米国立電波天文台(NRAO)は6月8日、アルマ望遠鏡を用いて2013年から2019年まで実施された「PHANGS(Physics at High Angular Resolution in Nearby GalaxieS)プロジェクト」により、近傍宇宙の90の銀河にある星形成領域である分子雲10万に対し、それらが親銀河とどのような関係にあるのか系統的な分析を実施し、これまでの科学的見解に反して星の生育環境はそれぞれ異なっていることが明らかになったと発表した。

  • アルマ望遠鏡

    アルマ望遠鏡は、近傍銀河の分子雲から放出される電波を検出。90の銀河が観測され、この画像はそのうちの一部の銀河をまとめたもの (c) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/PHANGS, S. Dagnello (NRAO) (出所:アルマ望遠鏡日本語Webサイト)

同成果は、米オハイオ州立大学のアダム・リロイ准教授(論文主著者)、独・マックス・プランク天文学研究所のエヴァ・シネラー氏(PHANGSプロジェクト主任研究者)、米・カーネギー研究所のギジェルモ・ブラン氏、NRAO/アルマ望遠鏡プログラムオフィサーのジョセフ・ペシェ氏、仏・IRAPのアニー・ヒューズ氏、米・アルバータ大学のエリック・ロゾロウスキー准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は10編の論文、6月7日から9日にかけて開催された第238回米国天文学会にて発表され、観測結果は米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」のサプリメントシリーズで受理されているとのことである。

星は、星間ガスやダストなどが漂う分子雲の中で誕生することが知られているが、分子雲は非常に巨大であり、その中では数千から数万個もの新しい星が形成されていく。

そうした星の生まれる場所の性質は、これまでどの銀河のどの場所でもほぼ同じと考えられてきた。しかしPHANGSプロジェクトが、光学写真と同等のシャープさと高い品質を持つアルマ望遠鏡のミリ波画像を用いて、天の川銀河周辺の90の銀河に存在する、合計10万にも及ぶ分子雲を詳細に撮影。ハッブル宇宙望遠鏡の撮影画像との比較観察などを実施した結果、分子雲ごとにその性質が異なっていることが明らかとなったという。

さまざまなタイプの銀河における星形成をより深く理解するため、銀河円盤、中心の棒状構造、渦状腕、銀河中心部における分子ガスの性質や星形成プロセスの共通点と相違点が分析された。その結果、星形成には場所が重要な役割を果たしていることが明らかとなった。どのようにして星が生まれるのかという問題に対し、銀河全体による影響ではなく、渦状腕の環境が小さいながらも影響を与えることが判明したのである。つまり、分子雲の性質は、銀河内の場所によって異なることが明らかとなったとする。

  • アルマ望遠鏡

    今回観測された銀河の1つである「NGC4254」。ハッブル宇宙望遠鏡のデータに、アルマ望遠鏡で撮影されたオレンジと赤の分子雲のデータが合成された画像。やや非対称の渦巻構造が見て取れる (c) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/PHANGS, S. Dagnello (NRAO) (出所:アルマ望遠鏡日本語Webサイト)

たとえば、銀河の中心部にある分子雲は、銀河の外側にある分子雲よりも質量が大きく、密度が高く、乱流が激しい傾向がある。また分子雲も永遠に存在するわけではなく、ライフサイクルがあり、それも環境に左右されるという。雲がどのくらいの速さで星を作るか、そして最終的に雲を破壊するプロセスも、その雲がどこにあるかによって異なることが、PHANGSプロジェクトで見えてきたという。

  • アルマ望遠鏡

    今回観測された銀河の1つである「NGC4535」で、中心に棒状構造のあるグランドデザイン渦巻銀河。グランドデザイン渦巻銀河とは、渦状腕が明確に観察できる渦巻銀河のこと。ハッブル宇宙望遠鏡と今回アルマ望遠鏡で撮影されたデータの合成画像 (c) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/PHANGS, S. Dagnello (NRAO) (出所:アルマ望遠鏡日本語Webサイト)

ただし、PHANGSプロジェクトですべての謎が解けたというようなことはないともする。多くのことが理解できた一方で、新たな別の疑問も生じたという。星の誕生過程が場所によって異なることは明らかとなったが、そこで生まれる星や惑星にどのように影響を与えるのかはまだわかっていない。その疑問については、近い将来に解決したいと論文主著者のリロイ氏はコメントしている。