖久教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、生物学と医学を題材とした学術誌「eLife」にオンライン掲載された。
近年、精子数の減少が男性不妊の一因である可能性が指摘されるようになっている。動物実験により、内分泌攪乱物質を含む、いくつかの化学物質が精子形成に影響する可能性が示されているが、因果関係や精子形成不全が起こる仕組みについては、まだ不明な点が数多く残されているという。
妊娠期のマウスに、ポリ塩化ビニルなどプラスチックの可塑剤として広く使われてきた化学物質のフタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)が投与されると、産仔の成長後に精子形成の異常が確認され、さらに孫、曾孫世代まで同様の異常が見られることが報告されている(健康への影響の懸念から、日本では食品用の容器包装やおもちゃには、DEHPを含むポリ塩化ビニルの使用は禁止されている)。
そこで研究チームは今回、DEHPによる子孫の精子形成異常の原因として、遺伝子の発現制御に重要なDNAメチル化の異常に着目し、その関与を調べることにしたという。
母胎にDEHP、または対照としてコーンオイルを投与した胎仔由来の生殖細胞、および生後の精巣内の生殖細胞を対象として、DNAのメチル化について全ゲノム的な調査を実施したところ、精子形成に必須な複数の遺伝子が、DEHP投与により高メチル化し、そのいくつかは胎仔期から生後にかけて一貫して高メチル化状態を保っていることが判明したという。
それらの遺伝子について、生後精巣の生殖細胞での発現が調べられたところ、精子形成に必須な3種類の遺伝子の発現が、母胎DEHP投与により低下していることが判明したほか、培養細胞を使った実験でも、これらの遺伝子にDNAメチル化を起こすことで、その発現が低下することが確認されたという。
なお、今回の研究成果は、化学物質により生殖細胞で誘導されるDNAメチル化異常が男性不妊の原因の1つとして関与する可能性を示唆するものであり、研究チームでは、今後の研究により、不妊予防のための足がかりになることが期待されるとしている。