新潟大学と理化学研究所(理研)は6月3日、肥満による腸内細菌叢の変化が慢性炎症性歯周疾患(歯周病)における歯槽骨破壊を促進する仕組みを明らかにしたと共同で発表した。

同成果は、新潟大大学院 医歯学総合研究科 口腔保健学分野の山崎和久教授(現・理研 生命医科学研究センター)と理研 生命医科学研究センター 粘膜システム研究チームの大野博司チームリーダーらの共同研究チームによるもの。詳細は、米・微生物学会のオンラインジャーナル「mBio」に掲載された。

日本を含めた先進国を中心に、肥満はさまざまな疾患のリスクを上昇させることから憂慮すべき健康問題となっている。そうしたリスク上昇の中には、口腔内の慢性感染性疾患である歯周病も含まれる。これまでの研究から肥満者は細菌感染症に罹患しやすいことは知られていたが、なぜ歯周病に罹患しやすく、かつ重症化しやすくなるかの詳しいメカニズムはわかっていなかったという。

研究チームはこれまでの研究から、歯周病に関連する細菌が腸内細菌の構成や代謝を変化させ、全身的に軽微な炎症を持続させることを見出し、それが歯周病によるさまざまな全身性疾患のリスク上昇の理由の1つになっていることを報告してきた。また肥満者では、腸内細菌の構成が変化していることが報告されており、こうした先行研究を踏まえ、研究チームでは腸内細菌の変動は歯周病のリスク上昇の要因になっているのではないかとの推測に至ったという。

そこで今回、高脂肪食と普通食をそれぞれ給餌して肥満になったマウスと、通常に発育したマウスの糞便をあらかじめ抗生物質を投与して腸内細菌をほとんど無くしたマウスに移植し、人為的に歯周炎を誘発させたマウスとそうでないマウスに分ける形で実験を行ったという。

  • 歯周病

    実験の概要 (出所:共同プレスリリースPDF)

その結果、肥満マウスの糞便を移植された場合では歯周炎が重症化することが判明。普通マウスの糞便を移植された場合との違いは移植した糞便だけであるため、歯周病重症度の違いは腸内細菌にあると推測。解析を行ったところ、移植された糞の由来により移植後の腸内細菌叢(腸内フローラ)が異なることが明らかとなったという。

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    糞便移植の歯周炎への影響 (出所:共同プレスリリースPDF)

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    各群における腸内細菌叢解析 (出所:共同プレスリリースPDF)

また、移植元のマウスの糞便を解析した結果、肥満マウスの腸内細菌叢ではプリン代謝経路が活性化していることが判明したという。プリン体はDNAを構成する成分であり、飲食物から摂取されるほかに、新陳代謝の過程で古くなった細胞が分解されることでも体内に放出され、それらが肝臓で処理されて尿酸となるが、プリン代謝とはこの過程のことをいう。

このプリン代謝経路を持つ細菌の割合が有意に高くなっていること、これらの細菌は移植後も有意に高い比率であること、歯周炎誘発マウスでは血中のプリン代謝物である尿酸の値が上昇していることが明らかになったという。

尿酸は低濃度では抗酸化作用など体にとって良い作用があるが、高濃度になると、通風などのように炎症を促進することが知られている。そこで、マウスで人為的に高尿酸血症を作り)、歯周炎を誘発すると同時に、肥満マウス糞便が移植されたマウスに尿酸産生を抑制する薬剤(アロプリノール)を投与する形で歯周炎を誘発する実験が行われた。

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    各群の血中尿酸レベル (出所:共同プレスリリースPDF)

その結果、高尿酸血症のマウスでは歯周炎が重症化し、肥満マウス糞便が移植されたマウスではアロプリノールの投与によって重症化が抑制されることが示されたという。

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    肥満マウス糞便移植と歯周炎誘発におけるアプリノールの効果 (出所:共同プレスリリースPDF)

これらの結果を踏まえ研究チームでは、肥満者における歯周炎の悪化は、腸内細菌の変化によりプリン代謝経路が活性化され、産生された尿酸が血流を介して歯周組織での炎症を亢進させることが示唆されたとしている。

肥満者における歯周病治療において、従来の歯科治療に加えて腸内細菌への介入が有効である可能性が示されたことから、歯科治療の際に補助的に併用するプロバイオティクスの探索・開発が期待されるとしている。