発売当初から現行iPhone 12シリーズの中でもっとも販売が振るわないと言われているのが「iPhone 12 mini」(以下、12 mini)です。シェアはiPhoneの総販売数の6%前後という報道が多く、もっともハイエンドな「iPhone 12 Pro Max」(以下、12 Pro Max)の20%前後と比べても圧倒的に数字が低いことから、一番の「ガッカリ端末」だと評されています。あまりに売れないので早々に生産終了になった…との噂も出てきています。
しかし、初めに言っておきますが、12 miniは決して出来の悪い端末ではありません。むしろ、私個人は12 miniこそが12シリーズの中ではもっとも優れたiPhoneだと感じています。本来、もっとも売れるべきiPhoneであるとさえ思えるのです。それはなぜなのかを今回はお伝えしたいと思います。
中身はminiじゃない
最新の12シリーズは、12 miniに加えてiPhone 12(以下、12)、iPhone 12 Pro(以下、12 Pro)、iPhone 12 Pro Max(以下、12 Pro Max)がラインアップされています。12 miniは、12シリーズの特徴といえる5Gへの対応、圧倒的な性能を誇るA14 Bionicの搭載、高画質の有機ELを採用したSuper Retina XDRディスプレイの採用など、あらゆる面で最新仕様のiPhoneとなっています。12と異なるおもなポイントは、①本体+画面サイズが小さいこと、②バッテリー容量が少ない(バッテリー駆動時間が短い)こと、③MagSafe充電が12Wであること(12、12 Pro、12 Pro Maxは15W)だけ。
一方、12 Proや12 Pro Maxと比べると、①本体+画面サイズとストレージが小さいこと、②望遠レンズがないこと、③デジタルズームの倍率が低いこと、④LiDARスキャナが非搭載、⑤ProRAWやナイトモードポートレートに非対応、⑥メモリー容量が少ないこと、⑦バッテリー容量が少なく、MagSafe充電が12Wであること、がおもな違いです(カラーラインアップの違いやボディデザイン+素材の違いは割愛します)。
“mini”という名前がつき、世間で“ガッカリ端末”とか言われると、どうしてもなにかに劣ると思われがちですが、それはまったくのナンセンス。iPhone 11やXS、Xシリーズ、またはもっと古い8や7シリーズから乗り換える場合には、飛躍的な進化を感じられるはずです。
その差ってホントに大事?
とはいえ、12や12 Pro、12 Pro Maxと比べれば、わずかでも劣る点はあるじゃないかと思う人もいるでしょう。ただ、ここで言いたいのは「その差って本当に重要ですか?」(デメリットですか?)ということです。
バッテリー容量に関しては、ビデオ再生でほかの機種と比べて2~5時間の差がありますが、それでも最大15時間は可能ですし、そもそも充電せずに連続してそんなにiPhoneを使うことがあるでしょうか。机の上でこまめに充電したり、眠る前に充電したりするのが普通の使い方だと思いますし、たとえ朝から1日外出していても普通に使っている限りでは40%くらい残っていますので、特に大きな問題は感じません(12や12 Proと比べると2時間くらい、12 Pro Maxと比べると3時間くらい持ちが短いイメージです)。また、MagSafeの充電は12Wですが、本体のバッテリー容量は少なく、急速充電に対応していることから問題はありません。充電開始してから30分程度で50~60%くらい充電されます。
さらに、カメラの性能に関しては12 Proや12 Pro Maxと比べると差があるとはいえ、12と同じ最新世代のカメラですし、十分綺麗に撮影できます。何度か12 ProやPro Maxに搭載されている望遠モードやズーム機能、ProRAWなどを使ったことはありますが、最初は珍しくて使うものの次第に使わなくなってしまいます。普段は、私のように、撮影モードを気にせずにシャッターボタンを押すだけの人が多いのでは? もちろん、センサーサイズが大きかったりで写真はよりきれいなんでしょうが、それを言い始めると、来年のiPhone 13はもっときれいになると思うので、あまり気にしても仕方ないと思います。
画面サイズとストレージ問題
そうなると、一番のネックはストレージ容量と画面サイズと思われるかもしれませんが、ここで12シリーズの価格を確認しておきたいと思います。Appleオンラインでのそれぞれストレージがもっとも少ないモデルの価格は、12 mini(64GB)が82,280円、12(64GB)が94,380円、12 Pro(128GB)が117,480円、12 Pro Max(128GB)が129,580円~です。12 miniと比べて12は12,000円ほどプラス、12 Proと12 Pro Maxは35,000円~47,000円プラスされますが、その価格に見合うほどストレージ容量と画面サイズは重要でしょうか?
もちろん、絶対にYesというなら仕方ありませんが、私の場合はそもそも必要ありません。ストレージ容量は40GB程度しか使っていませんし、写真などはクラウドに保存しているので大量にストレージを消費しません(足りなければiCloudを追加することもできます)。あればあるほど使い、なければないなりにどうにかなるのがストレージ容量だと思っています(むしろ「足るを知る」うえでは少ないほうがいいかも)。
画面サイズに関しては、12 miniでも2340×1080ピクセル(476ppi)ありますし(iPhone 11 ProやiPhone XS、X相当)、広い画面で見たいなら横向きにすれば十分です。1画面に表示される情報量は少なめですが、スクロールをすれば済みます。動画や電子ブックなどのコンテンツを広い画面で見たいならば、それはiPadやMacで楽しめばいいのです。
デメリットに勝るメリット
ここまで、12 miniが見劣りするポイントを中心に見てきましたが、ここからは12 miniのメリットを強調したいと思います。
まず、12 miniは本体+画面サイズが小さいため、圧倒的に軽いです。重さは148gで、ほかの機種と比べて40~80gも違うので、持っていて疲れません。小型ボディはケースを付けていてもポケットに簡単に入れられ、取り出しやすい点も好印象です。何より、片手でラクラク操作できます(12でも持ち手を移動するか、両手にしないと画面端のメニューは片手だけで操作できません)。
もちろん、人によってはこれこそがわずかな差で重要ではないと思うかもしれません。感覚的な部分もありますので、それを否定する気はありませんが、少なくとも私の場合、大型のiPhoneは操作が煩雑になり、逆に操作スピードが遅くなり、落下するリスクなども大きくなると感じています。iPhoneはもう十分高機能なのですから、機能や性能、画面サイズ云々よりも、持ち運びのしやすさや操作性といったエクスペリエンスのほうがむしろ重要なファクターではないでしょうか?
総じて、12 miniが仕様上見劣りする点は決してデメリットとはいえないと思います。むしろ、そうしたデメリットに勝るメリットが12 miniにはありますし、それでいて価格がもっとも安いのですから、12シリーズの中ではベストな端末であると感じるのです(ちなみに、私の手の大きさは成人男性の普通サイズ。12や12 Pro、12 Pro Maxも片手でラクラク操作できる大きな手の人は、miniは逆に使いづらいのでメリットにはならないと思います)。
我がiPhoneの悲劇
というわけで、ここまで12 miniを褒めちぎってきましたが、実は12 miniを推す理由は別にもあります。端的に言えば、「最近のiPhoneってコスパが悪すぎる」と感じていて、それを皆さんにも問いかけたいのです。
たとえば、なぜ12シリーズの中で12 mini以外を選ぶのか? もちろん、そこにしっかりとした理由があればいいのですが、Appleのマーケティング戦略に乗せられていたり、Storeの店員さんの勧めるがままだったり、「高いのが一番」「大は小を兼ねる」「真ん中が安心」みたいな固定概念にとらわれて何となく購入した人もいるのではないでしょうか。
というのも、まさに以前の私がそうだったから。初代モデルから現在の12シリーズに至るまで数年ごとにiPhoneを買い替えてきましたが、昔はiPhoneが年々進化するのが嬉しくて、最新機能の便利さを享受するために(あとは所有欲を満たすために)「とにかく一番スペックの高いモデルを!」と買っていました。しかし、10や11シリーズあたりからiPhoneの進化が鈍化し、高価格化するにつれ、なんか違うのでは…?と感じ始めたのです。
そんな違和感が確信に変わったのは今年の初め。買ったばかりのiPhone 11をうっかり落としてしまい、画面やボディがバキバキに。ProやPro Maxを選ばずに標準の11だったとはいえ、価格は10万円近い端末です。割賦契約の分割支払いはだいぶ先まで残っていて、Apple Careに未加入だったため修理費用も高額…。そして、さらに立て続けに数回落としたあたりで、ようやく気づいたのです。「これからは安いiPhoneを選ぶのが一番賢い時代なのでは」と。
もちろん、お金を気にせずに修理費用を払えば済みますし、Apple Careをはじめとする各種サポートに加入していれば大きな問題に感じなかったと思うので、それゆえminiが一番良いという結論に結びつけるのは無理があるのは承知です。一番高いスペックのものを購入して長く大切に使い続ける、のだって悪いことだとは思っていません。
ただ、それはそれとして、最近のiPhoneは高すぎるという事実は多くの人に納得してもらえるのではないでしょうか。そのために①気軽に買い替えできない、②カジュアルに使えない、③故障や破損のリスクが大きい(リスクを減らすにはApple Careなどの追加費用を払わないといけない)というデメリットがあります。加えて、そうしたデメリットの反面、①大きな恩恵を感じるほどの進化には欠ける、②新機能すべてを使わない、③機能が増えたことで複雑化している、のもマイナスに感じます。
あの頃のiPhoneをもう一度
思い起こせば、初代iPhoneや3G、3GSはどんなポケットにも入れられ、もっと気軽に使え、コストパフォーマンスも抜群だったような気がします。それから時代を経て、現在の方向へ進化することが本当に必然だったのか? 年々進化が望めなくなるのが工業製品の常としても、むしろ違うベクトルで進化することができたのでは、と思わずにいられません。
私たちも、毎年秋の新iPhoneの性能・機能向上に一喜一憂する前に、一度立ち止まって、現在のiPhoneの性能・機能の棚卸しをしてみる必要があると思っています。つまり「いつ、どんなときに、どのような用途で自分はiPhoneを使うのか」を今一度じっくりと考えてみることです。
私の場合、電話したり、メールやネット、SNSを見たり、メモやリマインダーを使ったり、ときどき写真を撮ったりするくらいで、それこそ初代iPhoneにそれなりのチップが搭載されていれば(感覚的には数万円の端末で)十分な気がします。君の使い方が悪い!もっと活用しないと!と言われればそれまでですが、少なくとも10万円+通信料金の恩恵は昨今のiPhoneから感じていません…。皆さんはどうでしょうか?
ですから、なんとなく世の中にはびこっている「スマホは価格やスペックがある程度高いほうがいい」といった考えは、プロフェッショナルの道具として使う場合を除いて、今の時代むしろ逆なんじゃないかと感じるわけです。その分、浮いたお金をiPadやMac、またはその他に費やしたほうがトータルとして幸せなのではないかとも(iPhone1台ですべてを賄うというなら話は別ですが…)。
ということで、賛同してくれる人がどれくらいいるかは分かりませんが、少なくとも私は12シリーズでは12 miniを選びます。また、実をいえば12 miniでもコスパは悪いと感じているので、これからはSE 2やモデル落ちの旧機種でも十分なのかもしれませんし、高いと文句を言うなら新しいモデルはしばらく買わなければいいのかもしれません。
ただ、新しいiPhoneは今後も登場するでしょうから、必要以上に高機能化・高性能化・高価格化することが本当に消費者の求めていることなのか。Appleはユーザーをしっかり見る会社ですから、その選択の一部は私たちの中にもあると感じていますので、問題提起したいわけです。たしかに、iPhoneはパソコンと同様にもはや頻繁に買い替えるような製品ではなく、1台を長く使い続けることが求められ、高価であることはある意味仕方ないのかもしれません。
とはいえ、パソコンと違って毎日持ち歩くモバイルデバイスなのですから、別の進化のベクトルとして「もっとも優れたiPhoneはもっともリーズナブルなiPhoneである」といった価値転換が行われてもいいと思います。少なくとも、私が感じている現在のiPhoneのコスパの悪さを改善する何かを、さまざまな常識を破ってきたAppleにこそ実現してもらいたいと願っています。