米宇宙企業ブルー・オリジンは2021年5月5日、開発中の宇宙船「ニュー・シェパード」の初の有人宇宙飛行を、7月20日に実施すると発表した。

宇宙船には同社の乗員が搭乗するほか、座席のうちひとつをオークションにかけ、広く一般からも搭乗者を募る。

実現すれば、サブオービタル宇宙飛行としては初の乗客を乗せた飛行となる。

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    ブルー・オリジンのサブオービタル宇宙船「ニュー・シェパード」(画像は2019年に行われたNS-12の飛行のもの) (C) Blue Origin

ブルー・オリジンのニュー・シェパード

ブルー・オリジン(Blue Origin)は、Amazon創業者で世界一の大富豪として知られるジェフ・ベゾス氏が立ち上げた宇宙企業で、サブオービタル宇宙船「ニュー・シェパード(New Shepard)」や大型ロケットなどの開発を手掛けている。

サブオービタル(Suborbital)飛行とは、地球を回る軌道に乗らない宇宙飛行のことで、高度約100kmの宇宙空間まで上昇したのち、宇宙空間に数分間滞在し、すぐに地上に帰ってくるような飛行を指す。軌道飛行と比べると飛行時間は短いが、窓から青い地球や黒い宇宙空間を眺めることができ、また船内は微小重力(いわゆる無重力)状態になるため、宇宙にいる感覚を味わったり、宇宙実験を行ったりすることができる。そのため、宇宙旅行から科学実験まで、一定の需要が見込まれている。

ニュー・シェパードは全長約18mの小型の宇宙船で、ロケット部分の「ブースター」と、乗員・乗客が乗る「クルー・モジュール」の2つの部分から構成される。クルー・モジュールには最大6人の乗員・乗客のほか、科学実験装置も搭載できる。

両者は打ち上げ後、上空で分離。ブースターはエンジンを逆噴射して着陸、クルー・モジュールはパラシュートで着陸する。ブースターもクルー・モジュールも再使用が可能で、打ち上げコストの低減が図られている。

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    エンジンを逆噴射させて着陸するニュー・シェパードのブースター(画像は2019年に行われたNS-12の飛行のもの) (C) Blue Origin

ニュー・シェパードはこれまでに4機が製造され、15回の飛行を実施。最初の飛行ではブースターが着陸に失敗した以外はすべて成功しており、またクルー・モジュールの失敗はない。2016年には、飛行中のブースターからクルー・モジュールを緊急脱出させる試験にも成功し、安全性の高さを実証している。

さらに、機体の再使用により2号機は5回、3号機は7回、4号機は2回の飛行に成功している。

2016年からは、米国航空宇宙局(NASA)の実験装置を有償で搭載し、飛行試験を利用した宇宙実験も行われている。

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    パラシュートを開いて降下するニュー・シェパードのクルー・モジュール(画像は今年行われたNS-15の飛行のもの) (C) Blue Origin

いよいよ有人宇宙飛行へ

これまでの試験はすべて無人で行われてきたが、7月20日に予定されている次の飛行で、いよいよ人が搭乗することになった。

同社は「ニュー・シェパードは、複数の冗長性のある安全システムをテストするための、綿密で段階的な飛行プログラムを経て、15回連続して宇宙へ行き、カーマン・ライン(高度100km)を超えて帰ってくるミッションに成功しました。そして、いよいよ宇宙飛行士が搭乗するときがきたのです」とコメントしている。

この初の有人宇宙飛行に搭乗する人数や、誰が搭乗するかなど、詳細はまだ明らかにされていない。

ただ、座席のうちひとつは、オークションにかけ、最高額での落札者に搭乗する権利が与えられるという。オークションの収益は、ブルー・オリジンが主宰する「Club for the Future財団」に寄付し、宇宙で何百万人もの人々が生活し、働けるようにすることを目指した活動に使うとしている。

また搭乗者は、体重が110~223ポンド(約50kg~101kg)、身長が5~6フィート4インチ(約152cm~193cm)であることや、7階建ての発射台の階段を90秒以内に登れること、高いところに抵抗がないことなどが条件となっている。また、クルー・モジュールの中で90分間密閉された状態で過ごせること、打ち上げ時には3G、地球への降下時には5.5Gの荷重に耐えられることなども求められる。

なお、通常のチケットの販売日や、その金額などについても、まだ明らかにされていない。

今回の発表のちょうど60年前、1961年5月5日は、アラン・シェパード宇宙飛行士が、米国初の有人宇宙飛行(サブオービタル飛行)に成功した日でもある。ニュー・シェパードという名前は、まさにシェパード宇宙飛行士に由来している。また、7月20日は「アポロ11」が、人類史上初めて月に到達した日にあたる。

同社は、「60年前の今日、アラン・シェパードはアメリカ人として初めて宇宙へ飛び立ち、歴史を作りました。以来、これまでに600人以上の宇宙飛行士がカーマン・ラインを越えて宇宙に行き、国境のない地球と大気の薄い縁を見てきました。彼らは皆、この経験が自分を変えると言います。アラン・シェパードの歴史的な飛行に敬意を表し、彼の名前をロケットにつけました。その座席は、世界の見方を変えてくれるでしょう」とコメントしている。

サブオービタル飛行をめぐっては、米国のヴァージン・ギャラクティックも有翼機型の宇宙船の開発、試験を進めている。同社はすでに有人での宇宙飛行も成し遂げているが、パイロットと同社の関係者のみであり、一般の乗客を乗せた飛行はまだ行われていない。

ただ、同社も早ければ今年中にもチケットの販売を計画していると伝えられており、サブオービタル市場での競争が始まりそうだ。

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    宇宙空間に到達したクルー・モジュールから見た外の様子 (C) Blue Origin

参考文献

Blue Origin | Bid For the Very First Seat on New Shepard
Blue Origin | Blue Origin Astronaut Experience Auction Official Terms & Conditions
Blue Origin | New Shepard
Blue Origin | New Shepard Auction FAQ