楽天モバイルは4月22日、「iPhone」を公式に取り扱うと発表しました。4月30日にiPhone 12など5モデルを発売します。このタイミングでiPhoneの取り扱いが実現した背景について、考察してみました。

アップルの手がけるiPhoneシリーズは、日本のスマホ市場ではAndroidとシェアを二分するほどの人気があります。先行する国内大手3キャリアがiPhoneを公式に取り扱っている中で、新規参入した楽天モバイルでiPhoneを販売できないことが、同社のウィークポイントの1つとなっていました。

  • iPhone 12の新色パープルが発表された翌日のタイミングで、楽天モバイルがiPhoneの正式発売を予告しました

    iPhone 12の新色パープルが発表された翌日のタイミングで、楽天モバイルがiPhoneの正式発売を予告しました

楽天モバイルがiPhoneの認定キャリアに

楽天モバイルで販売されるのは2020年発売のiPhone 12、iPhone 12 Pro、iPhone 12 Pro Max、iPhone 12 mini、iPhone SE(第2世代)の計5モデルで、販売価格は「4キャリア最安」を謳います。ただし、アップルストアなどで購入できるアップル直販価格よりは高めの価格設定となっています。

発表会のスライドで示された一括価格は、iPhone 12 Pro Max 128GBが141,700円、iPhone 12 Pro 128GBが127,395円。iPhone 12 64GBが101,176円、iPhone 12 mini 64GBが87,712円、iPhone SE 64GBが55,170円でした。

楽天モバイルがiPhoneを正式販売することで、iPhoneユーザーの乗り換え先として選びやすくなりました。ただ、それ以上に楽天モバイルがiPhoneの認定キャリアになったという事実が重要です。他社で販売されたiPhoneシリーズも、iPhone 6s以降なら公式に楽天モバイルの通信網が使えると保証されたのです。

  • 楽天モバイルで発売するiPhoneは5モデル。「4キャリア最安」を大きくアピールしました

iPhoneには「キャリア設定」というシステムがあり、どのキャリアで買ったとしても、認定キャリアの通信網に最適化した通信サービスを提供するなど、特殊な仕組みを採用しています。この仕組みは裏を返せば、認定キャリア以外のモバイル通信サービスはiPhone側のソフトウェア更新で利用できなくなるケースがあるというワケです。

これまでの楽天モバイルでは、iPhoneの動作確認を自社で行っていましたが、これはアップル公認ではありません。楽天モバイルでiPhoneを利用する時は、あくまで「自己責任」で使う必要があったというわけです。

今回、iPhone 6s以降の正式対応が表明されたことで、iPhoneユーザーはより安心して楽天モバイル網を使えるようになりました。

  • 楽天モバイルがiPhoneを発売する4月30日以降、iPhone 6s以降の古いモデルも楽天モバイル回線に対応することが発表されました

また、楽天モバイルでは展開中の一部のエリアでau網のローミング回線を利用していますが、この回線への切り替えも最新iPhoneでは便利になります。iPhone 12シリーズの4モデルでは、アップデートにより、楽天回線とauローミング回線の自動切り替えに対応します。楽天モバイルエリアからauローミング回線エリアに移動した場合も、スムーズに回線が切り替わるようになります。

なお、iPhone 12以前のモデルでは回線の自動切り替えに対応していません。iPhone SE(第2世代)やiPhone 11/iPhone XS世代のモデルでは機内モードのオン・オフといった対策が紹介されています。

iPhone販売の“逆風”が楽天モバイルへの“追い風”に

楽天モバイルにとって、iPhoneの取り扱いには高いハードルがあったはずです。以前のアップルはiPhoneをその強力なブランド力を背景に、iPhoneを取り扱う携帯キャリアを制限していることで知られていました。

しかしここ数年で、日本の携帯電話市場にも大きな変化が起きました。この結果として、楽天モバイルにとっても取り扱いがiPhoneを取り扱いやすくなった、とも考えられます。

  • 最新のiPhone 12シリーズでは楽天モバイルの5G回線にも対応します

その変化とは、総務省による「スマホ値引きの制限」です。2019年10月より適用されたガイドラインでは、携帯キャリアに対して、スマホと通信回線のセット販売での値引きを大きく制限することを求めています。新機種の場合、値引きの上限は税抜2万円とされています。

これは特にアップルにとって“逆風”とも言える厳しい変更でした。制度変更前まで、大手キャリアは高額な販売奨励金をつけて、低価格で販売することで他社からのMNP転入を増やしていました。もともとの高価格帯の人気のiPhoneシリーズは、その売り方があってこそ浸透してきたともいえます。

さらに、総務省のルールでは製造終了後の機種に対して大幅な値引き販売を認めていますが、この点もアップルに取っては不利なルールと言えます。アップルは低価格なスマホを用意しない代わりに、4~5年前のモデルを入門機として販売してきました。この販売方法では値引きができないことになります。(関連記事:「端末値引き上限2万円」の規制にアップルが猛反発する理由

アップルにとって、ハイエンドモデルのiPhone 11/12シリーズは売りにくい状況となりました。その影響もあってか、ここ2年の販売戦略には変化もみられます。アップルが直販するSIMフリー版はこれまでアップル直営のオンラインストアとApple Storeのみで販売されてきましたが、2019年11月にはヨドバシカメラやビックカメラでの取り扱いを開始。

iPhoneを取り扱うキャリアも、大手キャリアのサブブランドを中心に拡大。UQ mobile、ワイモバイルに加えて、BIGLOBEモバイルやJ:COM MOBILE、OCNモバイルONE(goo Simseller)にてiPhoneが販売されるようになりました(調達経路は非公開のところが多いですが、大手キャリア経由の直卸に近いものもあれば、独自ルートで新品を調達しているところもあり、各社で方法があるようです)。

iPhoneはこれまで大手キャリアだけで売られていたプレミアムなモデルですが、近年ではより広い販路で展開していこうというアップルによる戦略の変化が見受けられます。楽天モバイルでの販売が実現した背景には、この変化が追い風となったのかもしれません。