障害などで外出の困難な人達がパイロットとしてロボットを動かし、接客してくれるという「分身ロボットカフェDAWN ver.β」常設実験店が6月21日、東京・日本橋エリアにオープンした。同カフェはこれまで、期間限定での実施はあったものの、常設は今回が初めて。新型ロボットとして、コーヒーをいれられる「テレバリスタ」も導入した。

  • 分身ロボットカフェDAWN ver.β

    テープカットには、分身ロボット「OriHime-D」も参加。パイロット代表の三好史子さんが島根県から操作している

分身ロボットカフェの狙いとは?

同日の午前には、オンライン形式でのオープニングセレモニーが開催。分身ロボットカフェを主催してきた吉藤オリィ氏(オリィ研究所 代表取締役CEO)が挨拶に立った。

吉藤氏はまず、分身ロボットを開発することになった経緯から紹介。きっかけは、自身が子供の頃、不登校になったことだった。このとき、「なぜ人間は体が1つしかないのか。体が1つしかないから、体調が悪いと、学校で勉強したり旅行に行ったり、思い出が作れなくなってしまう」と思ったという。

「もう1つの体」としての分身ロボット「OriHime」を作っていたとき、出会ったのが頸椎損傷で20年以上寝たきりだった番田雄太氏。親友となった番田氏は秘書として、毎日OriHimeを使って出社していたが、「秘書ならコーヒーくらいいれてくれ」「じゃあそういう体を作ってくれ」という雑談がきっかけとなり、自走可能な「OriHime-D」の開発が始まった。

2018年11月には、2週間という短期間ながら、第1回目の分身ロボットカフェを開催。その後も、2019年10月、同12月、2020年1月と実施し、試行錯誤を繰り返しながら、念願だった常設店の開設にこぎ着けた。

  • 分身ロボットカフェDAWN ver.β

    オリィ研究所 代表取締役CEOの吉藤オリィ氏

ただ吉藤氏は、「ロボットやカフェを作りたかったわけではない」と述べる。分身ロボットカフェで本当に実現したかったのは、障害者など外出が困難な人達に対して、「働く」という選択肢を提供することだ。

番田氏は残念ながら、分身ロボットカフェの実現を前に亡くなってしまったが、生前、「外出できないことによる一番のデメリットは、出会いと発見が無いことだ」と語っていたという。

コロナ禍によりテレワークという働き方も一般化した今、「外出できなくてもネットで働けるだろう」と思う人が多いかもしれない。しかし、今まで働いたことが無い人が、いきなりテレワークで仕事を見つけられるかというと、それはかなり難しい。しかも障害者となれば、それはなおさらだ。

分身ロボットカフェは、その最初のステップとして考えられたもの。ここで働き、さまざまなお客さんと出会っているうちに、自分のやりたいことや、できそうなことを見つけられるかもしれない。分身ロボットカフェはパイロットの引き抜きも大歓迎とのことで、実際、これまでに多くのパイロットが他の企業に就職したという。

常設店には、50名のパイロットが勤務。島根県から参加した三好史子さんは、「私は生まれつきの難病で、自分で体を動かすことが難しい。分身ロボットカフェに出会うまでは、自分に接客ができるなんて、一度も考えたことが無かった。しかしカフェで働くようになってからは、人との繋がりが格段に増えて、できないことはないと思えるようになった」と話す。

  • 分身ロボットカフェDAWN ver.β

    常設店の内部。この右側手前がOriHimeが働いているエリアとなる

吉藤氏は、「人は生きている限り、いつか外出困難になる。それは病気かもしれないし、社会情勢かもしれない。そのときに、自分らしく生きられるロールモデルが無い」と、問題点を指摘。分身ロボットカフェは、そのための取り組みでもあり、障害者だけではなく、「全人類に当てはまること」だとした。

ところで常設店になっても、分身ロボットカフェの名称に「ver.β」が付いたままだが、これには「完成形ではない」という意図が込められている。吉藤氏は「このカフェが提供できる最大の価値は失敗。今後も大量の失敗を作りながら、新しい実験を繰り返していきたい」と意気込みを述べた。

常設店の内部の様子を早速レポート

同日の午後には、常設店のプレス公開が行われた。分身ロボットによる接客も体験できたので、ここでレポートしたい。

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    常設店は、昭和通りと江戸通りの交差点という好立地。JR新日本橋駅が最寄り駅となる

常設店は、3つのエリアで構成される。

メインとなるのは「OriHime Diner」だ。各テーブルにはOriHimeが配置されており、パイロットとの会話を楽しみながら、食事やドリンクのオーダーが可能。今回はアイスコーヒーを注文したのだが、しばらくすると、別のパイロットが操作しているOriHime-Dが運んできてくれたので、トレーからは自分で受け取る。

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    テーブルにはOriHimeが置いてある。パイロットと双方向で会話できるほか、タブレットに各種情報も表示できるようだ

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    OriHime-Dがコーヒーを運んできた。トレーはボディに固定されていて、ロボットの腕は使っていないが、ちゃんと動くとのこと

短時間の取材だったため、あまりゆっくりと話ができなかったのは残念だが、OriHimeを介したコミュニケーションは、驚くほど違和感が無かった。これは、筆者がZoomなどによるオンラインミーティングやVRChatなどによるアバター体験に慣れていることもあるかもしれないが、OriHimeでしっかり人の存在が感じられることが大きいのだろう。

OriHime Dinerは、時間入れ替え(75分)の予約制。前日までに予約する必要があるので、忘れないよう注意して欲しい。

そして常設店の大きな特徴と言えるのが「BAR & Tele-Barista」である。ここでは、カワダロボティクスの双腕型協働ロボット「NEXTAGE」とOriHimeを連携させたテレバリスタが稼働。元バリスタのパイロットがお客さんの好みを聞いてから、コーヒーとチョコレートを出してくれる。

テレバリスタのデモ。OriHime同士で会話している様子も楽しい

コーヒーは、人間が手動でいれるのと同様の手順の本格派。基本動作はNEXTAGE側でプログラムされているが、最後まで全自動というわけではなく、パイロットが18個のボタンから動作を選び、操作を行っているそうだ。こちらも利用には予約が必要で、時間入れ替え制(45分)となっている。

  • 分身ロボットカフェDAWN ver.β

    これがテレバリスタ。NEXTAGEの肩にOriHimeが乗っているのが可愛らしい

  • 分身ロボットカフェDAWN ver.β

    コーヒーを入れたりお湯を注いだりといった一連の動作はすべてこのハンドでこなす

3つめの「CAFE Lounge」だけは、予約無しで利用が可能だ。OriHimeがいるエリアへの立ち入りはできないものの、席から様子は見える。コーヒーや軽食を注文できるので、まずは予約無しで気軽に立ち寄ってみるのも良いだろう。