東京理科大学(理科大)は7月1日、すでに承認されている抗寄生虫薬および抗原虫薬を対象に行ったスクリーニング試験などの結果から、抗マラリア薬「メフロキン」が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の細胞への侵入を阻害し、「ヒドロキシクロロキン」よりも高い抗ウイルス効果を示すことを突き止めたと発表した。

同成果は、理科大大学院 理工学研究科 応用生物科学専攻の塩野谷果歩大学院生、同・渡士幸一客員教授(国立感染症研究所 治療薬・ワクチン開発研究センター 治療薬開発総括研究官兼任)、同・倉持幸司教授、同・山崎雅子大学院生、同・大橋啓史博士(ポストドクトラル研究員)、理科大薬学部 生命創薬科学科の青木伸教授、同・田中智博助教らの研究チームによるもの。詳細は、ウイルス学を扱う国際学術誌「Frontiers in Microbiology」に掲載された。

治療薬を新規に開発し、承認を得るまでには相当な時間がかかるため、新型コロナイウルス感染症(COVID-19)の治療薬の開発においては、既存薬の中から有効な薬剤を見つけ出す「ドラッグリパーパシング(drug repurposing)」(ドラッグリポジショニングとも)というアプローチからの研究が盛んに進められている。

レムデシビルはもともとはエボラ出血熱の治療薬として開発されたもので、ヒドロキシクロロキンは抗マラリア薬として開発されたほか、抗HIV薬のロピナビル、抗ウイルス作用のほかに細胞増殖抑制作用や免疫調節作用を有するインターフェロンなどいくつかの薬剤について、臨床試験で有効性評価が進められている。

クロロキンとその派生薬剤であるヒドロキシクロロキンは、感染細胞において抗SARS-CoV-2活性を示すことから、COVID-19治療薬として流行初期から期待が寄せられてきた。しかし、複数の国で実施された多くのランダム化比較試験からは、クロロキンおよびヒドロキシクロロキンがCOVID-19に対して十分な効果を示すかどうかのコンセンサスがまだ得られていないことから、アメリカ食品医薬品局(FDA)は2020年6月、ヒドロキシクロロキンをCOVID-19治療に用いることを認めた緊急使用許可を取り消している。

ヒドロキシクロロキンが期待ほどの効果を示さなかった要因の1つには、投与によって実際に認められる体内薬物濃度が、著明な抗ウイルス効果を示すほどのレベルには達しないことが挙げられるという。こうした状況から、臨床用量でヒドロキシクロロキンよりも有効性の高い効果を示す薬剤を探し出す必要があった。

そこで研究チームは今回、SARS-CoV-2 Wk-521株に感染させたVeroE6/TMPRSS2細胞を用い、すでにFDA、欧州医薬品庁(EMA)、医薬品医療機器総合機構(PMDA)で承認されている27種類の抗寄生虫薬および抗原虫薬を対象にスクリーニング試験を実施することにしたという。その中で、抗マラリア薬「メフロキン」に用量依存的な抗SARS-CoV-2活性が認められ、ヒドロキシクロロキンよりも高い活性が示すことがわかったという。

さらに、VeroE6/TMPRSS2細胞での感染実験では、メフロキンの50%阻害濃度(IC50)は1.28μM、90%阻害濃度(IC90)は2.31μM、99%阻害濃度(IC99)は4.39μMであることが確かめられた。それに対してヒドロキシクロロキンのIC50は1.94μM、IC90は7.96μM、IC99は37.2μMであり、同等の抗ウイルス活性を示すために必要な濃度はメフロキンの方が低いことも示唆されたとする。

加えて、その阻害作用を調べたところ、SARS-CoV-2の吸着による細胞内への侵入を阻害することが示唆されたとのことで、SARS-CoV-2のウイルスゲノム複製過程を阻害するネルフィナビルとの併用投与を実施。その結果、異なる作用機序の2剤を併用することで、単なる加算以上の高いシナジー効果を得られることも示されたという。

なお今回の研究で作成された数理モデルからも、累積ウイルス量の明らかな減少と、ウイルス排除にかかる時間の顕著な短縮が達成でき得ることが推定されたとしており、これらの結果から、メフロキンは有望なCOVID-19治療薬候補であることが示されたとしている。そのため今後は、生体内での試験や臨床試験を通じて、さらなる有効性の検討が期待されるという。