ispaceは7月14日、オンライン記者会見を開催し、同社の月面探査計画「HAKUTO-R」の開発状況について報告した。HAKUTO-Rでは、最初の「ミッション1」でランダーによる月面着陸を実施する予定だが、熱構造モデル(STM)による環境試験が完了。今後フライトモデル(FM)の組み立てを本格化し、2022年後半の打ち上げを目指すという。

  • ispace

    HAKUTO-Rランダーの熱構造モデル(STM)。金色のMLI(多層断熱材)で覆われている (C)ispace

ispaceは、人類の生活圏を宇宙に広げることを目指しており、月面探査ミッションを継続的に実施していく計画。ミッション1に続いて2023年に実施する「ミッション2」では、自社開発のローバーを搭載し、月面探査まで行う予定だ。

民間企業がこのような野心的な宇宙探査ミッションを行うときに、大きな課題となるのは「資金」と「技術」だ。資金については、同社はシードラウンド、シリーズA、シリーズBを通してすでに累計約140億円もの調達に成功しており、当面は問題無い。HAKUTO-R実現のためのカギとなるのは、ランダー開発の技術である。

宇宙では故障しても修理に行けないため、宇宙機には高い信頼性が求められる。しかし、宇宙環境は過酷だ。打ち上げ時の激しい振動。日向と日陰で数100℃も変わる温度差。そして真空。地上では、機器の冷却にはファンなどが利用できるが、真空中ではこの対流が使えず、効率の悪い熱放射で温度をコントロールするしかない。

こういった宇宙特有の問題をちゃんと解決できているかどうか、確認するのが試験モデルの役割だ。同社は2021年4月より、成田空港そばの日本航空の施設内にて、熱構造モデル(STM)の組み立てを開始。環境試験(振動試験、音響試験、熱真空試験)を行い、大きな問題も無く、クリアすることができたという。

  • ispace

    振動試験の様子。ランダーを試験台の上に設置し、打ち上げ時の振動を再現する (C)ispace

  • ispace

    音響試験の様子。打ち上げ時の大音響にも耐えられるか、確認する必要がある (C)ispace

  • ispace

    熱真空試験の様子。真空チャンバーに入れ、太陽光を模したランプで熱を加える (C)ispace

同社ランダーの大きな特徴は、構体にCFRP製のモノコック構造を採用していることだ。一般的なアルミボディより軽量化が可能で、その分ペイロードを増やせるメリットがあるが、設計としてはかなりチャレンジング。ただ、同社の下村秀樹CTOによれば、「想定通りの特性で、大きなサプライズは無かった」ということだ。

熱構造モデルによる環境試験の完了は、ランダーの完成に向け、大きなマイルストーンだと言える。次のステージは、実際に打ち上げるフライトモデル(FM)の開発に移るが、同社の袴田武史ファウンダー&代表取締役は、「これでFMを自信を持って組み立てられる。リアルな宇宙機に近づいてきてワクワクしている」と述べた。

  • ispace

    ispaceの袴田武史ファウンダー&代表取締役(左)と下村秀樹CTO(右) (C)ispace

FMについては、ドイツ・ランポルツハウゼンにあるアリアングループの施設において、6月初旬から組み立て作業を開始している。今後、作業をさらに本格化させ、ペイロードの組み立てと統合を2021年末までに完了。最終試験を2022年初めに実施し、その後、打ち上げの場となる米国へ輸送する計画だ。

  • ispace

    FMの組み立てを開始。ここはドイツだが、左上には成功祈願のダルマも写っている (C)ispace

なおミッション1のペイロードとしては、以下の6つを搭載する予定だ。ミッション1はもうこれ以上搭載できないが、ミッション2については容量に余裕があり、まだ募集中。現在、様々な交渉が行われているところだという。

  • 日本特殊陶業の固体電池
  • MBRSC(UAEドバイ政府の宇宙機関)のローバー「Rashid」
  • 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の変形型月面ロボット
  • カナダMCSSのAIフライトコンピュータ
  • カナダCanadensysのカメラ
  • HAKUTOクラウドファンディングのネームプレート
  • ispace

    ミッション1のペイロード。ランダー上部の2カ所に搭載することができる (C)ispace