金沢大学(金大)は4月13日、産学官連携のプロジェクトによって開発した「幼児用脳磁計」を活用し、5歳から8歳の知的な遅れのない自閉スペクトラム症の子どもにおいて、音に対する脳の反応が、同年齢の典型的な発達の子どもたちと比較して、早く起こることを明らかにしたと発表した。合わせて、自閉スペクトラム症児では、音に対する脳の反応の早さが言語能力に関与していることも明らかにしたとも発表した。

同成果は、金大 人間社会研究域の吉村優子准教授、同・医薬保健研究域 医学系精神行動科学の菊知充教授、同・子どものこころの発達研究センターの研究者らの研究チームによるもの。詳細は、スイスの科学誌「International Journal of Molecular Science」に掲載された。

自閉症スペクトラム障害は、言語・非言語を用いた社会的コミュニケーションの障害を主徴とする代表的な発達障害として知られている。対人相互作用の障害、言語的コミュニケーションの障害、常同的・反復的行動様式などを示し、その病像は種類や重症度の点で非常に多彩なことが特徴だ。

その原因は、脳における感情や認知といった部分の異常、中でも乳幼児期からの言語発達や人の声などの聴覚情報を処理する能力の不全などが関連していると考えられている。また自閉症的な特性は、重度の知的障害を伴った自閉症から、知的機能の高い自閉症までスペクトラム(虹のように連続的であるという意味)を形成するという考えに基づいている。

研究チームのこれまでの研究から、典型的な発達の子どもたちでは、人の声に対する脳の反応が言語能力に関わっていることが確認されていたが、人の声ではない、音に対する脳の反応と言語能力の関係については明らかになっていなかった。

また海外の研究から、言語発達や知的発達に遅れのある、あるいは学齢期以降の自閉症スペクトラム症では、音に対する脳の反応は、典型的な発達の子どもたちと比べて遅いという報告がされている。しかし、6歳前後の低年齢の、言語発達や知的発達に遅れのない自閉スペクトラム症児では、音によって引き起こされる脳の反応の特徴やその言語能力との関連については明らかにはされていなかったという。

そこで研究チームは今回、この障害の聴覚的な情報処理や言語能力に関与する脳の仕組みを解明するため、自閉スペクトラム症の子どもたちと典型的な発達の子どもたちの脳の特徴を調べ、言語能力との関連が調査された。

実験には、5歳から8歳の自閉スペクトラム症の子ども29名と、典型的な発達の子ども46名が参加。子どもに優しい脳イメージング装置である幼児用の脳磁計(MEG)を用いて、ある1つの周波数の成分だけで構成される「純音」(聴力検査などに用いられる人工音)を聞いているときの脳活動の計測が実施された。

  • 自閉スペクトラム症

    幼児用脳磁計(MEG) (出所:金大Webサイト)

  • 自閉スペクトラム症

    音に対する左半球の大脳皮質活動 (出所:金大Webサイト)

またMEGによって計測された脳の反応と言語能力の関連を調べるため、言語能力の指標として、標準化された認知機能検査(K-ABC)のなぞなぞ課題(言語の概念的推論能力)も実施された。

その結果、言語発達や知的発達に遅れのない自閉スペクトラム症の子どもたちは、典型的な発達の子どもに比べ、音に対して脳の聴覚野で起こる反応が早いことが判明。さらに、自閉スペクトラム症の子どもでは、音に対する脳の反応の早さと言語能力の高さに関連があることが確認されたという。一方、典型的な発達の子どもでは、音に対する脳の反応と言語能力の間には関連が見られなかったとした。

  • 自閉スペクトラム症

    音に対する脳反応の速さと言語能力の関連。自閉スペクトラム症の子どもは、脳の反応の速さと言語能力の間に相関があることが確認された。一方で、典型的な発達の子どもたちにはこの相関は見られない (出所:金大Webサイト)

この結果は、小児期の知的発達に遅れのない自閉スペクトラム症児では、音の処理に関する脳の領域が言語発達に関わっており、典型的な発達の子どもたちに比べて、早熟である可能性を示唆しているという。

これまでの研究から、自閉スペクトラム症者と典型的な発達の人では、脳の成熟の仕方が異なることが示唆されてきたが、より低年齢で、言語発達に関連する脳領域において、発達の仕方に違いがあることが今回新たに示された形だ。今回の研究成果をもとに、自閉スペクトラム症の子どもたちの言語獲得について、客観的理解の促進や特性に合った指導方法の開発といった展開が期待されるとしている。