アップルの音声アシスタント「Siri」(シリ)は、iPhoneやiPadのユーザーにとって馴染みの深い機能だと思います。小さくて高音質なスマートスピーカー「HomePod mini」もSiriを搭載していますが、今年後半以降にHomePod miniのSiriが一段と使いやすくなります。アップルの年次世界開発者会議「WWDC21」では、Siriによる音声操作に対応するアップル以外のスマートホーム製品が誕生することも明らかにされました。「家のナカで使うSiri」がますます便利になりそうです。

  • WWDC21では、Siriに関連する数々のアップデートが発表されました。HomePodシリーズを使って家のナカで活用できるSiriもますます便利になりそうです

iPhone/iPadのSiriは音声操作がかなり速くなる

アップルは今年のWWDCで、独自の音声アシスタント「Siri」に関連する多くのアップデートを発表しました。例えば、秋に提供を予定する次期OSから、Siriによる機械学習処理の多くが、インターネットにつないでクラウドとの連係を必要としないオンデバイス処理に移行し、パフォーマンスが大きく向上します。

Siriによる処理を可能な限りクラウドを介さずに行うことで、ユーザーのプライバシーがより強固に護られ、また複雑な機械学習を活用するタスクをiPhoneやiPadのデバイス上で迅速にこなせるようになります。近年のアップル製デバイスが搭載するチップに、機械学習関連の処理に特化した強力なNeural Engineが統合されたことが、今回のSiriによる音声操作の大きな飛躍をもたらしています。

  • デバイス上でさまざまなSiriによる音声操作を完結できるようになることで、例えば電波の届かない場所でSiriの機内モードやダークモードを起動することも可能になります

オンデバイス処理によるSiriの音声操作ができることは、例えばアプリを起動したり、端末の設定変更、メディアの再生など多岐に渡ります。例えば、写真アプリのアルバムにお気に入りの画像を見つけたら、Siriでメッセージアプリを開いて添付し、コメントを添えて友人に送る、といった一連の操作が音声によりスムーズにできます。iPhoneがネットワークに接続されていない飛行機の中で、iPhoneを機内モードやダークモードに切り換えるといったことも可能です。きっと多くの場面でメリットが感じられることでしょう。Siriのオンデバイス処理による音声操作の高速化は、A12 Bionicチップ以降を搭載するアップルのデバイスと今秋以降の新製品で真価を体験できます。今からとても楽しみです。

  • 秋にアップデートされるSiriは、さまざまな音声操作に対応して、さらに強力なAIアシスタントになります

HomePodのSiriは複数ユーザーの声を聞き分けられるようになる

さて、アップルのスマートスピーカー「HomePod mini」にも搭載されているSiriには、どんなアップデートがあるのでしょうか。

  • アップルのSiriを内蔵するスマートスピーカー「HomePod mini」に関連するアップデートも発表されました

ひとつは、テレビに接続してApple TVやApple Music、Apple Arcadeなどさまざまなコンテンツが楽しめるメディアプレーヤー「Apple TV 4K」との連係が進化されます。HomePod miniによる「声の操作」でApple TVの動画コンテンツを選択したり、再生コントロールができるようになります。こちらの機能は、春に発売された第2世代のApple TV 4Kに同梱される新しいSiri Remoteでますます使いやすくなった音声操作とありがたみが多少かぶりますが、上手に使い分ければ、Siri Remoteが見つからなくてもHomePod miniに話しかけてより素速く、意中のコンテンツにアクセスできるメリットが実感できると思います。

こちらよりもさらに筆者が注目するのは、HomePod miniが「声によるユーザー認証」ができるようになることです。これはつまり、HomePod miniのSiriが話しかけられた声を「誰のもの」であるか認識して、最適な応答を返せるようになることを意味しています。

例えば、家族がそれぞれの声をHomePod miniに登録しておけば、Siriに「カレンダーの予定」を聞くと、それぞれのカレンダーに登録されている予定やリマインダーを読み上げてくれます。あるいは、Apple TVやApple Musicのエンターテインメントコンテンツもユーザーの声を聞きわけて、各自にキュレーションされた「おすすめのプレイリスト」を表示します。声紋の登録は、おそらくHomeアプリから行うことになるのだと思います。

HomePod miniの声紋認識は、当初英語から対応が始まり、徐々にHomePod miniが発売されている各国の言語に対応を予定しています。日本語の対応時期は未定ですが、“なる早”でお願いしたいところです。

アップル製ではない「Siri対応製品」が増える

Siriがこの秋以降、アップル以外の製品に内蔵されて、広く搭載が増えることになりそうです。

WWDCの基調講演では、アップルによるスマートホームIoTのプラットフォームである「HomeKit」に対応するアクセサリーを手がけるメーカーが第1号になると触れられていました。時期は今年の後半以降を見込んでいるそうです。

  • アップル以外のサードパーティーのメーカーから「Siri内蔵」のデバイスが商品化。今年の後半以降に続々と誕生することが明らかになりました

基調講演ではさらに、サードパーティー製品のSiri対応について「ユーザーが発した音声コマンドは個々のデバイスメーカーのサーバーを経由することなく、HomePodに送られる」と説明しています。アップルの厳格なプライバシーポリシーを守り貫くために、「他社まかせ」になる部分を排除して、ユーザーが安全・安心に製品やサービスが使える環境をアップルが徹底管理するという仕組みが採用されることになりそうです。

このような仕組みを採用することで、例えばSiriの応答速度や精度にバラつきが発生することを防ぐ効果はあると思います。でも一方で、サードパーティのメーカーによる「Siri対応デバイス」は、あくまでホームネットワークに接続されている音声入力用のマイク的に機能するだけで、結局はHomePodシリーズやアップルの音声入力操作に対応する何かしらの制御を行うデバイスが必要ということになると、Siriによるスマートホームのエコシステムはアップルが期待するほど広がらないのではないかと、筆者は気がかりに思うところもあります。アップルにとってライバルであるグーグルやアマゾンは、それぞれのAIアシスタントをビルトインする製品が数多くのメーカー、カテゴリーから誕生したことによって足場を強固にすることに成功してきたからです。筆者も単純に「Siriをビルトイン」したテレビやスピーカー、生活家電が数多く誕生した方が盛り上がりそうな気がしてなりません。

これは筆者の勝手な期待ですが、せめてワイヤレスオーディオ専用にApple H1のような独自の新しいSoCを立ち上げて、Beatsやその他のメーカーにこれを提供することで、より個性的なSiri内蔵スピーカー、あるいはSiriを内蔵するスマートディスプレイの誕生を促すことができないものでしょうか。筆者は、同価格帯のワイヤレススピーカーの中ではHomePod miniのサウンドに満足していますが、他のオーディオ専業メーカーであれば、どんなSiri搭載のスマートデバイスをつくるのかとても興味があります。

  • Connectivity Standards Allianceが策定した「Matter」に対応する製品もHomeKitのプロトコルと連係。アップルの製品で操作できるようになります

アップルのほか、グーグルにアマゾン、その他大手IT企業も参加するConnectivity Standards Alliance(旧 Zigbeeアライアンス)が策定、今年の春に発表したスマートホームの新しい相互運用規格である「Matter(マター)」に対応する製品も今年の後半には発売を迎えることになりそうです。現在のHomeKit対応アクセサリーと同様の操作感でアップル製品とスムーズに連係するというMatter対応製品がグーグルやアマゾンのプラットフォームにもつながって、ユーザーにどんな“便利”を実感させてくれるのか注目したいと思います。