順天堂大学は6月9日、正常体重の日本人男性約100名を対象にした調査を実施し、アルコールに強い遺伝子型を持った人は、飲酒量が多くなることで肝臓のインスリンの効きが悪くなり、空腹時血糖値が高くなる可能性があることを明らかにしたと発表した。
同成果は、順天堂大 大学院医学研究科 代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターの田村好史先任准教授、同・河盛隆造特任教授、同・綿田裕孝教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国内分泌学会雑誌「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism 」にオンライン掲載された。
日本人を含む東アジア人は、肥満でなくても糖尿病になりやすいことが知られている。実際、東アジア各国の2型糖尿病患者の平均体格指数(BMI)は25kg/m2未満であることが多く、その原因の一部は、東アジア人の遺伝的素因が関係していると考えられている。
この点に関して、近年、東アジア人43万3540人のゲノムワイド関連研究が行われたところ、アルコールへの耐性(強さ)を規定する遺伝子型として知られている「ALDH2遺伝子多型」が、男性の2型糖尿病の疾患感受性遺伝子として新たに同定された。アルコールに強いタイプの遺伝子型を有する男性は、糖尿病になりやすいことが明らかとなったのである。
しかし、アルコールに強い遺伝子型であるとなぜ糖尿病が発症しやすいのかは、不明な点が多く残されていた。そこで研究チームは今回、その機序の解明を目指した研究を実施することにしたという。
今回の研究では、BMIが正常範囲内(21~25kg/m2)の日本人男性94人を対象に、ALDH2遺伝子型と、インスリン感受性や代謝における各パラメーターとの関連性について評価が実施された。
その結果、アルコールに強い遺伝多型(ALDH2 rs671G/G)を持つハイリスクグループ(53名)では1日に18.4g(中央値)のアルコール(ビール370ml程度)を摂取し、そのほかの遺伝子型(ALDH2 rs671G/AまたはA/A)であるローリスクグループ(41名)の摂取量12.1g(ビール240ml程度)と比べると約1.5倍となっていたものの、体脂肪量、肝脂肪量や肝機能などにはグループ間で有意な差は認められなかったとした。
しかし、空腹時血糖値はハイリスクグループでは97.5±7.9mg/dLで、ローリスクグループの93.5±6.2mg/dLに比べ有意に高いことが判明。ハイリスクグループでは、太ってはいないものの、飲酒量が多く、空腹時血糖値が高いことが明らかとなった。
そこで、ハイリスクグループにおいて血糖値が高くなるメカニズムの解析が行われたところ、同グループでは肝インスリン感受性と、グルコースクリアランスが低下しており、その一部は飲酒量の多いことが関連していることが判明したという。
実際、ハイリスクグループであっても、飲酒量が1日30g未満であると30g以上の人に比べて空腹時血糖値が低く、肝臓のインスリン抵抗性も比較的良好であることも確認されたという。
これまでの研究から日本人では、特にBMIが22kg/m2以下の男性において、適量の飲酒でも糖尿病のリスクが高まることが指摘されていた。しかし今回の研究において、飲酒習慣のある男性においても1週間の禁酒が、肝臓のインスリン抵抗性の改善と空腹時血糖値の低下をもたらすことが確認されたとのことから、アルコールの摂取量の適切な管理が糖尿病予防に効果があると考えられると研究チームでは説明している。
なお、研究チームは今後、アジア人が太っていなくても糖尿病をはじめとした生活習慣病になりやすい体質の解明と、適切な予防法の開発に向けて取り組んでいくとしている。